いま、和歌山県の世界遺産の高野山で、新たな「訪問税」の導入が、注目を集めています。

■高野山の「訪問税」導入を検討

和歌山県・高野町に広がる、高野山。
真言宗の総本山、金剛峯寺などがある、日本の仏教の聖地の1つです。

【参拝者】「1つの霊峰っていうのかな。どうしても高野山は参らないかんところやし」

欧米を中心に、海外からも多くの観光客が訪れています。

【ドイツからの観光客】「ずっと来たいと思ってたの。もう何年も来たいと思っていて、ことしやっと来ることができました。(ドイツで)色んな旅行雑誌を読みあさって、その中にあったので興味を持ちました」

■「宿坊」の宿泊客の9割は外国人 人口よりも多くの人が訪れる街

金剛峯寺などを含む「紀伊山地の霊場と参詣道」や、「女人道」などが世界遺産に登録されている高野山。
欧米を中心に、海外からも多くの観光客が訪れています。

そんな中、もともとは参拝客の宿舎であった「宿坊」にも大きな変化が。

【高野山真言宗別格本山西禅院 後藤慈延住職】「ここずっと満室ですね今のところ。平日は9割が外国人の方、1割日本人の方というような感じですね」

趣があり、ゆったり過ごせる客室が、海外からの観光客から大人気で、宿坊側も、英語のパンフレットなどを用意して受け入れの体勢を強化しています。

【海外からの宿泊客】「仏教のお寺に宿泊できることに、いい意味で驚きました、とても良いです。ここに来た人はみんな、雑念をなくして静寂や宗教を感じられます」

■住民の数は年々減少

一方で、町の人口は年々減少。計算上、人口を上回る数の人が、毎日観光に訪れていることになっています。

そんな状況で、課題となるのは、観光客が住民の生活に影響を及ぼす「オーバーツーリズム」です。

高野町の消防本部には、救急車が2台あります。
人口からすると、決して少ない台数ではありませんが…。

【高野町消防署・一柳保署長】「町内に救急車がなくなってしまうケースは、やっぱり出てきます」

ことし4月に救急車が要請された件数のうち、なんとほぼ半数が町民以外からのもの。

観光客の影響で救急車がなくなってしまい、町民への対応が遅れることもあるというのです。

【高野町消防署・一柳保署長】「1回救急が出てしまうと、それだけ何時間も隊員が3人、4人取られてしまう。休みの隊員を招集して補充するのは、もう日常茶飯事です」

また、ことしのゴールデンウィークには、駐車場がほぼ満車の状態となり、渋滞が発生。歩行者があふれた車を避けて、車道を歩く様子もみられました。

■「この街を維持するため 財源確保は大切な課題」

そんな中で高野町は、訪問者から新たに税金を徴収することを検討すると、発表したのです。

【高野町 平野嘉也町長】「短期的に考えると、お客さまが減るのかなと思う方々もいるかもしれません。これから10年、20年ずっとこの街を維持するために、行政としてささえていくための、財源を確保するのは、大切な課題」

現在、高野町では、駐車場の警備や公衆トイレの管理に年間約5000万円の費用が必要となっていて、これを金剛峯寺と折半で支払っています。

さらに、街の景観を維持するため、観光協会に委託する形で、ゴミ回収のパトロールも毎日実施しています。

過疎化が進み、町民からの税収が減ることも予想される中、街のインフラの維持は窮地に立たされているのです。

【高野町 平野嘉也町長】「多くのお客さまに対応するための支出が、(町の財政の内)比率的には多い。これから人口が減っていく街での大きな課題であると」

■課題は「信者への課税」

財源不足などを理由に、新たな税を導入する観光地は全国的にも多く、静岡県の熱海市で「宿泊税」の導入が決まったほか、東京ディズニーリゾートがある千葉県浦安市でも、検討を開始することが発表されています。

