業績拡大を続けるレゴグループ。最近はマリオをはじめゲームIPとのコラボも積極的に展開している(撮影:尾形文繁)2022年に創業90年を迎えたデンマーク発の玩具メーカー、レゴグループ。2000年代前半に赤字に陥ったものの、その後業績は回復し、2023年度は過去最高となる売上高659億デンマーククローネ(約1兆4700億円)を達成した。インフレなどの影響で世界的に玩具市場が低迷する中、世界首位の玩具メーカーとして売り上げを伸ばし続けている秘訣は何か。レゴグループで、製品とマーケティング戦略を統括するジュリア・ゴールディンCMO(最高マーケティング責任者)に話を聞いた。

“復活”を果たした20年で取り組んだこと

――2000年代前半に赤字となりましたが、そこから復活劇を遂げ、2022年度には過去最高の営業利益179億デンマーククローネ(約4000億円)を記録しました。

2004年ごろから、レゴでの遊びを通じてどういった体験を提供していくか、各パーツブロックをどう使っていくか、という事業のコアな部分に改めて焦点を当てた。そこからの10年間は、レゴシティシリーズなどの台頭に加えて、レゴフレンズやレゴムービーで大きく育つきっかけをつかみながら、その過程でさまざまなIP(知的財産)を取り込み、ブランドを成長させてきた。

その後の10年はイノベーションを継続し、カテゴリー商品の拡充やデジタル展開、大人向けの訴求などにより、さらにブランドの可能性を広げることができたと思う。

2019年には、テレビシリーズのレゴマスターズなど、発売ブランドキャンペーンをグローバルで大々的に行い、商品を販売するリーテルの領域にも投資をしてきた。 リアル店舗の拡大のみならず、デジタルでもレゴ公式オンラインストアを展開している。

――世界各国にファンを抱える中、日本市場をどのようにみていますか?

私自身、日本に数年住んでいた経験もあり、大好きな国だ。日本の玩具市場は非常に面白く、常にイノベーションや新しいものが求められる。

とくに今言われているのは、子どもたちにリアルな体験をさせるということ。これは玩具業界にとってチャレンジでもあり、重要な機会だ。クリエイティブな遊びの体験には大きな意味があると信じているし、そこで私たちが果たせる役割も大きい。

一方で日本では、子どもだけでなく大人のエンゲージメントも相当ある。趣味として自分たちが好きなものを集めたり、飾ったりすることが非常に好きで、自分たちで作ることを好む。これが日本市場をより豊かにしている要素の1つだ。

大人向けの玩具は他の(海外)市場でも非常に反応が高く、このポートフォリオをさらに展開するチャンスがあると感じている。

ジュリア・ゴールディン(Julia Goldin)/2014年にレゴグループ入社。製品開発、マーケティング、リサーチ&インサイト、ライセンシング、パートナーシップなどを統括。入社以前は、コカ・コーラで北西ヨーロッパのマーケティングディレクターや日本のCMO、レブロンでCMOなどを歴任(撮影:尾形文繁)

――ブロックは自由な遊び方ができるがゆえに、どういったカテゴリーの商品を展開するかといった見極めが重要だと思います。

ブロックのパーツがあればなんでも作ることができる、というのはその通りだ。だからこそ、ユーザーがどんな情熱を持っているのかを考え、しっかりとしたアプローチが重要となる。

(新商品の開発に当たっては)まずは大きなポートフォリオからスタートして、デザイナーと何度もクリエイティブセッションを行い、必ず成功が見込めて効果的かつ需要がある領域に絞り込んでいく。

向こう2~3年の間に、大型ゲームIPの商品展開や、スターウォーズなどのエンタメIPにも入っていく予定だ。レゴアートは大型スポーツイベントに合わせてフランスを代表する建築やアート作品などにも目を向けていきたいと考えている。ほかにもこれまで得意としてきた自動車などのカテゴリーや、宇宙をテーマにした展開も今後着手していく。

ゲームメーカーとのコラボを広げる理由

――最近はマリオやどうぶつの森など、ゲームIPとのコラボ商品を積極的に展開しています。どういった狙いからですか。

ゲームは子どもだけではなく大人にもファンがすごく多い。 彼らは大好きなゲームに、さまざまな形でエンゲージしたいと思うだろう。

例えばマリオもゲームで遊ぶのはもちろんだが、グッズ、おもちゃなどを買ってそろえたい人は多いと思う。そういったデジタルな世界とフィジカルな世界を、私たちならではのユニークなやり方でつなぐ体験を提供できると考えている。

