色とりどりのドライフラワーが並ぶ店内で、花を丁寧に一本一本重ねていく男性店主——フラワーショップの名は「Fleur Style Recollection(フルールスタイル リコレクション)」。ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』内に登場するフラワーショップだ。

贈り物やインテリアとしてここ数年人気が定着してきたドライフラワーは、天然の風合いや長く楽しめることなど、生花や造花にはない魅力が、幅広い層から支持を集める。文字通り、日常に「華」を添える存在。ドラマの中でも、瀬戸康史さん演じるフラワーショップの店主・西公太郎が「元カノ」とする主人公にさらっとアレンジメントして渡す象徴的なシーンに使われるなど、その存在感は大きい。

所作指導とドライフラワー美術協力で本作に携わる、ライフスタイルストア「TOKYO FANTASTIC 表参道店」内のドライフラワー専門店「Tida Flower」オーナーでフラワーデザイナーのスズキトモコさんは、自身が培った知見や経験から、繊細なところまで物語や役柄に寄り添い、アイデアや作品を提供している。

花屋さんのプロとして、瀬戸康史への細かな指導

もともとドライフラワーが好きで、スズキさんの作品やショップを見て知っていたドラマの美術担当者らと縁があり、実現した今回の依頼。スズキさんは、劇中の役やシーンの背景など、細かい点までイメージして形にすることにもこだわっている。

「ドライフラワーの色も、どの辺りの色合いが良いのか、などかなり細かく詰めていきました。サンプルを作って見ていただいたり、オンエアが始まる2カ月ぐらい前から作品を作り上げていきました。第1話で、公太郎がスワッグ(壁飾り)をまことに渡すシーンがあるのですが、ラナンキュラスというお花が入ったスワッグを、アトリエでパパパっと作って渡すんです。記憶喪失になった主人公が、花の色を見て過去の記憶を呼び起こすようなシーンということで、『記憶に引っかかるようなものを』と考えてすごく気をつけました」

公太郎が店主を務める店にもたくさんの花が置かれ、ドラマでは1話ごとに印象的な花が登場する。

「自分なりにこういう花材がいいかなと思うものを任せていただいて、入れています。ストーリーのつながりなどもそうですが、登場するお花が重要な存在になってくるシーンもあると思うので、スタッフの方など皆さんの思いを継いで形にできたらと思っています。最終的には撮影現場で美術さんが仕立ててくださっています」

公太郎役の瀬戸さんも、実際にスズキさんの店を数回訪れ、アレンジメントや所作のレクチャーを受けた。

「これからご自身が『ドライフラワー屋さんになる』ということで、すごく細かくいろいろと聞いてくださって。お花を作ることも初めてだったそうですが、とても飲み込みが早く、作品もすごくきれいに出来上がっていました。もともとお花に興味あるのかなと思います」

自らアトリエに立って日々花と向き合ってきたスズキさんならではの経験から、気づけた「所作」もあった。

「やっぱり花屋である以上は、花をめでるとか、花を扱うときの所作は、『柔らかい』ものだと思います。ドラマの中で公太郎が鉢物を置くシーンでも、ただ置くだけではなく、ちょっと手を添えてあげるんです。そうすることで、お花を素材として扱う『アーティストとしてのお花屋さん』の良さが出るのかなと思って、撮影の際もご提案しました」

スズキさんがこだわる花の「見せ方」。「かわいい」だけではない魅力も

瀬戸さんにもレクチャーしたドライフラワーのアレンジメント。スズキさんが伝授する基礎やコツには、花の「見せ方」という視点が欠かせない。

「生のお花からそのままの形で乾かすというより、まずきれいに乾かしたものを束ねていく方が、長く美しく楽しんでもらえると思います。期間が短い生花とは違い、長く飾ることを考えます。例えば壁に飾るのであれば、壁側が作品の『背中』になるので、(表側で)お花がよく見えるように、顔を全部こちら側に向けるように生ける。ぶら下げるにしても角度などに気をつけると、すごくかわいく見せられると思います。葉っぱだけにしてもかっこいいです」

