宿泊施設がなく、フェリーで寝泊まりしながら撮影

シュンドルボンの世界最大級のマングローブの森

世界遺産、特に自然遺産では特別な撮影方法を使うことが多々あります。今年、番組「世界遺産」でバングラデシュの「シュンドルボン」という自然遺産を撮影しました。ここはガンジス川の河口にできた巨大なデルタ(三角州)で、世界最大級のマングローブの森が広がっています。マングローブは汽水域(淡水と海水の入り交じる所)に生育する植物の総称で、潮の満ち引きの激しいシュンドルボンはマングローブにぴったりの環境なのです。

干潮時に食べ物を求めて現れたサル

広大なマングローブの森には道らしい道はなく、網の目のように流れるガンジス川の支流をボートで移動して撮影していきます。面白いのは引き潮で、干潟が現れたとき。鹿、サル、カワウソなどさまざまな動物が食べ物を求めて現れるのです。

干潮時に現れたカワウソ

引き潮で内陸から植物の実など草食動物の食べ物が流れてくるうえ、潮が引いて水路のように細くなった川には魚が密集していて、カワウソにとって最高の狩場となるからです。

ガンジス川の支流をボートで移動しながら撮影

そんな様子をボートで移動しながら撮影して、日が暮れると戻るのはチャーターした中型のフェリー。道がないのでホテルなどの宿泊施設もなく、フェリーで寝泊まりするしかないのです。

撮影スタッフが寝泊まりしたフェリー

シュンドルボンを観光する場合もこうした宿泊できるフェリーが拠点となるためニーズがあり、船の施設は整っています。16室ある乗客用の個室にはちゃんとベッドもあり、コックさんが食事も作ってくれます。番組スタッフによると、ナマズを始めガンジス川で捕れる魚を使ったカレーなどが出て、とても美味しかったとのこと。

カレーなどフェリーでの食事

このように宿泊施設のない自然遺産、特に海や川辺の場合は船で寝泊まりしながら撮影をすることが多いのです。

雄大な自然遺産をセスナやモーター・パラグライダーで

コスタリカの世界遺産「ココ島」

中央アメリカ、コスタリカの自然遺産「ココ島」を撮影したときも、やはりスタッフはクルーズ船で寝泊まりしました。

秘境感たっぷりのココ島

コスタリカ本土から550キロ離れたココ島は火山活動によってできた無人島で(国立公園の管理人はいます)、映画「ジュラシック・パーク」のモデルにもなった絶海の孤島。特に海中の生態系が素晴らしく、番組でも信じられないほど多数のシュモクザメの群れや不思議な海底を歩く魚を撮影することができました。

シュモクザメの大群

島の周囲は深海に落ち込んでいるため、水深500メートルまで耐えられる小型潜水艇を使った撮影も行いました。水深250メートル辺りで捉えたのがアンコウの一種。さらに水深300メートル辺りで撮影したのが深海魚のシャチブリの仲間。体長1メートルほどで、骨格のほとんどが軟骨で、いかにも深海魚という感じです。

ココ島の撮影で使った小型潜水艇

とても通常のダイビングでは潜ることのできない水深…小型潜水艇を使った撮影ならではの映像でした。

一方、陸上の自然遺産を空から撮影する場合、近年はドローンを使うことが多いのですが、それ以外にもセスナやヘリコプター、さらにはモーター・パラグライダーを使うこともあります。

世界遺産「モシ・オア・トゥニャ/ヴィクトリアの滝」(ザンビア・ジンバブエ)

アフリカ最大の滝、ヴィクトリアの滝を撮影したときもパラグライダーを使いました。世界遺産としての正式な名称は「モシ・オア・トゥニャ/ヴィクトリアの滝」。ザンビアとジンバブエのふたつの国にまたがる、幅1700メートルもある巨大な滝です。モシ・オア・トゥニャとは現地の言葉で「轟音とどろく水煙」という意味。

パラグライダーから見た水煙

パラグライダーで撮影すると、滝の上空500メートルにまで立ち上る巨大な水煙をうまく捉えることができました。この巨大な水煙は落差100メートルの滝から起きる風が生むもので、地上から撮影した滝つぼも大迫力でした。

パラグライダーを使って撮影

フェリーでずっと寝泊まりしたり、潜水艇やパラグライダーを使ったり・・・人里離れた雄大な自然遺産を撮影するために、番組のディレクターは人知れず苦労を重ねているのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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