(ブルームバーグ):日本の上場企業が経験者に頼ろうとするあまり、複数社を掛け持ちする社外取締役が増えている。1社の経営チェックにかける時間は当然少なく、投資家もコーポレートガバナンス(企業統治)に対する本気度を疑っており、兼任社外取締役を抱える企業の株価はさえない。

東京証券取引所は2022年の市場再編に合わせてプライム市場(旧1部)の上場基準を厳格化し、独立社外取締役が少なくとも取締役会全体の3分の1を占めるよう求めた。それまでは2人以上とされていた。ただし、企業にとっても自社に最適な社外取締役候補を見つけることは容易ではなく、他社との争奪戦の中で結果的に兼任の登用が増えている可能性がある。

SBI証券の波多野紅美チーフクオンツアナリストによると、東証プライム指数を構成する1600社余りのうち、3割程度の約500社で兼任社外取締役を抱えており、5年前と比べ70社ほど増えたという。該当企業の株価は、19年4月以降の5年間で市場平均を8.6%アンダーパフォーム(均等指数、月次リバランスベース)し、兼任がいない企業が3.5%アウトパフォームしたのとは対照的だった。

 

波多野氏は「経営者に忖度(そんたく)せず、異なる常識を持ち込むことが大事とされる社外取締役で、掛け持ちを入れているのはガバナンスの弱さに関連している可能性がある」と分析。また、株価低迷の背景には取締役会の多様性確保で後手に回り、社外取締役の争奪線に加わらざるを得なくなったことがあると指摘した。

社外取締役の役割は外部から緊張感を与え、専門的で独立した立場から経営を監督し、助言するというものだ。登用の強化はガバナンス改革の柱の一つで、日経平均株価など日本を代表する株価指数が今年に入り30年以上ぶりに最高値を更新する原動力にもなった。東証によると、プライム銘柄で3分の1以上の独立社外取締役を選任する企業の比率は今年98.1%となり、5年前の43.6%から大きく増えている。

ニッセイアセットマネジメントの伊藤琢チーフ株式ファンドマネージャーは、以前は社外取締役との面会を要請しても実現しなかったが、「この1-2年で急激に増えた」と明かす。半面、「複数社のポジションを掛け持ちしたり、過去の縁故で社外取締役に就任したとみられるような人は、まだ投資家と会おうとしないことが多い」とも話した。

1社のチェックに割く時間が限られる兼任社外取締役が多い企業は、投資家からガバナンス強化への本気度が疑われるほか、形式主義に陥っているとの批判を受けやすい。また、投資家自身も株主総会を経て選任した事実があり、ジェンダー比率や取締役会の出席率など画一的な議決権行使基準が問題視されている面もある。

数字より実質

市場も兼任取締役の存在を全て否定しているわけではなく、コモンズ投信の伊井哲朗社長は執行を伴う役職にいる取締役であれば、2社程度の掛け持ちまでは許容できると指摘。それ以上は負担が大きいとの考えを対話を通じて投資先企業に伝えていると言う。

これまで以上に日本企業が国内外投資家から評価されるために重要なのは、コーポレートガバナンス・コードに沿った取締役会の構成比率など数字面ではなく、兼任であっても効率的な経営にどれだけ貢献しているかという実質面だ。

レオス・キャピタルワークスの福江優也トレーダーは、社外取締役の実務指針などが出たことで企業が対応して変化しているのは事実だが、「コーポレートガバナンス改革はまだ道半ば。全体に行き渡るまでには時間がかかる」とみている。

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。