放送中のドラマ『西園寺さんは家事をしない』。原作は7月11日に最新5巻で完結した、人気漫画家・ひうらさとる氏による同名コミック(講談社「BE・LOVE」連載)だ。

本作では、主人公・西園寺一妃(松本若菜)と、西園寺さんの“偽家族”・楠見俊直(松村北斗)と個性豊かな社員が働く、「家事レスQ」のオフィスが魅力的。一目見て「ここで働きたい!」と思わせるイマドキなオフィスを作り上げた美術プロデューサー・中村綾香氏と、デザイナー・大三島弘女氏に、セット作りの舞台裏や細部にこめた遊び心を語ってもらった。

西園寺さんから広がる輪!丸を意識したセットに

西園寺さんと楠見が働く「レスQ」は、約100人の社員が働く気鋭のベンチャー企業。その中で2人が担当する生活実用アプリ「家事レスQ」のチームでは40人ほどが働いている。オフィスに一歩足を踏み入れると、照明、デスク、チェアなどありとあらゆるものが丸く、カーブを描いているのが特徴的。本作では、“西園寺さんから広がる輪”を表現するため、監督のリクエストによりセットの至るところに“丸”が仕込まれているのだ。

「丸みのあるオフィス家具を使用しているのに加えて、天井やフロアのステップにも円弧や曲線を用いています。西園寺さんがよく使う中央のフリーデスクからよく見える位置に配置しました」と、大三島氏が狙いを明かす。

さらに、「イマドキの自由なオフィスにしてほしいと岩崎愛奈プロデューサーからリクエストがあったので、作品の世界観を投影した明るいオフィスを目指しました。藤井隆さん演じるいつも陽気な天野(竜二)社長が建築士と話し合って内装を決め、所々に飾ってある小物も天野がチョイスした想定です」と、裏設定を披露。

オフィス内には敢えて小部屋を作らない設計に。会議スペースもひと続きの空間に設けられていて、各エリアには扉も窓もなく、全てが見渡せるようになっている。

「ひと続きとはいえ、ルーバー(羽根板をブラインドのように並べたもの)で空間を仕切り、いろいろなところで仕事ができる環境に。可動式レールを使用したホワイトボードは、間仕切りにもなるすぐれものなんです」と、今どきのオフィスならではの一工夫を教えてくれた。

キッチン兼撮影スペースがあるのも「レスQ」ならでは。「フリースペースを取り入れている企業は増えていると思いますが、撮影スペースがあるオフィスは珍しいのではないでしょうか。『レスQ』を象徴する場所でもあるので、前述の曲線を目立たせている位置に設置しています。普段は開けっ放しですが、パーティションを閉めて囲うこともできます。料理のいい香りは防げないですが」と、大三島氏。

料理に限らず、家事全般の悩みを解消する「レスQ」には、あらゆる企画を打ち出せるようにさまざまなメーカーの最新家電が揃っている。

さらにはキッチンの後ろに洗濯機や洗面台の設備も。掃除テクニックのデモストレーションなどができる環境になっている。撮影用のリングライトはもちろん、照明部とも協力してリアルな照明をキッチン上に設置しており、実用的な造りが再現されているのだ。

細かいところも見逃すな!渾身の「レスQ」オリジナルグッズ

「キャラクターも含めて説得力のあるセットにできればと思いながら作った」と、中村氏は口にする。その説得力は、オフィスの各所に散りばめられたオリジナルコーポレートグッズにも光る。

「レスQ」がこれまで制作したコラボ商品はもちろん、大三島氏が自身でデザインしたという「サンバーズ」という「レスQ」のイメージキャラクターのぬいぐるみが並ぶ。その横にはWi-FiスポットのIDとパスワードも設置されていて抜け目がない。

「さまざまな企業とコラボしてオリジナル商品をたくさん作っている『レスQ』。アプリ制作会社という側面だけではなく、家事全般について手広くビジネスに挑戦をしている、まさに今、発展途上の会社であることが伝わるといいなと」と、大三島氏がこだわりの意図を語ると、中村氏も「台本には書かれてない裏設定や、こういう想像して作り込んだ小道具が、キャラクターやセットをリアルに見せているんです」と口を添える。

