放送中のドラマ『西園寺さんは家事をしない』。本作には、主人公・西園寺一妃の働き方やライフスタイルなど、親近感を持ってもらえるためのキャラ作りに欠かせないアイデアパートナーがいる。博報堂キャリジョ研プラスの瀧川千智、白根由麻、用丸紗希、下萩千耀、松村和、小島麻衣、そして本作のプロデューサー岩崎愛奈(敬称略)と共に、主人公・西園寺さんを深堀りしていく。

今一番推したいロールモデルは西園寺さん

突然だが、ドラマは身近な世界を描いている一方で、登場人物やストーリーがどこか非現実的な物語であるというのが一般的なイメージではないだろうか? だが、松本若菜演じる本作の主人公・西園寺一妃は「親しみやすい」のひと言に尽きる。そのキャリアやライフスタイル、働き方など、現代社会で働く女性のリアルを描いているからこそ、ファンタジーがより現実味を帯びているのだ。

西園寺さんの細かな設定に関して岩崎プロデューサーが取材協力を依頼したのは、博報堂キャリジョ研プラス。最終回で19.6%という高視聴率を獲得した『私の家政夫ナギサさん』でもタッグを組んだ、女性に寄り添う精鋭チームだ。博報堂及び博報堂DYメディアパートナーズのスタッフを中心とした社内プロジェクトで、「女性の幸せを起点に、すべての人が生きやすい“ニュートラルな社会”作り」をビジョンに掲げている。

働く女性(キャリジョ)に関するインサイト発掘、調査を行い、多様な立場にある生活者の声に向き合ってきたマーケティング情報を元に、西園寺さんの設定は考えられている。

瀧川氏は、働く女性の新たなロールモデルとして西園寺さんを推しているという。

「ロールモデルがいないという話をよく伺います。例えば、女性役員の方に話を伺うと、どこからも足を引っ張られないよう常に完璧でいなくてはいけないと言い、20代、30代の方たちからしたら到底真似できない。でも西園寺さんは、ダメな部分もあるし、部下のケアもし過ぎない。女性のリーダーだからこうしなきゃいけないというのがない。それは現実に取り入れてもいい部分なのではないでしょうか。責任は取るけど、母のような過剰なケアはしない、あくまでマイペースなのが良い」。それを受けて、下萩氏は「西園寺さんは、チームメンバーの個々の力を信頼しているんですよね。リーダーだけど、周りを盛り上げる。そんなマネジメント的な役割をしているところが素敵です」と続けた。

岩崎愛奈プロデューサーはその部分に関して、西園寺さんの後輩・武田英美里(横田真悠)との関係性に秘密があるという。

「後輩の武田を、当初は“武田ちゃん”と呼ばせようと思っていたんです。西園寺さんのアシスタントですし、若手社員という立ち位置にしようと。でも、西園寺さんの抜けているところをカバーするのは武田なのではと考えたときに、西園寺さんは後輩を手厚くサポートするのではなく、自分で動いてもらって育ってもらう。自分が完璧じゃないと思っているからこそ、そういう育て方をするのではないかと思いました。西園寺さんなりの武田に対する信頼関係を、呼び捨てにすることで表現しました」と明かしてくれた。

モヤモヤを解消する西園寺さん流“家族の形”

松村北斗演じる楠見俊直の娘・ルカ(倉田瑛茉)が保育園で起こしたトラブルをキッカケに、多様性のある家族の形が浮き彫りとなった第4話。そこで描かれた内容に関し、用丸氏は「この時代、みんなが抱えているモヤモヤを解消してくれた」と回顧し、「子育てに対する価値観や取り巻く環境はみんな違うし、答えがない時代だからこそ逆に悩む人も多いと思う」と続ける。

多様性を尊重する動きがある一方で、ではどうすることが正解なのか。その正解は人それぞれの価値観に左右される、しかしそれもまた多様性と、堂々巡りの問答が続く。

第1話では、1人で子育てをどうにかしないといけないと考えた楠見の呪縛を解き放つ西園寺さん。“偽家族”という新たな形を提案することもまた然り。第4話では逆に、西園寺さんがルカのために自分が苦手な料理をやらなきゃいけないという呪縛に囚われ、楠見に助けられた。

