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中国の産業界や消費者が、低い経済成長が続くことを前提とした行動に軸足を移している。不動産不況や米中対立の長期化が確実となり、投資や輸出が主導した高成長が戻らないことが中国社会の共通認識になってきたためだ。不動産などのバブルがもたらした経済の水膨れが消え、実現性やコストパフォーマンスの高い業態への移行が進みつつある。低成長に慣れた日本企業の協力や競合の相手になる可能性がある。
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【配信予定】4月27日(土)
対中包囲網下で模索する「半導体国産化」の現在地
4月28日(日)
日本化する中国消費「勝ち組」は超絶コスパで勝負
「すでに『5.5G』の潜在顧客を世界各地から招いている」。中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の広東省深圳市の本社を3月末に訪れ、地下の展示ホールに降りると担当者は自信ありげに語った。高速通信規格「5G」を進化させた5.5G技術で世界トップを走るという自覚があるためか、展示物の写真撮影は許可されなかった。
ファーウェイはこの日、「顧客、提携先、社会の信頼と支援によって生き残り、発展している」との声明とともに、2023年12月期決算を発表した。確かに、半導体の禁輸など足掛け6年に及ぶアメリカの制裁を克服したことを示す決算だった。
アメリカの制裁をはね返す好決算
純利益は前期比2.4倍の869億元(約1兆8250億円)と2期ぶりの増益で、売上高は7041億元(約14兆7800億円)と2期連続の増収だった。2020年11月に発表した低価格スマートフォンブランド「オナー」事業の売却益558億元(約1兆1700億円)を計上する特殊要因は残ったが、本業で黒字や増収を安定確保している。
中国を代表するハイテク企業であるファーウェイは任正非・最高経営責任者(CEO)が1987年に深圳で創業した。2000年代に入ると携帯電話の基地局の輸出で成長軌道に乗ったが、アメリカ政府は当時から警戒対象としてきた。
通信機器は安全保障に直結するうえ、任氏に人民解放軍での勤務歴があるからだ。アメリカ政府がファーウェイによるアメリカIT(情報技術)企業の買収を許可しないなどの事案が断続的に起こっていた。
2018年3月に米中ハイテク摩擦が勃発すると、ファーウェイは最大の焦点に浮上した。アメリカ政府は同社を調達から段階的に排除。2019年5月には、事実上の禁輸措置である「エンティティ・リスト(EL)」への掲載に踏み切った。
当時はアメリカ政府によるEL掲載で最先端IC(集積回路)の調達ルートが絶たれ、ファーウェイは致命的な打撃を受けるとの見方が強かった。中国同業大手の中興通訊(ZTE)の前例があったためだ。
アメリカ政府は2018年4月、イランなどへの不正輸出を理由に、ZTEとアメリカ企業の取引を7年間禁止。アメリカ企業製ICの調達を絶たれたZTEはスマホ生産を継続できない経営危機に直面した。わずか3カ月後に罰金の支払いや経営陣の刷新に応じ、制裁を解除してもらった。
ファーウェイとZTEの明暗を分けたもの
しかし、ファーウェイはアメリカ政府に白旗を掲げることなく、未然に危機を回避した。両社の明暗を分けたのは、ファーウェイが①ICの独自開発を核とする事業継続計画(BCP)を機能させた、②BCPで稼いだ時間で事業構成を組み替えた――の2点である。
その過程を振り返ろう。ファーウェイの売上高はアメリカの制裁下にもかかわらず、2020年12月期まで増収が続いた。これは中国国内で同社に同情する「愛国消費」が盛り上がり、同年前半までスマホ販売が好調だったことが最大の理由だ。
ただし、いかにスマホ需要が旺盛でも、搭載するICがなければZTEと同じ運命をたどる。ファーウェイは2000年代前半から、アメリカとの摩擦を見越して「スペアタイヤ計画」と呼ぶBCPを整備しており、これを発動した。2004年設立の半導体子会社、海思半導体(ハイシリコン)が中核を担った。
ファーウェイは長年、スマホ用などの最先端ICでアメリカ企業製とハイシリコン製を併用してきた。これをハイシリコン製という“スペア”に一本化したのだ。詳細は未公表だが、実は半導体大手である台湾積体電路製造(TSMC)の決算データから動向を推定できる。
ハイシリコンはIC設計で世界有数の実力を持つが、工場を持たない「ファブレス」業態のため、最先端チップの製造はTSMCに委託してきた。同社の中国向け売上高は長年、10%前後で推移してきたが、2018年4~6月期に23%まで跳ね上がった。まさに米中摩擦が始まった時期だ。
TSMCはアメリカの制裁強化を受け、2020年9月にハイシリコンへの出荷を停止した。すると2020年10~12月期の中国向け売上高は前四半期比で16ポイント低い6%まで下落した。ハイシリコン向けがごっそり抜け落ちた結果だ。
つまり、ファーウェイはアメリカの制裁強化でTSMCとの取引が絶たれる前に、ハイシリコンを使って最先端ICチップの在庫を大量に確保したのだ。このBCPでスマホ事業を延命し、2020年12月期までの連続増収を実現した。さらにBCPで稼いだ時間を生かし、②の事業構成の組み換えを進めた。
「南泥湾計画とは『生産自救』を指している。当社は石炭、鉄鋼、音楽、スマートディスプレー、パソコン、タブレットなどの分野で大きなブレークスルーを果たす可能性がある。つまりスマホに頼らなくても生き残れる」。任氏は2021年2月、中国メディアの取材にこう語った。
南泥湾は中国陝西省延安市の地名であり、共産党軍が日中戦争時に自給自足を実現し、日本軍の攻撃や国民党軍の封鎖を切り抜けた故事で知られる。任氏の発言からはファーウェイが事業を多角化し、経営基盤を安定させる計画を進めたことが読み取れる。
2023年12月期の事業構成を検証してみよう。基地局などの「ICTインフラ」は売上高の約半分を占める。これは米中摩擦前の2017年12月期と大きく変わらない。約35%を占める「端末」はオナー売却でスマホが減る一方、ファーウェイブランドのパソコンやタブレットの種類が増えたことは日本の家電量販店を見ても容易に想像がつく。
6年前にはなかった事業群が育つ
残りは炭鉱や工場の運営管理に使う人工知能(AI)サービスなどの「クラウドコンピューティング」、太陽光発電用インバーターなどの「デジタルエネルギー」、先進運転支援システム(ADAS)などの「スマートカーソリューション」で占める。いずれも6年前の決算書に記載がなかった新たな事業セグメントである。
これらの新規事業には2つの共通点がある。1つは最先端ICへの依存度が低いことだ。同じIT機器でもスマホよりサイズが大きく、搭載するICチップを微細加工で無理に小型にする必要がない。もう1つは既存技術を応用していることだ。例えば、過酷な屋外環境で雨風にさらされる太陽光発電用インバーターは基地局で積んだ経験が生きている。
事業組み換えで安定したファーウェイの経営だが、一方で海外売上高比率は2023年12月期に33%と米中摩擦前(2017年12月期は49%)から大幅に下がった。同社の国際的な影響力を削ぎたいアメリカ政府の制裁が功を奏している。存続自体が最優先だった同社側としては、内弁慶な形での復活もやむを得ないところだろう。
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