横浜能楽堂の「本舞台」。150年近い歴史を誇る関東最古の能舞台として知られる=横浜市西区(同能楽堂提供)

横浜能楽堂をご存じですか。ご存じの方が大半だと思いたいのですが、「能楽堂ってなに?」という方もいらっしゃるでしょう。説明させてください。室町時代から650年以上にわたり継承されてきた日本の古典芸能である能・狂言を上演する専門の劇場です。

横浜のような進取の精神に富む街と能楽堂は、ミスマッチだと感じる読者がおられるかもしれません。けれども、能について言えばことのほか横浜との関係は深く、記録として残る横浜での最初の上演は、今から150年以上前となる明治6(1873)年です。

貿易港として発展を遂げた横浜で財をなした者の中には、能の稽古をしていた向きも多く、横浜財界の象徴的人物で横浜松坂屋の創業者としても知られる茂木惣兵衛もその一人です。明治23(1890)年には、そうした財界人らの働きかけで、伊勢山皇大神宮(横浜市西区)に能舞台が建設されています。

横浜能楽堂の建設をめぐっては、横浜の能楽愛好者でつくる団体「横浜能楽連盟」が中心となり、能楽堂の建設を求める市民運動が昭和48年に動き出し、5万人を超える署名や、総額約1億円の募金が集められたそうです。

そうした経緯を経たうえで平成8年にようやく、開館に至ったのです。それ以来、「敷居の低い能楽堂」をコンセプトに、障がい者も健常者と一緒に能・狂言を楽しんでもらおうと、「バリアフリー能」を企画したり、幼い時分から触れ合う機会を提供する「こども狂言ワークショップ」といった普及活動に取り組んできました。

能・狂言と他ジャンルとをコラボレーションさせた企画性や創造性の高い公演など、多彩な活動にも力を注いでいます。

これまで、多くの方に来場していただいた一方、いまだ足を運ばれていない方もたくさんいます。これからはそういった方にも、能・狂言の魅力を伝えていけるようなプログラムができればと思っています。

現在、横浜能楽堂は、大規模改修工事のため、令和8年6月まで休館しています。その間、能楽堂は使えませんが、多くの方に能・狂言の魅力を発信する良い機会と考え、「つなぐ つながる」をテーマに、横浜市の各所で公演や講座などを開催していきます。

18日には、横浜ランドマーク(横浜市西区)と隣接したショッピングモール「ランドマークプラザ」内に、能・狂言を気軽に親しめるスペース「OTABISHO 横浜能楽堂」をオープンします。祭礼の折、神様が一時的に休憩される場所「御旅所」になぞらえ、命名しました。

横浜能楽堂が再開館したときには、能・狂言を鑑賞したいと多くの方の心が動くよう、休館中も走り続けます。(横浜能楽堂プロデューサー 大瀧誠之)

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