インドの世界遺産「ジャイプル旧市街」は、別名「ピンクシティ」と呼ばれます。街を囲む城壁も、建ち並ぶ建物もピンク色。番組「世界遺産」でも今年撮影したのですが、日本人的にはピンクというより紅殻色に近い街並みが不思議な魅力をもっている文化遺産です。

「風の宮殿」と呼ばれる建物もピンク色

別名「ピンクシティ」インドの世界遺産「ジャイプル旧市街」

この街は18世紀、サワイ・ジャイ・シン2世というマハラジャによってつくられました。ジャイ・シン2世は科学、特に天文学を好み、ヨーロッパなど世界中から天文書を集め、街に先だってジャンタル・マンタルと呼ばれる天体観測施設を作っています。奇妙な形の観測施設がたくさんあるのですが、目を引くのが高さ27メートルもある巨大な三角形の建造物。世界最大級の日時計です。2秒単位で時間を計れる、実に精巧なものでした。

ジャイ・シン2世がつくった世界最大級の日時計

ジャイプルの街も科学的かつ合理的につくられました。当時の北インドにはなかった、直線道路を縦横に走らせた「碁盤の目」が街の形。大通りは幅30メートルと広く、交差点には広場、通り沿いにはアーケード付きの商店街を設けました。碁盤の目は、京都や西安など日本や中国では古典的な街の形ですが、インドの都市計画の歴史においては革新的で、それが評価されてジャイプル旧市街は世界遺産になりました。

ジャイプル旧市街をつくったマハラジャ サワイ・ジャイ・シン2世

ちなみにジャイプルとは「ジャイの街」という意味で、ジャイ・シン2世は自分でつくった都市に自分の名前を冠したのです。つくられた当時は白い街並みだったのですが、19世紀にイギリス皇太子が訪問したときに、時のマハラジャが歓迎の意を込めて街全体をピンク色に塗ったためピンクシティとなりました。

都市計画の傑作 オランダ「アムステダムの環状運河地区」

「扇形」のアムステルダム空撮

革新的な都市計画によって世界遺産になった例は、他にもあります。まずは「扇形」の街並みなのが、オランダの世界遺産「アムステダムの環状運河地区」。番組でも空撮したのですが、何本もの運河が同心円状に作られ、街が扇形になっているのがよく分かります。今から400年前につくられた人工の水上都市で、運河が道路の代わり、今もボートが移動手段です。

京都の町家と似た同じ狭い間口の建物群

運河と運河の間の埋め立て地には、京都の町家と似た同じ間口の家々が建てられ、さらに公園や水路がつくられました。実に合理的で、アムステルダムの環状運河地区は都市計画の傑作として世界遺産になっています。

街全体が「飛行機の形」 ブラジルの首都「ブラジリア」

飛行機の形をした都市・ブラジリア

さらに面白い形をした街が、ブラジルの首都で世界遺産の「ブラジリア」。なんと上空から見ると街全体が「飛行機の形」をしています。1960年にリオデジャネイロから遷都したときに、何もない荒野に一からつくった街で、そのためブラジリアは自由に街並みを設計することができたのです。飛行機の形にも意味があって、機首の当たる部分には国会議事堂や最高裁判所などの官公庁つまり国のパイロット役の機関が集まり、翼の部分には集合住宅などが集まっています。

オスカー・ニーマイヤーの設計した大聖堂

近代建築の巨匠オスカー・ニーマイヤーが設計した国会議事堂や大聖堂は未来的なデザインで、まさに「未来世紀ブラジル」といった感じ。ブラジリアは1987年にやはり都市計画の傑作として世界遺産に登録されたのですが、こんなに新しい都市が世界遺産になったのは初めてのことでした。

世界遺産に登録されるための条件のひとつに、「人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式であること」というのもあります。その時代を象徴する建築・・・という意味かと解釈しているのですが、「扇形」のアムステルダムはオランダが世界経済の中心地だった17世紀を、「碁盤の目」のジャイプルは啓蒙的な科学の時代だった18世紀を、「飛行機の形」のブラジリアは近代建築=モダニズムが勃興した20世紀を、それぞれ象徴している都市ではないかと思います。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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