時に重くのしかかる税金の負担…。相続では「生前贈与」が代表的な対策の1つです。今年、その贈与の主な制度2つに大きな変更がありました。なにが変わり、誰がどうすれば制度を有効活用できるのか、専門家が解説します。
暦年課税制度とは?ポイントは誰が相続加算の「対象外」か
まずは「暦年課税制度」から見ていきます。これは毎年110万円までの贈与であれば受け取る人に贈与税がかからない仕組みです。三菱UFJ信託銀行MUFG相続研究所の主任研究員である玉置千裕さんは、例えば健康な人や比較的若い人など「ある程度長期にわたっての贈与が可能な人」が適している制度だと指摘します。
ただし、気をつけるべきポイントがあります。従来、暦年課税には相続直前の「駆け込み贈与」での節税を防ぐため、死亡前の3年間の贈与は相続税の課税対象として加算される規制がありました。今年の法改正でその規制が強化され、相続前の7年間分までが段階的に課税対象に含まれることになりました。
これは政府の税収増を狙う”増税“的側面がある、と玉置さん。一方、親子ともに高齢な”老老相続“が増えるなかで「教育や住宅資金が必要なタイミングなどで、資産の早期移転を促す」という目的もあるとも付け加えます。
また死亡前の贈与が相続財産に加算される規制は、孫や子どもの配偶者など、相続人以外へ贈与した場合は対象外となります。こうしたことも考慮に入れて贈与するタイミングや相手を選ぶべきでしょう。
相続時精算課税制度とは?法改正で便利になる一方、 注意点も
次に「相続時精算課税制度」についてです。この制度では、贈与額が計2500万円までは課税されない特別控除枠があり、それを超える金額に対して一律20%の贈与税が課されます。特に高額の財産を短期間で贈与したい場合に有効といえます。
もう一つの特徴は、今年の法改正により2500万円の控除枠の他にも年間110万円までの基礎控除(非課税枠)が設けられたことです。玉置さんは「この改正により、制度の使い勝手が向上した」と述べます。
一見、暦年課税より有利に見える制度ですが、相続時精算課税による贈与はすべて相続財産に加算され、相続時に相続税として徴収される点に注意が必要です。
他方、この制度で相続時に加えられる財産は”贈与時の時価“で計算されます。このため将来的に評価額の上昇が見込まれる不動産や有価証券などを、先手を打って贈与したい場合に取り得る選択肢だと玉置さんは指摘します。
ひとたび相続時精算課税を選択すると暦年課税制度には戻れないため、その点は慎重な判断が必要です。また、亡くなった人の所有する宅地の相続税評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」が適用されなくなる点も踏まえるべきでしょう。
贈与する意向が固まっているのであれば「一旦、暦年課税を使うことで様子を見ておく」のも一手だと玉置さんは提案します。
相続対策は親子間の大きな「ギャップ」に注意
生前贈与を検討する際には、親子間でかなり意識が違うことを理解する必要があります。玉置さんは「親は相続よりも自身の健康や将来の介護を心配している一方、子どもは相続税や手続きについて気にしていることが多い」と言います。
財産に限らず幅広く将来について話し合うなかで相続に触れることが、家族全体の未来につながるといえそうです。
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<取材協力>
三菱UFJ信託銀行MUFG相続研究所 主任研究員 玉置千裕[たまき・かずひろ]
(TBS NEWS DIGオリジナルコンテンツ「あかさか不動産相談所」より)
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