(ブルームバーグ):政治危機により、リビアの石油生産が、独裁者カダフィ元大佐の失脚後に長年続いた混乱に逆戻りする恐れがある。
トリポリを拠点とする政府と中央銀行総裁人事を巡り対立する東部政府が26日、日量50万バレル余りに上る原油生産を停止し、リビアの原油生産量は半減した。29日には、同国東部の全ての輸出ターミナルが閉鎖された。
コンサルタント会社ラピダン・エナジー・グループの地政学的リスクサービス部門ディレクター、フェルナンド・フェレイラ氏は「生産中断は全体で1日当たり90万から100万バレルに達し、数週間続くと予想される」と述べた。同社によると、世界の石油生産量の約1%に当たる量だ。
今回の混乱は、国連が仲介し、両陣営の和解を試みた2021年の取り決めの終わりを意味する。
コンサルタント会社エナジー・アスペクツの地政学部門責任者、リチャード・ブロンズ氏は「たとえ中銀についての妥協が成立したとしても、ここ数年リビアの石油部門にある程度の安定をもたらしてきた、脆弱(ぜいじゃく)な合意は崩壊しつつある様子だ」と指摘し、25年にかけて生産がさらに不安定になり、操業停止が起こりやすくなるとの見通しを示した。
東部政府は、ドベイバ暫定首相率いる国連承認の政権が、アルカビル中銀総裁を更迭したことに反発している。
世界の原油価格は変動し始めており、29日にはブレント原油先物が1バレル=80ドルを上回った。リビアの混乱が長引けば、価格への反応はさらに激しくなる可能性がある。
リビア最大の油田であるシャララ油田が8月初旬に操業停止となり、市場では日量30万バレルの供給が失われた。国営石油会社ナショナル・オイルの発表によると、同国の原油生産量は8月1日時点で日量127万バレルだった。
42年にわたりリビアを支配したカダフィ氏が11年に失脚して以来、国内は不安定な状態が続く。リビアのエネルギー資源は、政治的優位性と石油収入へのアクセスを争う派閥間の主戦場となり、たびたび操業停止に追い込まれてきた。
14年、リビアは東西に事実上分裂し、より裕福な西部の半分と、石油生産と輸出ターミナルのほとんどが集中する東部側との対立が続いている。20年に国連が仲介した停戦により新たな選挙が約束されたが、まだ実施されておらず、この国は再び分裂している。
ロンドンに拠点を置く英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の研究員、ジャレル・ハルチャウイ氏は「米国が確固とした一貫性のある迅速な行動を取らず、トルコなどの影響力のある国々からの強力な支援がなければ、危機はさらに悪化する可能性がある」と述べた。
一方、リビアの危機は、生産回復計画への着手をためらっていた石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成する「OPECプラス」にとっては、好都合なタイミングで発生した。
サウジアラビアとロシアが主導するOPECプラスは、価格下支えのため22年以降、数百万バレルの生産を保留してきた。10ー12月期には日量54万3000バレル分の生産を再開する暫定計画があり、数日内にこの取り組みを巡る決定がなされる予定だ。
アナリストらは、OPECプラスが供給量を増やせば、世界市場が供給過剰に転じる可能性があると警告してきた。だが、リビアでの生産停止が長引けば、その見通しも変わる可能性がある。PVMオイル・アソシエーツのアナリスト、タマス・バルガ氏は、OPECプラスが供給を拡大するのに、「完璧な口実となるかもしれない」との見方を示した。
原題:Libya’s Political Feud Threatens Oil Supply Disruption (Correct)(抜粋)
--取材協力:Hatem Mohareb.
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