世界遺産には「古代都市〇〇」と名付けられたものが結構あります。「古代」という言葉と「都市」という現代的な響きの言葉がミスマッチなところに、惹かれるものがあります。

森に埋もれた古代遺跡

シーテープの塔の遺跡

そのひとつが、2023年に世界遺産になったばかりのタイの「古代都市シーテープ」。それまではさほど知名度がなく、世界遺産になったことで注目度が急上昇している遺跡です。今年、番組「世界遺産」で撮影したのですが、都市は水をたたえた濠に囲まれていて、空から撮影すると巨大な円形と長方形を組み合わせた形になっています。その中にレンガや石材を積み上げた塔や寺院、人工の貯水池などの遺跡が残っています。

発掘前のシーテープの遺跡の上には木が生えていた

この古代都市をつくったのはモン族という、タイ族よりも古くから住んでいた民族。タイの中心部を流れるチャオプラヤー川流域に、シーテープ以外にもいくつも都市を築き、ドヴァーラヴァティーという王国をつくりました。6世紀頃から繁栄した王国の実態は都市の連合体だったと考えられているのですが、分かっていないことも多いナゾの国です。古代都市シーテープにしても1970年代になってようやく発掘・調査が始まった遺跡で、それまでは森の中に埋まっていたのです。遺跡の多くは土で覆われて丘のようになっており、丘の上には木まで生えていました。

カオ・タモーラット山頂付近の洞窟遺跡

モン族とはどんな人々だったのか…その手がかりがシーテープの西20キロの山の中にありました。カオ・タモーラットという高さ600メートル弱の山なのですが、その山頂付近の洞窟がかつてモン族の僧院だったのです。番組でも撮影したのですが、行くのが大変で険しい山道を登ること約2時間。1400年前に作られたという洞窟僧院は内部がかなり広く、仏陀の姿や仏塔が岩に彫られて残っていました。モン族は仏教と聖なる山を信仰していたので、こんな山の上に仏教の僧院があったのです。他にもいろいろとモン族と古代都市シーテープのナゾに迫ったので、放送をご期待ください。

高さ180メートル…巨岩の頂上にある「天空の宮殿」

スリランカの世界遺産「古代都市シーギリヤ」

スリランカにも「古代都市シーギリヤ」という世界遺産があります。ここは高さ180メートルの巨岩の頂上に宮殿の遺跡があり、「天空の宮殿」として有名です。この天空宮殿に目を奪われがちですが、空から引いて撮影すると、宮殿のある岩山を中心として濠で囲まれたエリアがあり、その全体が王宮だったのです。

いくつもあるシーギリヤの人工の池

天空宮殿のある岩山へとつづく道沿いには人工の池がいくつも作られ、優れた水利技術があったことが分かります。シーギリヤの池の水は周囲の濠、さらには周辺の田畑にも水を供給していました。都市と水は、常に切っても切れない関係があります。

マヤの大ピラミッドと聖なる泉

メキシコの世界遺産「チチェン・イツァ」

メキシコの世界遺産「古代都市チチェン・イツァ」は、マヤ文明の代表的な遺跡です。最盛期は11世紀頃で、実に4万人が暮らした都市でした。その中心には、高さ24メートルの「ククルカンのピラミッド」がそびえています。

ククルカンのピラミッド

ククルカンとは羽毛の生えた蛇の姿をした神のこと。この大ピラミッドは春分と秋分の年に2回、階段の影がジグザグに映って、あたかもククルカンの体が現れたように見えます。これは意図的に設計されたもので、ピラミッドは種まきや収穫の時期を知るための巨大な天文装置だったと考えられています。

年に2回垂直の光の柱が現れる地下の泉セノーテ

シーテープやシーギリヤには濠がありましたが、チチェン・イツァには濠どころか川も近くにはありません。マヤの人々は都市に必須の水を、「セノーテ」と呼ばれる地下の泉から得ていました。セノーテはたくさんあるのですが、番組で撮影したのは、やはり年に2回、地表の穴から差し込む太陽の光が垂直に見える特別なセノーテ。まるで光の柱…この地下の泉も天文装置だったと考えられています。

このように古代の人々のさまざまな叡智をみることができる都市遺跡。世界遺産の「古代都市」はいまも魅力に満ちています。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。