(ブルームバーグ):米金融当局はインフレ鈍化と労働市場の冷え込みを背景に、今月17、18両日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で金融引き締め解除に着手する構えだ。当局者が現在直面する大きな問題は、米経済を拡大基調に保つのに小幅な利下げで十分かどうかだ。

6日に発表された8月の米雇用統計では、過去3カ月間の非農業部門雇用数の伸びが平均で2020年の新型コロナウイルス禍初期以来のペースに減速したことが示された。それでも投資家は、金融当局者が今月の会合で通常よりも大きめの利下げを選択するかどうか懐疑的だ。

KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は雇用統計について、当局が後手に回ることがないよう、大きめな利下げにオープンなパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長らと、「引き続き0.25ポイントでためらっている」他の当局者との間で、白熱した議論が展開されることになると予想する。

米金融当局の判断は重要な意味を持つ。パウエル議長率いる当局は、1980年代初頭以来最悪のインフレの抑制で後れを取り、米国の家計の購買力が損なわれた。当局の対応が今回、遅くなり過ぎれば失業率が上昇してリセッション(景気後退)に陥る恐れがある。

スウォンク氏は「パウエル議長は現在、自身のレガシーについて考えているはずで、議長はぜひとも経済のソフトランディング(軟着陸)を確実に成し遂げなければならないだろう」と話した。

 

金融政策の大きな転換点では過去にもしばしばそうであったように、徐々に金融緩和を開始するか、それとも利下げを前倒しで進めるかどうかという選択肢を巡って、活発な議論が繰り広げられることになりそうだ。

経済活動の大半の指標が下振れトレンドにある現状で、積極的な行動よりも、慎重なアプローチを取ることの方がリスクが大きいとエコノミストの一部はみている。消費者が支出を抑制し、企業の人員削減の増加につながれば、失業者数の増加はすぐさま「自己永続的」なものになりかねない。

失業率の3カ月移動平均は過去1年の最低値からほぼ1ポイント上昇し、FRBの元エコノミスト、クラウディア・サーム氏が考案した「サーム・ルール」上、リセッション開始の目安となる数値に達している。

シカゴ連銀のグールズビー総裁は6日、雇用統計に関してCNBCに対し、「事態が悪化しないよう、当局がどう取り組むか」について、今月のFOMC会合だけでなく今後数カ月の会合を巡って「幾つかの深刻な疑問を生じさせる」との見解を示した。

米労働省労働統計局(BLS)が4日に発表した7月の求人件数は2021年1月以来の低水準となった。また、失業者1人当たりの求人件数は、新型コロナ禍を受けた労働力不足のピーク時には2件に達したが、7月は1.1件に戻っている。

市場の反応

パウエル議長は8月23日、ジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)での講演で、「労働市場環境の一段の冷え込みは望みも歓迎もしない」と述べていた。

SGHマクロ・アドバイザーズの米国担当チーフエコノミスト、ティム・ドイ氏は「パウエル議長は米金融当局をハト派の方向に導こうとしている」とした上で、「予想外の景気減速があれば、金利は高過ぎるということになる」と指摘した。

6日の雇用統計発表を受けて、金融市場は変動に見舞われた。今月のFOMC会合について投資家が織り込む0.5ポイントの利下げ確率がいったん上昇後、ウォラーFRB理事が向こう数カ月に発表されるさらなる統計を目にするまで、0.5ポイント利下げの可能性は小さいことを示唆したことで、こうした確率は低下した。

ウォラーFRB理事、大幅利下げの可能性に「オープンマインド」

今月のFOMC会合後、11月6、7両日の会合までに計2カ月分の雇用統計が発表される。投資家が11月と12月の会合について現時点で織り込む0.5ポイント利下げの確率はいずれも50%を上回っている。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)のエコノミスト、スティーブン・ジュノー氏は「金融当局は漸進的な傾向がある」と述べるとともに、「経済活動が引き続き持ちこたえているのであれば、当局は市場に間違ったシグナルを発したくない考えであり、全般的に見て米経済は依然として順調に推移していると見受けられる」と語った。

米金融当局が主要政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを今月0.25ポイント引き下げ、11月と12月にさらに0.5ポイントずつ引き下げた場合、同レンジは4-4.25%となるが、当局者の大多数が「中立」と見なす水準を大きく上回り、引き続き経済活動の重しになると考えられる。

インフレリスク

米金融当局者の一部は過去数週間、当局の利下げがあまりにも早急で、それが経済活動に響けば、インフレ上振れリスクがあると引き続き懸念していることを示唆している。当局がインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数は、7月の総合価格指数が前年同月比2.5%上昇と、当局目標の2%を小幅上回る伸びとなった。

物価動向を警戒するこうした当局者は、雇用者数の伸び鈍化にもかかわらずレイオフが低水準で推移している傾向を指摘する可能性もある。

アトランタ連銀のボスティック総裁は4日公表の論文で「早計な金融緩和はインフレを再燃させ、それを何カ月あるいは何年も経済に定着させかねない危険な一手であることを、歴史が示している」と論じた。

一方、パウエル議長にとって、労働市場の減速は米金融当局がこれまで収めてきた目覚ましい成果を損ないかねない。当局はインフレ抑制のため22年から23年にかけて約40年ぶりとなる積極的な引き締めサイクルに着手した。リセッションを招かずに物価を安定させることができれば、まれな偉業となる。

そして、それを達成することができるかどうかは今後数回の金利決定に左右される可能性がある。

ルネサンス・マクロ・リサーチの米経済調査責任者、ニール・ダッタ氏は金融緩和に関し、「失業者数の増加が非常に鮮明となって既に手遅れとなるのを待つよりも、状況が比較的良好な今の時点で進めるべきだ」とコメントした。

原題:Fed Must Decide If Quarter-Point Cut Will Be Enough for Workers(抜粋)

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