しかし、仏教の聖地である高野山には、特有の課題があります。

それは、信者への課税をどうするのかということです。

具体的な税の徴収方法は未定ですが、高野山を信仰目的で訪れる人に対して、税が課される可能性も十分にあります。

先程の宿坊の住職も、課税については悩ましい気持ちを明かします。

【高野山真言宗別格本山西禅院 後藤慈延住職】「(新たな税を)導入していくっていうことは、この先考えていかなくてはいけないと思っております。しかし、高野山に泊まりではなく、お墓参りに来る、供養に来るという方から、入山税を取るとなると、変な言い方すると二重取りのような形にも」

■京都の「古都税」を巡っては…

「信仰」と「税」をめぐっては、過去に大きなトラブルを招いた事例も。

昭和の末、京都市が寺などの拝観料に上乗せする形で課税する「古都税」を導入した際、寺院側が「信教の自由を侵す」などとして猛反発。

対抗策として拝観の停止などが行われ、3年後に廃止となったのです。


高野山によく参拝する人からも、様々な声が聞かれます。

【参拝者】「信仰心でいくとお参りするのは当たり前。それにお金かかること自体、ちょっとおかしいし。信仰と(観光を)分けることは難しいしね」

【参拝者】「全体のこと思ったらイメージ的によくないやん。入山料は取らないほうがいいな。来なくなったらさびれるで」

金剛峯寺は、「様々なインフラ整備などの問題を抱えていることを承知している」としたうえで、「それぞれの理解を得られる施策を検討していただきたい」とコメントしています。

■「国として考えるべき時期に」

専門家は、信仰と結びついた場所でのルールづくりは難しいと指摘。そのうえで、「国が主導して、入国のタイミングで課税をすることで、問題を解決できるのでは」と主張します。

【城西国際大学 佐滝剛弘教授】「国が一括してまとめて問題が起きてるところ、あるいは起きそうなところに分配すると。来てもらうのは歓迎なんだけど、一定の負荷がかかっているので、一定のお金をいただきますということ。それぞれの地方に任せるのではなくて、やっぱり国として考えるべき時期に来ているのかなと」


■海外の観光地では「二重価格」も

高野町ではインフラの維持に限界がきているという中で、「訪問税」導入が検討されています。
今回は海外の事例を見てみましょう。

日本人も多く訪れる東南アジアのタイでは、より質の高い観光に対応するために、寺院でも外国人を対象にした料金を設定しています。

首都バンコクの観光名所である「ワット・ポー」では、入場料は外国人が300バーツ(日本円で約1200円)なのに対し、タイの方は入場無料となっています。

こうした料金格差について現地ではどのように捉えられているんでしょうか?

【関西テレビ 神崎博報道デスク】「東南アジアでは、このような外国人と自国民の二重格のような例はあって、私が駐在していたマレーシアでも、ホテルの表向きの料金があるのですが、マレーシア人と、わたしのような在住している人が、在住の証明を見せると割安な料金で泊まれるということがありました。二重価格というのは1つの手段だとは思いますが、日本人の感覚では受け入れがたいのかもしれません」

信者も参拝に訪れる高野山においては、線引きが難しいように思えますが、番組コメンテーターの菊地幸夫弁護士はこのように考えています。

【菊地幸夫弁護士】「私は宗教の意義を認めてるつもりですけれども、例えば、参拝に行った方だってそこでお手洗いを使うかもしれない、もし熱中症になれば救急車を呼ぶかもしれない。なぜ参拝に行った方に、金銭的な負担をさせてはいけないのかと、ちょっと僕は疑問なんです。宗教法人は、例えば固定資産税が宗教施設にはかからないといっても、普通の人が一般的に負担しているものと区別する理由は、僕はないんじゃないかなと思います。そういう意味では、もう少し税負担という形で、色んな人に求める理由はあるんじゃないのかなと思います」

地元の方々の生活を守りながら、観光客をおもてなしする持続可能な観光地のあり方が今後議論されていくことになります。

(関西テレビ「newsランナー」2024年5月9日放送)

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