このことについて、用丸氏は「先輩や同僚、後輩が半径5メートルの距離感にいた時には、順調そうだな、キラキラしているなと思っていても、その距離感が半径2メートルになると見えてくる表情が違って、仕事と家事・育児の両立でみんな何かしら苦戦していて、日々もがきながら最適解を探していることに気付かされる」と自身の考えを語る。

先述した堂々巡りの答えは、全員に幸せになってもらいたいではなく、この“半径2メートル”にいる人を大切にしたいという姿勢にあるのではないだろうか。多くの視聴者から西園寺さんが共感されるのは、それを体現しているところにあるのだ。

この家族の形という話題を受け、白根氏は「今の時代、結婚がひとつのゴールではなくなっているなかで、それぞれの考え方をオープンに話すことが大切になっていると思います」と意見を披露。「戸籍上の家族に留まらずに、西園寺さんたちのように偽家族や職場の人や保育園の仲間など頼りあうことができる存在を、大きな意味での家族として捉えることができたら、みんな肩の力が抜けて楽になると思うんです。それぞれ自分なりの心地良い家族の形を探してもよいのでは?というメッセージをドラマから感じとることができて、勇気をもらいました」と胸の内を明かした。

さらに、偽家族については別角度からの意見も。「“偽家族はチーム名”と言っていたのが良かった」と語るのは松村氏。偽家族をルカに説明するため、西園寺さんが咄嗟に言った言葉だが、「ルカちゃんの幸せを第一に考えていることが伝わるし、応援したくなると同時に、こういうセリフの1つひとつが西園寺さんの解像度を上げている」と考察。

さらに、岩崎プロデューサーは「西園寺さんが実際にいるとしたら、と考えた時に、以前ドラマ作りに力を貸してもらったキャリジョ研プラスの瀧川さんの顔が浮かんだ」と言い、西園寺さんの解像度を上げる作業の一環として、西園寺さんを演じる松本若菜と監督陣、プロデューサー陣が瀧川氏の半生をインタビュー。博報堂キャリジョ研プラスのメンバーも瀧川氏の人柄を伝えるなどし、それが作品作りに一役買う結果となったのだ。

ありそうでなかったがある理想の働き方

西園寺さんが働く「レスQ」社の職場環境も、「現実の世界もこうだったら良いのに!」という意見が多分に取り入れられている。例えば、第1話で西園寺さんが社長賞をもらい、その賞金をみんなに分けるというエピソードも、博報堂キャリジョ研プラスから出たアイデアの1つだ。

岩崎プロデューサーは、当初このエピソードについて「賞金は、ルカちゃんが家に来たときのデリバリー代にしようと思っていたんです」と振り返る。だが、この意見を聞き「確かに西園寺さんだったら全員の功績だからとみんなに分配しそうだ!」と方向転換したのだとか。

また、「レスQ」社の社内における風通しの良さについて、小島氏は「家庭の事情などをオープンに共有できるあの職場環境、あれが現実のものになったらすごく良いのになって思いました」と語る。

博報堂キャリジョ研プラスの調査でも、働き方や職場環境について共働きが増えてもなお、ジェンダー役割分担意識が残るという結果が出ている。だが、それは男女間だけの話ではないという。物語でも楠見が保育園のお迎えで、定時退社するシーンが描かれ、それを同僚たちが当然のように見送るというシーンが描かれている。

だが、定時退社したいという希望は、子どもを抱えている社員だけの話に限ったことではない。結婚や育児に加え、家族の介護をしながら働く人もいるし、独身だってプライベートの時間を確保したい。「結婚してライフスタイルが変わり、一度定時で退社し夕食の準備をして、また仕事に戻るといった工夫をしたいと思う反面、私的なタイムマネジメントを共有するのは迷惑になるかもしれない」と悩んでいた経験を持つ小島氏。だからこそ、現実世界でも「レスQ」社のようにオープンに話せる職場環境が増えることを願っているという。

「西園寺さんの世界では、理解のない人を登場させて対立関係から生まれるものを描くのではなく、理解ある登場人物たちに溢れた“優しい世界”を描いている」と語るのは、瀧川氏。人間関係が希薄ともいわれる昨今、『西園寺さんは家事をしない』ではエンタメ要素を残しつつも、身近に感じることのできる世界線を描くことで、多くの共感を得ているのではないだろうか。

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