「自由な働き方ができる『レスQ』だからこそ、遊び心が満載」と楽しそうに話す大三島氏が案内してくれたのは、「家事レスQ」の出勤表。普通のホワイトボードではなく、アプリの画面をモチーフにしており、一目で出勤状況がわかるようになっている。

「最新のベンチャー企業ですが、出勤表はアナログなものを作ってみようと思いました。天野社長はこういうのも好きそうじゃないですか?」と、キャラクターイメージを膨らませる。この出勤表は、撮影シーンや設定日付によって演出部が毎日日替わりで変えているそう。そんなスタッフの細かいこだわりにも目を光らせたい。

色選びが肝?仕事のしやすさまで計算されたデザイン!

「『レスQ』で働きたい!」という視聴者の声も集まる同オフィスのセットでは、撮影がない時にドラマスタッフがセット内で、実際にパソコンや資料を広げて仕事をしていることもしばしば。

スタッフからも「集中できる」「居心地がよい」と好評なのだが、それも美術スタッフの心遣いのおかげだ。

「『レスQ』社員にどこでも居心地よく仕事してもらうために、オフィスには持ち運び用のバッテリーを備え付けています」と、大三島氏が万能アイテムを紹介。

専用の棚に置いておくだけで充電ができるすぐれもので、必要な時は持ち運んでコンセントから遠い机や、フリースペースで寝っ転がりながら使うことができる。これがあればどこでも好きなスペースで作業ができ、「コードがコンセントに届かない…!」というあるあるの悩みを解消してくれる。

大三島氏は「西園寺さんも固定の席ではなく、いろいろなところで仕事をしているので、今日はどこにいるかを気にしながら見てもらえるとうれしいです」と、本作ならではの楽しみ方を教えてくれた。

グリーンのカーペットが印象的なフリースペースは、劇中でも社員が「Yogibo」に寝っ転がって雑談したり、パソコンを使用している場面が見られる。

ハンモックやカラフルなクッションに加え、天野が集めたインテリア小物が集まるにぎやかなエリアだが、目が疲れないよう、集中力を削がないようにワントーンの大人の色味でまとめられている。全体的ににぎやかに見えるオフィスだが、働きやすさもしっかりと考慮されている。

「映像として、鮮やかではあるけど強すぎない色味を研究し、配置してます」と大三島氏がデザイナーならではの計算を語る。

映像に奥行きを与える美術の力!カメラ目線の鳥に注目!?

スタジオの構造上、実はあまり天井の高さがない「レスQ」のセット。奥行きや迫力が表現しにくいため、要所に段差をつけることを意識したそう。

セットを見渡してみると中心部分がくぼんでおり、入口とキッチン&フリースペース部分は小上がりのような作りになっている。

「段差をつけることで、のっぺりとした映像にならないように。奥行きや立体感は映像作りにとって大切なものなんです。立体的に動ける空間作りも美術の役割の1つです」と、大三島氏が制作の裏側を明かしてくれた。

監督の一声で撮影画角が決まるドラマの撮影。「このシーンはここで撮ります」と急に言われても大丈夫なように作り込まれたセットは、どこに立っても美術スタッフのこだわりが目に入る。

「狙い通りの画角に決まると嬉しいですけど、予想外の画角になる事も…。でも、どこを切り取っても良いように、手抜きなしで頑張って作ってますので、隅々まで見ていただきたいです」と、中村氏は微笑む。

「実は、美術チーム内で『レスQ』のイメージキャラクター・サンバーズが毎回カメラに向いてるようにセットする遊びをしていて…(笑)。働く西園寺さんの姿はもちろんですが、どこかにこちらを向いてるサンバーズがいないか探しながら観てほしいです!」と、茶目っ気たっぷりに明かしてくれた大三島氏。

西園寺さんの世界を彩る「レスQ」に仕掛けられた、細かい遊びを見つけ出すのも本作の1つの楽しみになりそうだ。

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