(ブルームバーグ):財政制度等審議会のメンバーで財政学が専門の土居丈朗慶応義塾大学教授は、今月の自民党総裁選を経て発足する新政権下では、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化達成後の新たな財政健全化目標が不可欠との見解を示した。

土居氏は8月29日のインタビューで、今後の財政運営の焦点は「PB黒字化以降をどうするかということだ」と指摘。財政の持続可能性を測る指標である債務残高の対国内総生産(GDP)比を着実に引き下げるにはPB黒字の維持が求められるとし、新政権ではPB黒字の対GDP比を一定水準以上に維持するなど、新たな目標が必要になると述べた。

PBは政策経費を税収などでどれだけ賄えているかを示すもので、内閣府の試算によれば2025年度に8000億円の黒字(対GDP比はプラス0.1%)に転じる見通し。一方で、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中では最も高い水準にある。金利や成長率にかかわらず対GDP比を引き下げるには、新たな目標下でPB黒字を維持していくことが必須条件となる。

「財政は内閣しか操れないもので、予算編成こそが権力の源でもある」と説く土居氏は、たとえ国民の関心が財政に向かなかったとしても、新たな首相に就く人物にとっては無関心ではいられない問題だと強調する。

9月27日に投開票が行われる自民党総裁選は、10人を超える議員の立候補が取り沙汰される混戦模様だが、財政政策も争点になりそうだ。既に立候補を表明している小林鷹之前経済安全保障担当相は「経済は財政に優先する」と発言。一方、河野太郎デジタル相は財政を犠牲にした経済成長に持続可能性はないとして財政規律を重視する姿勢を示している。

土居氏は「現職の首相がばらまいて借金を多くこしらえると、その分だけ5年後、10年後の首相の政策の選択肢が狭まることになる」と話す。金利のある世界で利払い費の増加が見込まれる中、安易な借金依存は将来の政策自由度をいっそう縛ることになるためだ。

財務省の「後年度影響試算」によると、金利上昇などが続いた場合、27年度の国債利払い費は15.3兆円と24年度から約6割増える見通しとなっている。

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