静岡市葵区の山中にある井川蒸溜所。4年の歳月をかけて製造したウイスキーの販売が2024年の秋から始まった。手がけたのは酒造とはこれまで関わりのなかった製紙会社だ。社長に新規事業への挑戦を決意した経緯を聞くとともに飽くなき向上心でウイスキーと向き合う社員を取材した。
社員の熱意に動かされ挑戦
この記事の画像(11枚)静岡市の中心部から車で約4時間。秘境ともいえる静岡市葵区の山奥にあるのが「井川蒸留所」だ。
貯蔵庫には樽1000個が並んでいる。
標高1200m。
国内で最も高い場所にあるこの蒸溜所で作られているのが南アルプスの大自然を生かして熟成させたウイスキーだ。
ただ、手掛けているのは酒造メーカーではなく、油や水に強い紙などを作っている特種東海製紙だ。
特種東海製紙・松田裕司 社長:
新聞や雑誌などいろいろな情報伝達媒体として紙が使われていたが、ほとんどデジタル化されて紙に出力せずに情報が伝達されるような形になってきている。そうした中で、私は2016年の4月に社長に就任したが、その時に紙事業以外の事を絶対にやっていかなければならないないという思いが非常に強かった
特種東海製紙では静岡市葵区に2万4000ヘクタールにも及ぶ広大な山林を所有していて、ここの木材と清らかな水をウイスキーに活用できると考えたが、製紙会社にとっては未知の領域。
それでも「社員の熱意に動かされた」と松田社長は振り返る。
特種東海製紙・松田裕司 社長:
人の想い、社員の「ウイスキー事業をぜひやりたい」というウイスキーに対する情熱が、最終的な決断に大きく関係したのは間違いない
誰もが楽しめる酒を目指して
穀物を原料に、蒸溜によって作り出したニューポットと呼ばれる原液を木の樽で3年以上の時間をかけて熟成させることで完成するウイスキー。
樽の木材から香りの成分や色素成分が溶け出すため、熟成期間がウイスキーの特徴を左右するとも言われている。
井川蒸溜所・瀬戸泰栄 所長:
この樽はミズナラの何百年も経っているものが、古木になって倒れていた。それを拾って製材し、そのまま倒れていたら土に返ってしまうところを、樽としての第2の人生を歩んでもらい、酒造りに生かしている
目指したのは「初心者から愛好家まで誰もが楽しんでもらえるように」との思いを込めて、癖のない味。焦げ目のあるホットケーキのような穀物の甘さとハニー系の甘さなど、いろいろな要素がある酒だ。
最初は試行錯誤の連続だったが、2024年夏、ついに商品化への道筋が見えた。
6人が試行錯誤で酒造り
現在は6人が井川蒸溜所で働いていて、中には「ウイスキーづくりに携わりたい」との思いから転職してきた人もいる。
井川蒸溜所・城本将史さん:
毎日いろいろ考えながら自分たちでできる範囲で改善しながら、日々おいしいウイスキーを作ろうと、みんなでワイワイやっているのですごく充実している
ウイスキーの販売は2024年11月から始まり、ようやくスタートラインに立つことができた。
井川蒸溜所・瀬戸泰栄 所長:
この山の中でとれたいろいろな木を使った樽を育てたり、使う原料を変えてみたり、僕たちの特徴を持ったままいろいろなパターンを作っていきたいというのが今後の目標
異業種からの挑戦で、業界に新たな風を吹き込むことはできるのか。
これからも飽くなき向上心でウイスキーと向き合う覚悟だ。
(テレビ静岡)
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