世界遺産の「氷河地帯」 ボートで移動、“10日間”のキャンプ泊

世界遺産には、何日もボートや船で移動しながら撮影をするものがあります。テレビ屋の場合は仕事なのでそれなりに大変ですが、一般の人だったら水辺の旅やキャンプの楽しさも味わえる世界遺産を紹介します。

アメリカとカナダにまたがる世界遺産「アラスカ・カナダの氷河地帯」

まずはアメリカ・アラスカ州とカナダにまたがる世界最大級の氷河地帯。世界遺産としての正式名称は「クルアーニー/ランゲル-セント・イライアス/グレーシャー・ベイ/タッチェンシニー-アルセク」という4つの自然公園の名前を並列したもので、長すぎる上にどんな世界遺産なのか分からないので、番組「世界遺産」では「アラスカ・カナダの氷河地帯」と呼んでいます。

今年、番組では、カナダ側のタッチェンシニー-アルセク公園からアラスカ側のグレーシャー・ベイ国立公園までボートで川を移動しながら撮影しました。これは世界的に人気のボート・ツアーのルートで、番組も一年前に予約してツアー用のガイドとボートを押さえることができました。

毎日上陸してキャンプ泊

ルートは約200キロ。ラフティング用のボートで移動しながら美しい渓谷、そして氷河が流れ込む湖など、壮大な自然を楽しむことができます。10日間ほどの日程ですが、すべてキャンプ泊。毎日、川沿いのキャンプ地に上陸し、テントを張って食事をして寝る…というキャンプ好きにはたまらない日々です。

ガイドの操船で激流を越えていく

番組の撮影では2隻のボート、2名のガイドという体制だったのですが、ガイドはふたりとも20代の女性でした。このガイドさんが超優秀でボートの操り方は上手いし(激流で転覆でもしたら機材もろとも水没してしまうので、番組的には大変重要なポイント)、さらに作ってくれるキャンプ飯が絶品。手の込んだメキシコ料理を作ってくれたりして、撮影隊はかなりラッキーでした。

この日のキャンプ飯はメキシコ料理

ちなみにキャンプで出たゴミや排泄物は、環境を守るために持って帰ります。体力的にもかなりハードなので、アウトドア上級者向きのボート旅かもしれません。

食・文化・歴史を楽しみながら…「ミディ運河」を手軽に船旅

フランスの世界遺産「ミディ運河」

一方、もっと楽にボート旅を楽しめるのがフランスの世界遺産「ミディ運河」。古都トゥールーズから地中海まで全長240キロ。17世紀に作られた運河で、かつてはワインなどの農作物を運ぶ大輸送路でした。

キッチンも完備しているレンタルできる船

現在は、レンタルした船でのんびりとボート泊を楽しめる人気のクルーズ・コースとなっています。番組でも船をレンタルした家族を取材したのですが、6人乗りの船にはベッドルームがふたつ、冷蔵庫やレンジを備えており、船中で寝泊まりしながら移動できるようになっています。

高低差20メートルの丘を船で越えるために作られた7段ロック

このコースは世界遺産的に見所が多く、そのひとつが高低差約20メートルの丘を船で越えるために作られた「水の階段」。ロックと呼ばれる仕組みが7つ階段状に続いています。水門を開け閉めして水位を変え、そのたびに船はひとつ上のロックに移動…これを7回繰り返して20メートル上の運河へと進んでいくわけです。現代のテクノロジーだと船ごと巨大エレベーターで引き上げてしまったりするのですが、17世紀という時代を感じさせる技術です。

ビストロ料理の定番「カスレ」

またミディ運河沿いにはカステルノーダリという田舎町があるのですが、ここはビストロ料理の定番「カスレ」発祥の地といわれます。白インゲン豆と豚肉、ソーセージ、鴨のコンフィなどを煮込んだ郷土料理。さらにワインの名産地・ラングドック地方でもあるので、赤ワインで本場のカスレを楽しむ…といったことも道中でできてしまいます。

中世の面影を残すカルカソンヌの街中

さらにミディ運河沿いには別の世界遺産である「城塞都市カルカソンヌ」もあります。古代ローマ人が築いた城壁の外側に、中世さらに城壁が築かれた歴史あるたたずまいの街。こうしたポイント毎に船から上陸して、街を楽しんで船中泊、そしてまた船で移動していく…そんな旅ができる運河です。

大自然とキャンプを楽しむアウトドア上級者向けの「アラスカ・カナダの氷河地帯」。比較的手軽に船旅と南フランスの文化と歴史を楽しめる「ミディ運河」。かたや自然遺産、かたや文化遺産で、それぞれの世界遺産としての性格の違いが水の旅にも現れているわけです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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