任天堂との取り組みがスタートしたのも、そうした思いからだった。子どものみならず大人も、お気に入りのキャラクターとリアルで遊ぶことができる。デジタルと同じように、自分の思い思いのシーンを作って遊ぶことができるのは、レゴならではだと思う。

――逆に「レゴ(R)フォートナイト」(レゴとエピックゲームスが共同開発した、オープンワールドのサバイバルゲーム)では、デジタル上にレゴを持ってきていますね。

(フォートナイトを手がける)エピックゲームスも、任天堂と同様にすばらしいパートナーだ。フォートナイトの世界観をレゴ化していくことで、多くの人に体験を広げることができるのではないかと思いスタートした。

フォートナイトならではのサバイバル性などの特徴をしっかりと入れ込んだうえで、“没入感”にこだわった。初心者から熟練したプレイヤーまで、どんな人でも楽しめるような世界観を作りたいという思いがあった。

ゲームIPとのコラボでは、「デジタルの世界とフィジカルな世界をユニークなやり方でつなぐ体験を提供できる」点が強みという(撮影:尾形文繁)

メタバースでは、人が相互に関わり合いながら、どう空間を広げていくかが重要だ。そのためには、クリエイター(ユーザー)に対してユニークなツールをどれだけ提供することができるかも重要だと思っている。

もともとフォートナイトはアップデートを続けているゲームで、新たなマップもどんどん出てくる。それだけメタバースが広がっていくので、没入感を作ることができる。

「没入感ある体験」で他ゲームと差別化

――オンラインの世界では競合も多いのでは?

いくつか差別化ポイントがあるが、その1つはまさにリアルとデジタルの橋渡しをすることで、非常に没入感のある体験を提供できるというところだ。

他のデジタルゲームは多くの場合、あくまでもデジタルの空間のみで存在する。どれだけ没入感があるかを考えると、レゴに引けをとってしまうと思う。

さらに将来的には、フィジカルで組み立てたレゴブロックをデジタル(ゲームの世界)に持っていくことができるようにしたい。こういったところこそ、レゴならではの強みではないか。

――デジタルの発展を経て、いま再び子どもたちの遊び場がリアルに戻ってきている印象もあります。

背景には、子どもがリアルとデジタルをシームレスに行き来して遊ぶことができるようになったことが1つある。そして、私たちがリアルとデジタルの世界を隔てなく過ごすことができているのは、デジタルというものを恐れることなく、さらに双方のエンゲージメントを増やすことができる機会があると認識できたからだ。

コカ・コーラやレブロンといったグローバル企業でも要職を務めてきたゴールディン氏(撮影:尾形文繁)

実際、消費者にとってよりよいリアルとデジタルの体験を提供できている。デジタルなレゴとリアルなレゴで何ができるかを考え、橋渡しを行い、没入感のある商品を展開できたことは大きい。リアル、デジタル両方で、この先もエンゲージメントをさらに高めることができるだろう。

デジタルとリアルはそれぞれユニークな体験だが、子どもたちは両方を1つの大きな体験ととらえていて、私たちもその流れにしっかりと乗ることができている。

リアルの領域でのイノベーションは最優先事項

――デジタルへ展開する中でも、レゴならではの価値を意識しているということですね。

そういった視点は私たちにとって最優先事項というくらい重視している。要するに、どれだけリアルな世界でのポートフォリオをしっかりと展開できるか、リアルの領域でブロックにイノベーションを盛り込むことができるか、というところだ。

レゴで遊ぶ、何かを作るという過程で得られる満足感、達成感、喜びは格別なもの。とくに子どもにとっては、リアルに作ることで問題解決の力や想像力も養われる。そしてまた、何か起きたときの“レジリエンス“の力も身につけられるのではないか。これは子どもたちの未来のためにも大事なことだ。

私たちは毎年だいたい400ほどの新商品を出し続けているが、必ず新たな機能や色展開、パーツ、デコレーションなどを付けることを重視している。イノベーション力を持ちながら、新たなカテゴリーやプラットフォームをこれからどう展開できるのか、常に考えていきたい。

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