ハリス氏とトランプ氏2人が掲げるインフレ対策や関税などの経済政策の違いを検証する。
日本製鉄のUSスチール買収 バイデン氏が中止命令か
ハリス副大統領:
USスチールは米国で所有されるべきだ。私は常に鉄鋼労働者たちの側に立つ。
アメリカのハリス副大統領は9月2日、日本製鉄によるUSスチールの買収に反対を表明した。トランプ前大統領も8月に「基幹企業を日本に渡してはならない。USスチール自身で再建するべきだ」と表明。
USスチールが本社を置くペンシルベニア州は、大統領選の結果を左右する激戦州で、ハリス氏とトランプ氏のこうした発言は、労働者層の支持拡大を図る狙いがあるとみられる。買収を巡っては、バイデン政権が、近々に買収中止命令を出す可能性があると複数のメディアが報じている。
政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、激戦7州の世論調査の支持率は9月6日時点でハリス氏が47.7%、トランプ氏が47.5%とほぼ互角だ。
経済政策の違いを検証 インフレ・税負担・関税
2人の経済政策の方向性はどう違うのか。まず「インフレ対策」。
トランプ前大統領:
我々の地下にはどの国よりも大量のエネルギーが眠っていて、それで大金を作ることが出来る。掘って掘って掘りまくれ!
トランプ氏は、国内の石油や天然ガスの生産を増やすことでエネルギーの価格を下げ、インフレの抑制に繋げると強調する。
ハリス副大統領:
食料品価格の不当なつり上げを禁止する初の連邦法制定に取り組む。
ハリス氏は、企業による食品の不当な値上げを禁じる法律の制定や、300万戸の新築住宅を建設し、住宅価格を下げることなどを打ち出した。この政策にトランプ氏は「カマラ・ハリスは社会主義的な価格統制を導入したいと発表した。うまくいかないのは決まっている」と批判した。
続いて「税負担」。
トランプ前大統領:
研究開発に関する税控除を拡大するほか、米国で製品を製造する企業を対象に法人税率を21%から15%に引き下げる。
トランプ氏は自分の政権時に導入し、現在も続いている「所得税」の減税を延長するほか、国内生産なら21%の「法人税」を15%まで引き下げることを強調。
ハリス副大統領:
私たちは中間層の減税を行う。そうすれば1億人以上の米国民が恩恵を受けられる。
ハリス氏は、中間層への支援を手厚くする一方、法人税率は21%から28%に引き上げる方針だ。次に「関税」について。
トランプ前大統領:
我々を長年ぼったくってきた輸入品に10~20%の関税をかける。
トランプ氏は、すべての輸入品に10%、中国からの輸入品に60%の関税を課すと表明している。一方、ハリス氏はトランプ氏が掲げる関税に対して「生活コストを上昇させる」と反対している。「法人減税」や「関税」の引き上げで国内の企業への支援を前面に出すトランプ氏に対し、ハリス氏の政策は、より生活者に近い内容となっている。
大統領選の激戦州が舞台 日本製鉄のUSスチール買収
USスチール買収を巡っては、ハリス副大統領は「アメリカ国内で所有され、運営され続けるべき」と発言。トランプ前大統領は「日本に渡してはならない彼ら(USスチール)自身で再建を果たすべき」と語っている。こうした中、バイデン大統領は「買収中止命令」で最終調整していると伝えられている。
――バイデン大統領が「買収中止命令」を出す方向で最終調整しているとしたら、局面が大きく変わるのか?
