「虎に翼」の撮影について「大変さより楽しさが勝っている。とても有意義な充実した日々」と話す伊藤沙莉(三尾郁恵撮影)

新年度から放送が始まったNHK連続テレビ小説110作目「虎に翼」は、日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ女性の実話に基づく物語で、朝ドラでリーガル(法律)エンターテインメントに挑戦している。「朝から法律ものをやる。面白いと思ってもらえる自信はあります」と主演の伊藤沙莉。番組に懸ける伊藤とスタッフの〝インサイド〟をお届けする。

現代女性にリンクする「はて」

主人公の猪爪寅子のモデルは、日本初の女性弁護士の一人で後に裁判官を務め、家庭裁判所の設立にも携わった三淵嘉子さん(1914~84年)。女性の権利が著しく制限されていた時代に法曹の世界を志したことについて、伊藤は「『はて』という寅子の疑問は、いつも私自身にリンクしている」と共感する。

「どうしてこんな制度になっているのか、女ばかり不利だと思わざるを得ない時代です。そこで戦う意志や覚悟は、すごくすてきだと思う」

役作りのため、三淵さんの母校である明治大で法律の講義に参加した。資料も読み込み、それまで「当たり前にあるもの」と思っていた法律の成り立ちを知り、「疑問を持った人がいて前に進んできた」ことを実感した。自然と先人への感謝の念が沸き上がってきたといい、「役にとっても自分の人生にとっても良かった」と振り返る。

撮影は時系列ではないため、「子供が生まれるシーンの翌日に高校生とかやる」ことも。そのため、「シーンのつながりを計算して、別人にならないように」意識して演じているという。自分の演技チェックもかねて、事あるごとにエゴサ(ネットで自分を検索するエゴサーチ)をしている。「ちゃんと否定的な意見も聞いておきたい」「調子に乗らないようにしたい」と謙虚だ。

朝ドラで明治民法という硬派な題材を扱うことについて、「『え!面白い』となってもらえる自信がある」と笑う。意気込みは半端ではない。「生涯の中で、今後いろんなことをやらせていただけるとしても、もうトップで、大事な作品になると思います」

法律とは何か、男女の立場で

「虎に翼」は平成8年度前期の「ひまわり」以来、28年ぶりのリーガル(法律)ものの朝ドラとなる。制作統括の尾崎裕和は「改めて法律とは何か、男性女性それぞれの立場で、法律がどのようになっているかを考えられる内容になっているかなと思います」と説明。ヒロインの人生を法廷が大きく動かす、硬軟併せ持つ朝ドラを目指す。

よね(右端、土居志央梨)は貧しい生い立ちを明かし、寅子(手前左、伊藤沙莉)ら同級生が恵まれていることに憤りを感じることを告白する

モデルとなった三淵嘉子さんの大まかな人生の流れは踏襲するが、寅子の家族関係や周囲の出来事は「フィクションが色濃い」という。例えば、寅子が通う明律大学女子部法科にいる男装の学生、よね。三淵さんが通った明治大学専門部女子部法科には年代も国籍も多種多様な女学生が集まっていたといい、「男装していた方がいた、みたいな記録は名簿に残っていないが、さまざまな女性たちをキャラクターとして造形していくなかで」、脚本の吉田恵里香のアイデアで生まれたという。

フィクションとしてドラマを作る一方で、「三淵さんの人生に敬意を持って描く」ことが鉄則だ。既婚女性が法的無能力者とされていた戦前の民法から、男女平等を掲げる戦後の憲法への時代の変遷は、かつて三淵さん本人がNHKのラジオ番組で、人生最大のターニングポイントだと証言していた。今作でも「(寅子の)人生が大きく変わった瞬間として取り上げる」。

裁判の傍聴などを含め、法廷で寅子の人生は変わっていく。「法廷のシーンはしっかり描かれる。それがドラマとしてある種の解決に導かれて、カタルシスが生まれる」とし、「現代の視点から見ても、改めて法律とは何かを考えられる内容です」と、朝のリーガルエンターテインメントに自信をみせた。

(三宅令)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。