今年8月、愛知県名古屋市で開催された「なごやエンタメ祭り」。普段はライバル関係にある地元の民放テレビ局とラジオ局、全9社が参加した異例のイベント。このイベントの仕掛け人がフォーチュンエンターテイメントの谷口誠治社長だ。

なごやエンタメ祭り


谷口さんは元公務員で、 業界では俳優の菅野美穂さんや要潤さんを発掘育成した人物として知られている。ただ、「タレントが売れると興味が無くなる」性格で、「タレントに食べさせてもらっている」という感覚も嫌い。その結果、常に「前例がないこと」への挑戦を続ける人生を歩んできたという。

名古屋には もともと何の接点もなく、「東京・大阪に次ぐ大都市でありながら、芸能に関しては手つかずの場で、芸能での成功前例が無い事にチャンスを感じた」のがきっかけで、名古屋発信(Made in 名古屋)の芸能を作ることを決意。宝塚のように100年、200年と続く、名古屋の芸能文化を作ろうと生まれたのが男版宝塚=『 BOYS AND MEN(ボイメン)』(当時60名以上在籍)だ。

BOYS AND MEN


2010年 デビュー当初の観客は たった3人のBOYS AND MENだったが、街頭でのビラ配りなど、地道な地域に根差したプロモーションを続けた結果、徐々にファンが増え、ボイメンは2016年には、 第58回 日本レコード大賞の新人賞を受賞するまでに成長した。


2023年には、ボイメンの弟分 『カラフルダイヤモンド(カラダイ)』がデビュー。共同生活を送りながらライブ活動を続ける舞台裏を描いたドキュメンタリー作品がTBSドキュメンタリー映画祭で「観客賞」を受賞し、今年7月に東京・赤坂で行われた舞台では、4日間・全7公演が連日 満員御礼となるなど、勢いは続いている。

カラフルダイヤモンドの関優樹さんは谷口社長について「ある相談をした時に、あまり真剣に聞いてくれていないのかな?と思ったら、実は色々と考えてくれていて良い意味で不思議なギャップのある人。父親のような存在」と話す。

カラフルダイヤモンド


激動のエンタメ業界で、普段は ほとんど光が当たることのない「裏方」を深掘りする「エンタメDIG 裏方列伝」。名古屋から「前代未聞」の挑戦を続ける谷口氏の人生を振り返る。


激動のエンタメ業界で、普段はほとんど光が当たることのない「裏方」を深掘りする、「エンタメDIG 裏方列伝」。なごやエンタメを全国・世界に届けるべく挑戦を続けている谷口誠治社長の人生とは。(全4ページ 2/4)

Q:どんな子どもだった?

小中学校の頃は引きこもりみたいな状態で友達がいませんでしたね。 1人遊びが得意でした。

幼いころの谷口誠治さん(本人提供)


自然と「テレビっ子」になり、松竹新喜劇の藤山寛美さんを見て夢中になりました。吉本の劇場にも学校をさぼって見に行ったりしていました。中学校の時はラジオを聞いて「ハガキ職人」のようなことをしていました。

Q:人生が変わったのはいつ?

高校でラグビー部に入ったんですけど、先輩とかがもう、みんなワルで・・・それまではかけっこでも最後から2番目くらいに入れば良いやと、全力で何かをしたことがなかったんですが、全力を出さないといつまでも走らされるし、なぐられるし、これはまずいなと、本気を出すようになったんですよ。結果的に2か月後くらいには1番早くなっていましたし、喧嘩も強くなりました。

ラグビー部の顧問の先生はめちゃくちゃぶっとんでいて「鬼」って言われてましたけど、好きでしたね・・・当時としては画期的で全部カメラで試合とか撮影してみんなで見てましたね。本当は見てはいけないものを、その後 見たりもして「絶対に外では言うなよ。俺もクビになるけど、お前らも全員退学や!」っていうような先生でした。

そもそも、何かを「教えてもらうこと」が嫌いだったんですよね・・・
「自分でとことん考える」のが好きだったなぁ・・・

大学生のころの谷口誠治さん(本人提供)


Q:大学では何を?

友人に誘われて、当時人気だったローラースケート場のプロデュースみたいなことをしていました。最初は月に25万円もらっていましたが、3カ所オープンさせた後は、一か月に100万円くらいもらっていました。ただ、両親ともに公務員の家で、とても厳しく、大学を中退すると無理矢理、中途の試験を受けさせられて、吹田市役所に公務員として働くようになりました。


大学生ながら、当時流行していたローラースケート場の運営を任され、月収は100万円ほどだったいう谷口誠治さん。大学を中退すると、厳格な両親のすすめもあって吹田市役所で公務員として働くことになるが…(全4ページ 3/4)

Q:月収はどうなりましたか?

