世界の電気自動車(EV)市場を切り開いてきたテスラが失速しています。足もとでは、4年ぶりに決算が減収減益に陥りました。稀代の起業家であるテスラCEOのイーロン・マスク氏は、この苦境から脱する活路を見出せるでしょうか。

テスラ決算、4年ぶりの減収減益

テスラが発表した2024年1-3月期決算は、売上高が213億100万ドルと前年同期比で9%減り、最終利益は11億2900万ドルと55%もの減少でした。減収減益は20年4-6月期以来、ほぼ4年ぶりのことです。

ドイツ・ベルリン工場の火災で欧州市場向けの出荷が大きく減った上、主要市場であるアメリカと中国で共に販売が振るわなかったためで、世界販売台数は38万台余りと前年同期比で9%も減少しました。アメリカや中国では値下げを実施したものの、期待したほどの販売増には結び付かず、採算は悪化したようです。

1-3月期の営業利益率は5.5%と、前年同期の11.4%から大きく低下しました。22年1-3月期に19.2%と製造業としては驚異的な高さを誇った面影は、もはやありません。利益率だけみれば、テスラも「普通の会社」になった格好です。構造改革のため、全世界の従業員を10%削減することもすでに発表しました。

GMもフォードも、EVは不振

もっともEVが不振なのは、何もテスラだけではありません。

アメリカ市場では、一時EVに大きく舵を切ったGMもフォードも、思ったほど消費者に受け入れられず、2024年1-3月期決算では両社とも、EVの販売台数は前年同期比で2割も減少しました。フォードのEV部門の赤字は、3か月で13億ドルにも達しています。両社はすでに、ハイブリッド(HV)車やガソリン車などの生産拡大に資源を振り向けています。

EVは、車両価格が高いこと、充電施設がまだ十分整備されていないことなどから、一定の「余裕ある」「新しもの好き」の層による購入が一巡し、需要の大きな「壁」に直面しているようです。

中国勢の熾烈な低価格攻勢

一方、世界最大のEV市場である中国では、テスラを含む外国メーカーは、中国勢の猛烈な価格競争にさらされています。

中国メーカーの背後には、もちろん中国政府の補助金の助けがありますし、最大のコスト要因であるバッテリーについて、材料の調達から生産に至るサプライチェーンを早くから押さえおり、そのコスト競争力に一日の長があるからです。

EVの核であるバッテリーの供給力と価格競争力で世界を席巻し、EV化によって世界の自動車市場の主導権を取るというのが、中国の戦略です。テスラの決算からは、今のコスト構造では、テスラでさえ中国勢と戦うのが厳しいことがうかがえます。

カギを握る「手ごろな価格帯」の新型EV

今後のカギを握るのは、やはり、手ごろな価格帯のEVができるかどうかでしょう。

そのためにはバッテリーの劇的なコストダウンが実現するような技術革新と、その実装が必要です。今のバッテリーの価格では、高価格帯の車はともかく、3万米ドル前後の大衆車のEVでは、とても採算がとれないからです。

手ごろな価格のEVが出なければ、EVの販売台数が「壁」を越えて、劇的に増えることにはならず、結果として、量産効果も得られません。EVの台数が増えなければ、充電施設の整備も進まないように思えます。

まさにテスラは、そのことに挑戦しようとしてきました。決算後の記者会見でマスク氏は「2025年始めには新型モデルの生産を始める」と、これまで25年後半としてきた計画の前倒しを宣言しました。

しかし、「手ごろな価格帯」の数字や、新モデルの具体的な内容については、言及を避けています。

自動運転「ロボタクシー」も8月公開

さらにマスク氏は、「ロボタクシー」と呼ぶ、自動運転タクシーも8月には公開すると改めて強調しました。単にEVを製造する企業ではなく、IT技術やAIと結びついたサービスを提供する企業を目指す姿勢は一貫しています。それでも、自動運転実現の難易度が高いことは、想像に難くありません。

起業以来、これまで「無理」と言われたことを、何度も乗り越えて来たマスク氏が、この苦境から脱する活路を見出せるか、テスラにとっては、正念場の戦いになります。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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