店頭の棚からコメが消え、コメが手に入らないと悲鳴が上がっているのに、「全体としてコメは足りています」、「落ち着いて行動して下さい」と言うだけの農林水産省は、一体、何のために存在している役所なのでしょうか。こんな官僚答弁を繰り返すだけで、消費者不在の行政を続けるのなら、農水大臣は政治責任さえ問われて然るべきです。

呆れた大臣記者会見

小売りの現場でコメが品薄になっている問題について、坂本農水大臣は27日の記者会見で、品薄の理由として、8月はもともと端境期で在庫が少ないことや、南海トラフ地震臨時情報や台風による需要増などを挙げました。

そして「品薄は新米が流通する9月頃には解消する」と見通しを明らかにした上で、政府備蓄米の放出については、市場への影響が大きいとして、「慎重に考えるべきだ」と否定的な考えを示しました。

そして「必要な量だけ買うなどの落ち着いた購買行動をお願いしたい」と述べたのです。

要は、そのうち新米が出てくるから、何もしないと言っているに等しい内容です。

まるで、消費者が冷静でないからコメがなくなったかのような言い方には、ただただ呆れるばかりです。

店頭にコメがなくて、必要とする人がコメを買えない状態になっています。私どもの番組の取材でも、コメが手に入らず、「毎日、麵とパンを食べている」という人もいたほどです。

岸田総理が苦言を呈しても

さすがに岸田総理も、こうした農水大臣のいいぶりにカチンときたのでしょう。

同じ日の夕方に官邸で開かれた会議で、「消費者の立場に立って、コメの流通不足の懸念に対処するよう取り組んで欲しい」と関係閣僚に指示しました。

「流通不足」との表現で、「需給のひっ迫ではない」という農水省の立場に配慮しつつも、「消費者の立場」という言葉を使って、役所の論理に釘を刺したのです。

同日、農水省はコメの卸売業者や集荷業者に対して、円滑な流通に取り組むよう要請しました。

総理指示を受けた「業界への要請」というお決まりの対応に留まっており、このあたりが岸田内閣の限界なのかもしれません。

大阪府知事は備蓄米放出を要請

これに先立つ26日、大阪府の吉村知事は、政府に備蓄米を放出するように要請しました。

大阪府の調査では、調査した府内の小売店の8割で品切れだったということで、吉村知事は「備蓄米を倉庫に眠らせておく必要はない」と政府の対応に強く疑問を投げかけています。

実は、政府は大凶作などの危機に備えて、100万トンものコメを備蓄しているのです。

毎年20万トンの新米を買い入れて5年間保管し、5年経ったところで、古くなったコメを飼料用に売却しています。

常に手元に100万トンのコメが備蓄されているという制度で、このために直近の令和4年度には、482億円も支出しています。

毎年4~500億円もの財政負担をしながら、これだけの「コメ不足」に一粒も活用しないなんて、なんと愚かなことでしょうか。

コメの価格は26%も上昇

備蓄米の放出に否定的な理由として、農水省はまず、市場価格に人為的な影響を与えることを上げます。

確かに、市場で形成される価格を尊重することは経済の基本原則です。

しかし、今は主食のコメが店頭から消えているのですから、価格だけの話ではありません。

しかもコメの価格は暴騰しています。30日に発表された東京都区部の8月の消費者物価(速報)では、コメ類の価格は前年同月比で、26.3%もの大幅な上昇です。

主食が急騰した際に政府が市場に介入する行為は正当化されるべきです。

備蓄放出には「時間がかかる」と言い訳

政府備蓄米を放出しない理由として、農水省があげているのが、備蓄米の放出には、入札など手続きに時間がかかるのというものです。

今からでは実際の放出が新米の出回る9月下旬になってしまうので意味がないと言うのです。

驚くべき居直り、言い訳です。小売りの現場からコメが消え始めたのは、もう随分前でした。

7月の消費者物価でさえ、コメ類の価格は17%も急騰していました。

その時から準備していれば、十分、間に合ったはずなのに、それを棚に上げて、やらない理由を探すことだけは素早いのです。

備蓄放出のアナウンスメント効果は絶大

備蓄米の放出は、実際の放出量以上に、アナウンスメント効果が大きくあるはずです。

農水省の見立て通り、全体の需給はひっ迫しておらず、流通在庫が滞っているのだとしたら、備蓄米の放出の報を機に、価格が下がり始め、そのことが在庫放出につながるからです。

コメは多少の保存は効くので、在庫を持つ生産者や流通業者は、価格がどんどん上がっていく時には、売り急ぐ必要がありません。

売り惜しみと悪意がなくとも、そのまま持っていればいるだけ、価格が上がるのですから。

しかし、備蓄米の放出が少しでも始まるか、或いは、放出に前向きな姿勢を示すことで、市場価格は下落に転じれば、それを機に在庫を吐き出す動きが始まるのではないでしょうか。

今回の一連の「コメ騒動」は、農水省のコメ行政がいがに消費者不在であるかを物語っています。

消費者不在の農政が、結局のところ、日本の農業を強くすることに失敗してきたという歴史に、目を向けるべきです。 

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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