(大学生時代)月収100万から(公務員になって)9万8000円ですよ… もうびっくりですし、最悪ですよ。家から通わないといけないし、結局2年半で辞めました。

Q:その後がなかなか ぶっ飛んでいるというか・・・

「世界で通用するエンタメ」を目指して、原宿の歩行者天国でローラースケートのパフォーマンスをしたり、ミュージカル「スターライトエクスプレス」のオーディションを受けて合格し、世界ツアーに参加したり。日本に戻ってからはショーの演出などをするようになっていました。

芸能プロダクションを設立したころ(本人提供)


あるオーディションで菅野美穂さんを発掘して、1992年に芸能プロダクションを設立しましたが、私は「タレントに食べさせてもらっている」とか「タレントにしがみついている」と思われるのが嫌いなんですよ。「何々ちゃんのお母さん」って呼ばれるのを嫌がる女性がいるように、「何々さんの事務所の社長」って言われることが嫌で・・・。「タレントに食べさせてもらっているんでしょ?」と人に思われるのも嫌。実際、自分としてはやるべき仕事をやっていましたから・・・ 今となってはどうでもいいんですけど、なんか・・・まだ若かったので「だったらやめる」って決めてITの会社でも作ろうかということになった。

そしたら、突然 倒れてしまって、”左半身不随”みたいな状態になってしまったんです。当時は精神的にも相当 追い詰められました。どれだけ調べても原因はよくわからなくて・・・でも友人たちの励ましなどもあって徐々に回復。最後まで原因はわかりませんでしたが、おかげ様で再び働けるようになりました。


【エンタメDIG】「前代未聞でも絶対できる」 なごやエンタメを全国・世界に フォーチュンエンターテイメント 谷口誠治 (全4ページ 4/4)

「無理」と言われると、やりたくなる ”なごやエンタメ”の可能性

そして2009年、名古屋に来た時にふと「東京、大阪に次ぐ大都市なのに芸能に関してはほとんどが手つかず・・・特に地元タレントが少ない」と気づき、名古屋のタレントで番組・芸能を作ることを決意しました。

フォーチュンエンターテイメント 谷口誠治社長


Q:「ボイメン」も当初は、相当冷たくされたのでは?

スタッフとかも「無理」っていうんですけど、「無理」って言われると、逆にやりたくなる性格なんですよね(笑) 人生、前代未聞だらけ・・・ 代理店の人もテレビの人も「無理無理」と・・・でもね、夢は叶えるものなんですよ。 前代未聞のことをやって失敗することはない・・・大変ですよ、でも色々工夫しながらやれば、ちゃんと前に進めるんですよ。

最初はスポンサーがいないとはじまらないから地元の「トヨタ」を意識して、「未来のエコカーをつくる」・・・みたいなミュージカルをやったんですけど、大失敗・・・ほとんどのお金が無くなって、最後は自分の好きなことをやろうと思ってやったのが「ヤンキーもの」。これが当たった・・・ 後で調べてハッ!っと思ったんですけど「なめ猫」って名古屋発のムーブメントだったんですよね。

Q:緻密に計算して成功してきたわけではない?

とにかく動きながら考えて考えて・・・という感じですね。調子が良い時でも勘違いして止まってしまったら、そこで終わると思います。長い芸能界での生活の中で「落ちる人」もたくさん見てきましたから、ずっとやり続けていかないと・・・止まって考えてしまうと、成長もそこで止まると思っています。

「生成AI」時代のリスクとは

なごやエンタメ祭り


Q:なごやエンタメ祭り ”仕掛け人”として心がけていることは?

まだ2回目なんで「大赤字」ですよ。でも5年10年と続けたら絶対に良い祭りになると信じています。私は「前代未聞」が好きなんですよね。ちょっと話がずれちゃうかもしれないですけど、「生成AI」が出てきて、今後AIが進化した時のことをふと考えると、「前例があること」をやってしまったら、観客もワクワクしないと思うんですよね。誰もやっていないこと「前例」を自ら作りたい。それが一番ワクワクするし、リスクは大きいけど、リターンも大きいから・・・

「前例がない」からリスクなのではなく、「前例がある」ことをやることが、これからの時代はリスクになると思います。確かに「前例がある」ことをやるのは(現時点においては)成功率が高いんでしょうけど、これからはますます最初にやったもん勝ちですよ!

Q:最後に 若者に対してひとこと

どんな仕事についたとしても、自分のやりがいを見つけられない限り続かない・・・例えばテレビ局に入って、「作りたい」と思っているのに全然違う部署にいて「もうダメだ」と思う人もいるのかもしれない・・・ そこで辞めちゃう人も多いのかもしれないけど、そこの中にも「自分の楽しみ」を見つけ出せる能力があるのかないのか・・・どんな環境でも それ(自分のやりがいを見つけること)をしないとシンドイだけだし、どこでどんな仕事をしていても「自分のやりがい」を見つけ出せる人は強い。

だからもう とにかく「自分しかできない」って思う。「自分が楽しめるやり方」を見つけ出すことが大事かなと思います。他人のせいにして あれが悪いこれが悪い・・・そっちの方がずっとずっと楽ではあるんですけど。

絶対できる! 僕は常に絶対できる!と思ってやっている。新しいことに挑戦して「失敗」したことはないですね。自分でとことん考えて やったことは「失敗」にはならない 絶対できますよ!


谷口誠治 フォーチュンエンターテイメント社長
1959年 生まれ 演出家・プロデューサー
元公務員(吹田市役所)で退職後はミュージカルに出演、ショー演出も手掛ける。その後 芸能プロダクションを設立。2010年以降は名古屋発のエンターテイメントを全国・世界に広げようと挑戦を続けている。

【担当:芸能情報ステーション】

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