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
双方が駆け引きをずっとやっている最中で最終的にはわからないが、選挙戦の行方次第。タイミングやペンシルバニアという場所(激戦州)という「最悪の構図」で、最終的に買収中止命令まで出ると相当局面が変わってくる。
――資本の自由な移動はアメリカの「哲学」で、日本は「同盟国」。「経済安全保障上問題がある」と言われると、アメリカと一緒にやっていけるのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
選挙という特殊事情がなければ、まともなアメリカ人は「よいに決まっている」という判断だと思う。いま冷静な判断ができない状態になっていると見た方がいい。
――アメリカも特殊な状況に変わってきているから、我々もそれを踏まえて、いろんな戦略を考えなければならないのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
象徴的な「鉄鋼」ということで、いろんな駆け引きやっているが、これから先は半導体も含めて「日米で連携」と言っている。これも中国のことを考えれば絶対やらなければいけないことだ。しかし、アメリカとの向き合い方はすべて日本の「持ち出し」ばかりになってしまわないように、したたかにやっていくこと。アメリカは自分のためだけを考える。民主党であれ、共和党であれ、心してやらなければいけない。
ハリスvsトランプ 経済政策の違いを検証
2人の経済政策の違い。まず「インフレ対策」については、ハリス氏は住宅の建設などを掲げているが、トランプ氏は国内増産によりエネルギー価格を引き下げるとしている。また「税制」については法人税を引き上げるとしているハリス氏に対し、トランプ氏は引き下げるとしていいる。「対中国政策」では、ハリス氏は同盟関係を強化。一方でトランプ氏は輸入品に60%の関税をかけるとしている。
――この違いはどういうふうに分析すればよいか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
2人とも「保護主義・産業囲い込み」。産業を国で囲い込むという基本的なスタンスは変わらないが、ハリス氏の場合は「弱者バラマキ」。言葉は悪いかもしれないが、民主党左派の影響もあり色濃く出している。トランプ氏は「関税の引き上げ」という“トランプ節”を前面に出している。ただしこれは選挙対策用。全てが実現すると思わない。というのは「関税」は、大統領権限でできるが、「税制」は議会の承認が要る。大統領選と一緒に議会選挙もあるが拮抗している。
――「関税」は大統領令できるなら「トランプ大統領」がもう1度誕生したら、その日のうちに「中国からの輸入品は60%関税」が実現する可能性があるのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
可能性はある。そうすると他国からの輸入品一律10%が気になる。「トランプ関税による交渉」。10%を脅しにして、相手から何を取るかというやり方になりそうだ。それをやろうとしているのが、(トランプ陣営の)ライトハイザー前USTR代表。トランプ政権でまた経済閣僚で入ってくると取り沙汰されている。彼はそういうのが得意で、自分の成果はそこにあったと自負している。やはり備えというのは必要かもしれない。
――結局トランプ・バイデン両政権は中国を脅威、競争相手として見て、そして強く対応して、対抗するためには自国で産業を囲い込んで、産業育成していくのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
おっしゃる通り。「アメリカ議会は“対中強硬”」これはどの政権になってもベースは変わらない。明確になったのが2018年。当時副大統領だったペンス氏が演説をして対中政策を包括的に行う。そこから大きく潮目が変わっている。だから、半導体での規制を両氏ともやる。
ベースの“対中強硬”は全く変わらない。強化されていく。
――バイデン政権も「チップス法」や「インフレ抑制法」をつくって半導体を自国で囲い込むとか、EVなども国内生産に回帰させている。2人の違うところは「同盟国との連携」を重視するか、しないかというところが違うのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
確かに同盟国・同志国との連携をバイデン政権が打ち出して、トランプ政権になるとアメリカだけで孤立的にやっていくという色の違いがある。ただし、この同盟国・同志国の連携は、日本が無防備になって喜んでいる場合ではない。「チップス法」と「インフレ抑制法」という2つの法案をとってみても、アメリカ国内で囲い込もうとしている。だから警戒しながら、どうやって連携していくかをちゃんと考える。「同盟国・同志国との連携を打ち出したから大丈夫」と思ったらそれはいささか甘いと思う。
――例えばバイデン政権下では、14か国が参加するIPEF(インド太平洋経済枠組み)などをやってきたが、トランプ政権になるとこういうものはなくなる可能性もあるか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
おっしゃる通り。多分トランプ政権になったら、TPPと同じで撤退するという可能性は極めて高い。これもバイデン政権の成果ということになっているが、サプライチェーンやグリーン経済で、脱炭素で途上国にどういう連携をとっていくかなど、中身は日本が考えてあげた上で、アメリカに花を持たせているのが実態。仮にこれを撤退するということがあったとしても、日本がアメリカ無しでASEANとかインド、あるいは韓国、オーストラリア…どんどん仲間づくりをして強化していくことがますます必要になってくる。
――アメリカが変われば変わるほど、日本の役割が大きくなってくるのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
そう思います。
(BS-TBS『Bizスクエア』 9月7日放送より)
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