特集は久しぶりの新人です。国の伝統工芸に指定されている信濃町の「信州打刃物」。「後継者不足」が課題となる中、この春、高校を卒業した若者が職人を目指して修業に励んでいます。

■打刃物職人目指し修業する18歳

真っ赤に焼けた鋼。金槌を打ち付けるのは大木島蓮さん18歳。松川町の出身で、この春、高校を卒業したばかりです。

大木島蓮さん(18):
「すごく硬い鉄が熱するだけで柔らかくなって、広くなったりするのが魅力」

2024年4月、地域おこし協力隊員として信濃町に移り住み、打刃物職人を目指して修業中です。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「1cmくらいの手前を打てば、一番太っているところ、縦につぶして。そうそう」

師匠は石田俊雄さん(74)。この道60年、「伝統工芸士」にも登録されています。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「大木島くんは物覚えがいい、飲み込みがいいので感心しています。年がうんと離れてますから、雰囲気としては自分の孫みたいな感じで」

この日、作っていたのは鎌です。

■町で若者の修業は60年ぶり!?

信濃町は「打刃物」の里。

約470年前、川中島の合戦の際に刀剣や武具を製造・修理する刀鍛冶が移り住んだのが始まりとされています。


その後、冬場の手仕事として定着し、鎌や包丁が作られてきました。それが「信州打刃物」です。

大木島さんは期待の「新弟子」。職人を目指して若者が修業するのは60年ぶりとも言われています。

■アニメきっかけに鍛冶に興味

幼いころから、モノづくりが好きだった大木島さん。鍛冶の仕事に興味を持つ切っ掛けとなったのはアニメの主人公が使う武器の「鎌」だったと言います。

大木島蓮さん(18):
「アニメをきっかけに、鍛造方法とかに興味を持って、鎌が一番最初は好きだった」

「刃物」はどうやって作られるのか。工業高校に進んで学びました。

大木島蓮さん(18):
「鉄に関するコークスを使った熱し方だったり、炭を使った熱し方を学んだり、ハンマーの種類を学んだりしていました」

高校3年生の時に課題研究で包丁を製作。その過程で、信濃町の信州打刃物を知りました。

長く「深刻な課題」を抱えていることも。

大木島蓮さん(18):
「(職人の)人数も少なくて、もしかしたらなくなってしまうかもしれないとわかった。自分自身も刃物が好きだったので、打刃物をやろうという形になりました」

■町の打ち刃物職人の最年少は74歳

信濃町の打刃物職人は40年ほど前は60人以上いましたが、今は石田さんを含め5人。役場によると高齢化も進み実は74歳の石田さんが最年少です。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「ここの集落は昔、相当(鍛冶屋が)あった、周りほとんどそうだったね。朝になれば向槌といって、刀匠でいえばお弟子さんみたいに、でかい槌やってんね、あんな音がよく聞けた。今5人しかいないんですわ、職人たるものね。ちょっと残念だね、寂しい」


石田さんは中学卒業後、家業の「打刃物」の道へ。父・春亀さんから技を受け継ぎました。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「(当時の思い出は)怒られたのしかない、今みたいに教え方って、そういうふうに教えてもらったの一回もない。怒られてさ、ダメ、ダメとか言われたって何がダメかわからないし」

その石田さんにこの春、初めての弟子ができたのです。


■工場で炉の準備から鎌作り

11月15日―。

大木島蓮さん(18):
「おはようございます」

町内で一人暮らしをしている大木島さん。毎朝、車で工場へ。

大木島蓮さん(18):
「まだ雪をこっちに来てからは見ていないので、初めての雪になる。地元(松川町)とは勝手も違うと思うので不安」

工場に着くとまず炉の準備。炭とコークスを入れて火をつけます。

大木島蓮さん(18):
「8月9月あたりからようやく(この準備も)習慣みたいになった」

炉が温まったら鋼と鉄を合わせた刃物の素「利器材」を火にかけます。

修業は道具の名前や使い方を学ぶことから始まりました。

今は、石田さんの親戚の工場を借りて実際に鎌作り。この日は21ある工程の4つ目、利器材を鎌の形にしていく「広げ」に取り組みました。

大木島蓮さん(18):
「自分の手でも熱さえあれば曲がったりするので楽しい」

■師匠が「信州鎌」の作り方指導

石田さんが訪れ、指導が始まりました。自身が受けた時とは違い、やさしく丁寧です。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「2つばかりトントンと常に頂点に向かって平行にやるように」

“師匠”石田俊雄さん(74):
「今教えているのは『信州型』といって、信州独特の形。大きさ18cm、幅はこれくらいって基本があるので、それに近づけている」

「かみそり鎌」と呼ばれる鋭い刃が特徴の「信州鎌」。刈り取った草が手元へ寄せられるように「芝付け」という加工が施されています。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「(芝付けは)柄が刺さるところが角度ついてる。だから刃元から草に当たって切れやすい、使いやすい」

石田さんが「見本」を作ってくれました。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「昔ながらのやり方で、『コミ曲げ』というのをやってみます。しっかり持って、目的の所狙って、よしここだって決めたら、位置が難しいんです。この位置で全然鎌が違くなっちゃう」

鎌の頭と柄をつなぐ「コミ」を作る作業。鋼を曲げる難しい工程です。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「よし、こういう感じ。コミを曲げるから『コミ曲げ』」

■二人が作ったものを並べると

約15分で4枚の刃の「広げ」が終わりました。

二人が作ったものを比べるとー

石田さんの刃は薄くてまっすぐ。差は一目瞭然です。

4枚重ねると石田さんの刃は「個体差」がほとんどないこともわかります。

大木島蓮さん(18):
「自分はまだまだだなって感じるとともに、頑張って学べば師匠みたいになるのはやりがい」

■師匠「下手上手は二の次」成長に期待

指導して約7カ月。着実に成長する大木島さんに石田さんは期待を寄せています。

“師匠”石田俊雄さん(74):
「たまたまね(大木島さんは)大当たり、こうはうまくいかない。下手上手は二の次で、できてはじめていいんだから、それから自分で努力すれば自然に上手にもなるし、人にも認められるし、するとますますやめられなくなると、そういうふうになってもらいたい。自分の力じゃ増やすわけにいかないから、また大木島君みたいな人物が現れるといいけど」

伝統を受け継ぐ18歳。修業は始まったばかりです。

大木島蓮さん(18):
「鍛造をとにかく頑張って覚えなきゃいけない。自分が今できることをとにかくやって、次に来る人(後継者)たちの土台を残していければ」

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