重ね方にも、生花とは別のコツがある。

「普通の生花の花束だと、上から見たときにラウンドブーケと言って、全面からお花がパーッと見えるように束ねるのですが、ドライフラワーのスワッグの場合は、下に向かってお花をちょっとずつずらしていって段差を作ってあげるんです」

花の向きや重ね方などの「見せ方」だけでなく、長く付き合っていく上で、「何の目的で、何のために作っているか」という点も、スズキさんが常に意識していることだ。

「例えば今回のドラマでも、どういう風に見えるか、細かいカメラワークまでは分からないのですが、そこに適しているのはどのようなものかを考えます。大きなものなのか、こぢんまりとした方がいいのかとか、そういうことも含めていつも考えています。また、時間の経過とともにアンティークカラーになっていくように楽しんでいただけたらいいなと思って作っています」

劇中で男性の公太郎がドライフラワー店の店主を務めるように、女性向けの「かわいい」印象だけでなく、男性にも通じるドライフラワーの魅力があるとスズキさんは話す。

「主人公のまことで言うと、『かわいい』というイメージ。ただ、公太郎のアトリエから作り出されるものなので、もう少しメンズライクな感じもあると個人的には思っています。『ドライフラワー=かわいい』というイメージがありますが、自分の部屋に飾るインテリアとして作り込んでいきたい方などは、『かわいい』とは違う、わりとネイティブ系なものを選んでいかれます」

ギフトは「いかに相手のことを考えるか」。丁寧な接客から生まれるもの

大学卒業後からフラワーデザインを始め、今年で25年ほどになるというスズキさん。接客の際には「どう飾りたいか」などできる限り丁寧に話を聞いている。

「ドライフラワー自体は始めて15年ぐらいです。どのような花瓶をお持ちなのか、花瓶自体をこれから探したいか、壁にかけたいのかなどを伺います。例えばテレビの脇に置きたいとか、テーブルの上が殺風景だから何か置きたいなどがあれば、テーブルに置くものは背が高くないもの、逆に玄関に床置きにしたいのであれば、背の高いものを提案するなどしています」

ドラマの中でも、公太郎がまことに贈るように、ギフトとしてドライフラワーを買い求める人も増えている。その際も同様に、客の声に耳を傾けている。

「ギフトだと男性のお客さまがやはり多いかなと思います。生花店でお花を頼むよりも、ドライフラワーだと、もう少しラフな気持ちでお店に来られたり、長持ちするのでサプライズで渡すまでの間、隠しておいたりもできます。その際にも、お客さまが好きな色ではなくて、渡すお相手の方の好きな色を聞いたり、分からないようであれば着ている服や身に着けてるアクセサリー、インテリアの傾向などを伺ったりもします。受け取る側も、自分のことを考えてくれていた時間がうれしいなと感じると思います」

こうした接客などの姿勢は、スズキさんが研鑽(けんさん)を積んできた中で学んできたと言う。

「初めはきっとそうじゃなくて、『自分が作りたいもの』を表現したいだけだったのかもしれないなと思います。ただ、やっぱりお花屋さんにとっては、お客さまにお渡ししたときに『わぁっ』っとなってくれるあの瞬間が最高のご褒美なんです。そのご褒美をいただきたいから、自然にそういう風になっていったのかもしれません。作家活動としてだけではなく、自分のお店を持つようになってからですね。お客さまの反応がビシバシ伝わってきて、自分がどんどん変わっていきました」

今は「自分がお店をやっていくということは、お客さまと直接どんどん関わっていくということ」と考えるようになったというスズキさんは、最後にこう言って笑顔を見せる。

「コロナ禍は、お店でも対面でそんなに長くお話してもいいのかが分からなかったので、つらかったのですが、今はゆっくりお話ができてうれしいです」

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