衆院選後の政局

10月27日の衆院選では、与党の自民、公明両党が大きく議席を減らし215議席となり、過半数(233)を18議席割り込んだ。ただ、最大野党である立憲民主党が大幅に議席を増やしたとはいえ148議席にとどまる中、考え方が大きく異なる野党が結集して、「非自公」政権を構築するのは(可能性ゼロとまではいわないまでも)非常に難しい。自公と他党(国民民主党、日本維新の会など)の連立・閣外協力ないしパーシャル連合がメインケースとして想定される。

政治資金規正強化、財政拡張、利上げはゆっくり

自公を軸とする政権が続く場合、石破首相は協力を求める政党の政策を取り入れることを明言している。したがって、連立、パーシャル連合いずれの形になるにしても、政策の方向性は、①政治資金規正の更なる強化、②家計向けを中心とする財政拡張(教育無償化、家計補助、景気対策拡大、「年収の壁」の引き上げなど)、③賃上げ、金融資本市場の安定が続けば日銀の段階的な利上げは可能だが、野党各党の主張などから考えて、慎重なペースで行われるという3点に整理できよう。

民間主導の改善

アベノミクスが始まった2013年当時は、企業の利益率がまだ低く、賃金・設備投資の抑制が続いていたため、政策によって経済を刺激することが非常に重要だったとみる。しかし、昨年来の日本の名目成長率の加速と株価の上昇は、利益率が十分に回復し民間のダウンサイジングが終了したことや、グローバルなインフレ環境・為替レンジの変化がドライバーになっているとみる。実際、大企業の売上高経常利益率(財務省法人企業統計ベース)は過去最高水準へ回復、GDPに占める設備投資の比率はデフレ・ゼロインフレ期であった過去レンジを上抜けてきた。

日本の政局の不安定化(パーシャル連合などの場合)が企業心理に与える影響や財政規律の緩みに対する金融市場の反応には注意が必要とみるが、経済政策が景気をサポートする中、国内要因からみれば、日本経済は賃上げの進展など民間主導の改善が継続可能な状況にあるとみる。

足元の米国は安定

米国については、労働生産性の上昇が続き、企業収益、雇用者所得、インフレのいずれも良好な環境にあるとみる。単月の雇用統計は特殊要因などで変動が激しいが、3カ月移動平均で月間10~15万人の雇用増ペースが維持できれば、景気失速リスクは低いだろう。

米大統領・議会選のシナリオ別分析

そうした中で、米大統領・議会選の結果が市場環境を動かす要素として重要であることは言うまでもない。ハリス氏の場合、大統領選で勝利しても民主党の改選議員が多い上院で共和党に多数を奪還される可能性が高く、ねじれ議会の下で予算や税制改革法案を成立させるのは困難だろう。また、バイデン政権の路線を継承するとみられるため政策の大きな変化はなさそうだ。

トランプ氏が再選され、上下両院で共和党が多数になった場合、トランプ政権1期目に導入された時限減税の恒久化や製造業支援などの支出増加など財政面の政策に先行して取り組むとみられる。他ケースと比較し、米金利高、株高、ドル高となる可能性が高まろう。

トランプ大統領の下、ねじれ議会(上院:共和党、下院:民主党)になる場合、トランプ氏が主張する関税引き上げ(対中60~100%、全輸入10%等)、移民制限など大統領令で実施できる(財政以外の)政策に注力しよう。関税引き上げなどは物価上昇圧力と景気抑制効果の両面があり、また他国の報復の可能性もある。金融市場は不安定になりやすいだろう。

もう一つのキーファクター:FRBの利下げ余地

トランプ氏が再選された場合のリスク評価の参考として、前回のトランプ政権時を振り返ると、最初の1年半程度は減税・規制緩和などによる経済成長期待でグローバルに株価は上昇した(①)。2018年11月の中間選挙前後から、トランプ政権が対中関税の引き上げなど保護主義的な政策を強調、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げと相まって、米国を含め先進国の株価は大幅に下落した(②)。2019年に入ると株式などリスク性資産の市場は持ち直した(③)。トランプ大統領は対中関税問題で強硬姿勢をとりつつも、交渉では現実的な対応をとったこともあるが、インフレ安定・景気下振れリスクを意識してFRBが利下げに転換する姿勢を示し始めたことも株価の支えとなったみられる。

2025年にかけ選挙後の米国の経済政策が金融市場のストレスになる局面はあり得よう。しかし、生産性上昇のもとでインフレの再加速が避けられれば、FRBの利下げ余地は大きいとみる。株式などリスク性資産について、大幅な下落が一方的に続くリスクは限定的だろう。

(※情報提供、記事執筆:三井住友DSアセットマネジメント チーフマクロストラテジスト 吉川 雅幸)

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