カレールウで国内首位のハウス食品。同社の三大カレーは「バーモントカレー」「ジャワカレー」「こくまろカレー」という大箱のルウ商品だ。昨年、そのラインナップに約10年ぶりの新ブランドが加わった。「X-BLEND CURRY(クロスブレンドカレー)」だ。
クロスブレンドカレーはスパイス感を前面に打ち出した商品だ。2023年8月に甘口と中辛を発売すると、5カ月で累計売り上げが500万個を突破するヒットになった。2024年2月には新たに「辛口」を投入し、さらなる攻勢に出ている。
カレーは日本の食卓に欠かせない存在だ。歴戦のロングセラーが並ぶ中、久々の新ブランドが家庭の支持をがっちりとつかんだ理由は何か。
「こくまろ」と「ジャワカレー」の間のニーズ
開発がスタートしたのは2022年2月のこと。コロナ禍では食事を家庭でとる機会が増え、家庭用スパイスの購入金額は順調に伸びていた。ハウスは「以前よりもスパイスが受け入れられやすくなっている」と考えていた。
一方で、ハウスはカレーにおいても消費者の嗜好の幅が広がり、従来のラインナップではカバーできない領域が生まれつつある、といった課題も認識していた。
主力の「バーモントカレー」は子どもを持つ世帯を軸に幅広く支持されている。焦点となったのは、コクとまろやかさを重視し、食べ盛りの世代から大人向けにも対応した「こくまろカレー」と、大人向けで辛くスパイシーな「ジャワカレー」の間の空白地帯だった。
開発陣はこの隙間に「辛さだけではない、スパイス感を求めるニーズがある」と考えた。数多くのスパイスを用いて、スパイスが主役のカレーを作れば広く受け入れられるのではないか。開発の方針は固まっていった。
スパイスが主役なだけに、通常は調味料を駆使する「コク」も、香りで打ち出そうと画策。ハウスのカレールウ製品の中では、数十種類と過去最多レベルのスパイスを使用することになった。
「中辛」の栄養成分表示には実に多種多様なスパイスの名前が並ぶ(記者撮影)スパイスは同じ種類のものでも産地や加工度によって特徴が異なる。スパイスの選定には7カ月、通常の3倍もの時間を費やした。
また、スパイスは組み合わせる種類が多いほど、風味がとがらずにまとまる傾向がある。調合を工夫し、トレンドであるインド風スパイスの特徴を出しつつ、子どもから大人まで食べられる「おうちカレーらしさ」にもこだわった。
スパイスの香りがしっかりと立つようにカレーのベースも刷新し、調味料や油脂、小麦粉のバランスなども調整。その結果、3000回以上も試作を繰り返した。新機軸の商品は、ひたすら地道な調整の繰り返しだった。
バーモント値上げ後の客離れを防ぐ役目も
商品を担当した食品事業本部の山本篤志氏は「ごはんの甘みに負けない味付けで、香りも味もスパイスで表現したのがクロスブレンドカレーの特徴。ベースはシンプルにしながら、技術でスパイスの味を引き立てている」と解説する。
風味に加えて、クロスブレンドカレーにはもう一つ、重要な使命もあった。主力のバーモントカレーが値上げを実施する中で客離れを防ぎ、値頃感のある価格帯で勝負することだ。
クロスブレンドカレーは8皿分・140グラムの参考小売価格が258円(税別)、バーモントカレーは6皿分・115グラムが希望小売価格241円(税別)だ。単純比較で、1皿当たりの価格はクロスブレンドカレーが2割ほど安い。
ハウスは独自の加熱・焙煎技術でスパイスの香りと旨みを引き出し、多くの種類のスパイスを用いても価格を抑えられたと説明する。ただ、この点にはもう一段の企業秘密と努力がある。カレーベースの開発やマーケティングなどでも、多方面でコストを抑える工夫を凝らしているようだ。
2023年8月の発売時には、営業努力のかいあって数多くのスーパーの店頭に並び、販促の企画なども頻繁に実施された。
商品を担当する山本氏は、スパイスでコクなどを表現したことが特徴だと説明する(記者撮影)全国でテレビCMを放映し、1400万人超と食品メーカー屈指の「友だち数」を誇るLINEでの情報発信も進めた。新規軸の風味、手に取りやすい価格、売り場の企画。さまざまな戦略が絡み、ヒットへとつながっていった。
過去のルウ商品と比べても好発進となったクロスブレンドカレー。今後はブランド確立に向けた段階に入る。
山本氏は「2月に辛口がそろったので、今後が勝負になる。新しいフレーバーを出すよりも、まずはこの3品(甘口・中辛・辛口)を根付かせたい。そこに資源を投入していく」と意気込む。
値上げを巡るメーカー各社の葛藤
近年、値上げラッシュの様相となった食品業界。コスト増への対応として値上げは欠かせないが、どれだけロングセラーの商品であっても、値上げ後も消費者の支持を集め続けることは難しい。
安さを求め、他社製品や量販店のPB(独自企画)商品に流れてしまう消費者は非常に多いのが現実だ。特に嗜好品は売上数量が一時的に2割減などと大きく落ち込むこともある。
そんなシビアな消費環境で、どうすれば自社商品のファンをつなぎとめられるのか。新機軸を打ち出し、価格面も抑えたクロスブレンドカレーのヒットは、現在の業界の勝ち筋を示す重要事例といえそうだ。
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