多くのまちづくり職人を育ててきたエキスパートの提言。

まちづくり講座で学ぶ人々(写真:筆者撮影)

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地方創生が叫ばれて10年。実現できたという自治体はそう多くない。では、政府が流し込んだ膨大な「地方創生マネー」はどこへ溶けていったのか。『週刊東洋経済』5月11日号の第1特集は「喰われる自治体」だ。※本記事は2024年5月12日6:00まで無料で全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。『週刊東洋経済 2024年5/11号(喰われる自治体)[雑誌]』(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。定期購読の申し込みはこちら

私がまちづくりに初めて参画したのは、バブル崩壊の余波が色濃く残る1998年のことだった。

廃れた早稲田商店会の立て直しに奔走した。当時高校1年生だった私がこだわったのが、補助金に依存せず、民間が主導する形のまちづくりだ。取り組みは成功し、全国的にも注目された。

高校3年生のときには全国の仲間とともに会社を設立。以来、さまざまな形で各地の地域活性化をサポートしてきた。

地域活性化に大きなインパクトを与えたのが、2014年から本格スタートした地方創生政策だ。それまで話題に上ることがなかった地方のプロジェクトに、多くの人が関心を持ち始めた。

計画作りをコンサルに丸投げ

それはよい刺激となったが、同時に歪みも生んだ。大型の予算が投じられたことで、地方創生マネーに喰(く)らいつこうと群がる人々が出てきたのだ。地域づくりのノウハウがない自治体は、近寄ってくる地方創生コンサルタントに計画作りを丸投げした。

その結果どうなったか。地方創生に向けて自治体が策定した地方版総合戦略は、どこの自治体も似たり寄ったりの内容になった。

自治体職員はなぜ自前で計画を作れなかったのか。その理由は複数あると思う。

1つは、多くの自治体が人手不足に陥っていることだ。既存の業務以外にリソースを割く余力がない。若者は就職先として選ばず、離職率も上がっている。

もう1つの要因が、自治体の人材育成にかける投資意欲の低さだ。22年に自治大学校が調査したところによると、1自治体の年間教育投資額は平均3500万円程度だった。市町村においては500万円程度しか支出していない。1つの調査研究事業を外注するのに数百万円から数千万円の費用をかけているにもかかわらずだ。

教育機会がなければ、当然、知見は得られない。その結果がコンサル外注という結果を招いたわけだが、気をつけなければならないのは、コンサルが本気で地域のことを考えているとは限らないということだ。

コンサルすべてがとは言わないが、コンサル会社の中には、必要なデータをフォーマットに入力し、多少の作文をして自治体に納品しているだけのような会社もある。そうすれば案件を短期間で量産できるからだ。

大手のコンサル会社は、そうやって若手にいくつもの案件を掛け持ちさせ、収益を上げている。

事実関係に明らかな間違い

それですばらしい報告書が出来上がるならばまだマシだが、恐ろしいことに、内容が間違っている場合も時々ある。否、結構な数あるといってよい。誰もが知る有名なコンサル会社であっても、大量採用されたコンサルたちは地域の実情に決して明るくなく、地方に住んだこともないような都会育ちの人が珍しくない。

実際に私が見たケースを紹介しよう。

私自身も関わっていたある自治体が、2000万円以上の費用をかけ調査研究を有名なコンサル会社に委託した。上がってきた報告書を見ると、事実関係に明らかな間違いがいくつも見つかった。

間違いに気づいたのは、自治体の担当者がまちづくりの研修を受け、先端的な取り組み、事例を知悉(ちしつ)していたからだ。

それは偶然であったが、気づける職員がいなければ、納品された報告書の中身を見ても違和感を覚えることはなかっただろう。

ほかにも、よその自治体で使い回されている計画書が微修正されただけで納品されるケースもある。全国の自治体を飛び回っている人ならそこに気づけるが、よその計画を知らない自治体職員ばかりでは、そのおかしさに気づけず、ほかの自治体と似たり寄ったりの計画が実行されるかもしれない。

他方、コンサル任せの危うさに気づき、人材育成に力を注ぐ自治体もある。

早くから公民連携に取り組んできた岩手県紫波(しわ)町は、藤原孝・前町長の時代から「外注より職員への教育投資」を実践してきた。

理由を聞くと、一時的には研修投資の支出が発生するが、研修を受けてスキルを身に付けた職員は、その後、そのスキルを何度も使って成果を上げる、と。つまり容易に投資回収できるというのだ。

一方で、外注を続けていると職員は育たない。毎度、新しい費用が発生することになる。

紫波町は、オガールプロジェクトという、図書館と民間施設を合築する計画を遂行した。民間と行政の連携で、閑散としていたエリアに年間100万人以上が来訪するようになり、国土交通相から表彰を受けている。地価は10年連続で上がり、自治体は税収額を伸ばすことに成功した。

ほかにも、山口県長門市の旅館街をよみがえらせる長門湯本みらいプロジェクトや、衰退した海岸線沿いを新時代の宿泊施設や飲食などで再生させた宮崎県宮崎市の青島ビーチパーク、まちの中心部をリノベーション店舗の連鎖開発で再生している愛知県岡崎市のQURUWAプロジェクトなど、自治体職員が自ら学び、民間と連携しながら成果を上げる事例はいくつもある。

失敗ばかりではない

地方創生がうたわれて10年。全国的に見れば人口減少は止まっておらず、1人当たりGDPの順位も年々下がっている。地方創生は失敗だとみる向きがあるのは事実だが、失敗ばかりではない。

挙げてきたとおり、自治体の職員たちが自ら学び、汗をかいている地域には、まちづくり成功の物語がある。にぎわいを取り戻し、人口減少に歯止めをかけた地域もある。人口減少は止まらなくても、ワインや日本酒など、付加価値の高い商品を生み出し、新たな産業として成長軌道に乗せた地域だってある。こうした成功事例を見落とすべきではない。

衰退していく地域とにぎわいを取り戻す地域。成否を分けているのは人材投資の有無だというのが私の考えだ。

外注依存から脱しようと人材育成に投資してきた地域は、たとえゆっくりであっても着実に成果を上げてきている。

人材投資は予算が必要だが、その後、職員は汗をかき続ける。地方創生は、コンサル丸投げ型から人材投資型へと転換すべき時に来ている。

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