(ブルームバーグ):シリコンバレーには格言がある。ハードウエアは難しく、コストも時間もかかるというものだ。これはエヌビディアにも当てはまる。人工知能(AI)に必要な最先端チップの製造という難題で非凡な手腕を発揮し、時価総額が3兆ドルに達した同社でさえだ。
筆者が知る限り、ウォール街にはそんな格言は存在しない。世界を変える技術に関してはなおさらだ。そのため、エヌビディアが28日に次世代AI半導体「ブラックウェル」の生産に一部問題があることを認めると、トレーダーはショックを受けて株価は時間外取引で一時8.4%下落した。5-7月(第2四半期)の売上高が前年比で「わずか」122%増にとどまったことも株価には響いた。8-10月(第3四半期)の売上高見通しはアナリストの予想平均を上回ったが、それでも物足りなかったようだ。まるでジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)が何の努力もしていなかったかのような反応だ。
少々ばかばかしい気がする。エヌビディアは市場の「持続不可能な高望み」に直面しているというブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストの指摘は正しい。ブラックウェルの遅れは一時的なものであり、今後何カ月も続くであろう旺盛な需要のおかげで、会社全体のマージンはまだかなり大きい。
ハイテク企業は、消費者がブラックフライデーに新しいテレビをこぞって買い求めるようにエヌビディアのチップを欲しがっている。ブラックウェルが予定より少し遅れていることは問題ではない。「エヌビディアが売るものは何でも買われる」と、D.A.デビットソンのアナリスト、ギル・ルリア氏は語っている。
フアン氏が投資家に続き、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューでも述べたように、ブラックウェルのサンプルはすでに「世界中に」出荷されており、同社は量産を開始している。生産の問題(すでに解決されている)とはチップ自体ではなく、製造工程にあった。これは重要な違いだ。設計図に戻るような不具合ではなかったのだ。
思わぬ障害は起きるものだ。特にエヌビディアのように生産スケジュールを突然早め、少なくとも1年に1回は主力ハードウエアを刷新すると約束している場合はなおさらだ。ブラックウェルの出荷は2024年11月-25年1月(第4四半期)から翌四半期にかけて急増するだろう。「来年も素晴らしい年になる」とのフアン氏の言葉を筆者は疑わない。
投資家は心配したいのであれば、もっと先を見るべきだ。例えば、アマゾン・ドット・コムやグーグルのようなエヌビディアの大口顧客が自社製品でハードウエアのニーズを満たせるようになった場合について考えるべきだ。フアン氏によれば、こうした企業は同社顧客ベースの45%を占めている。これは脆弱性に他ならない。
より本質的な疑問もあるだろう。AI投資のリターンを巡る懸念だ。マーク・ザッカーバーグ氏はメタ・プラットフォームズがAI関連の投資ではむしろ行き過ぎになるリスクを冒すと認めた。同社や他の大規模クラウド事業者が必要以上のサーバー容量を抱え、エヌビディアと取引する理由が突然なくなってしまうというシナリオもあり得る。
28日の決算会見でフアン氏は、AIの投資収益率(ROI)への懸念に関するアナリストの質問にはほとんど何も答えなかった。しかし率直に言って、それは2024年の問題ではない。おそらく2025年の問題でもないだろう。仮にAIとその可能性が過度に誇張されているとしても、それが判明するまでにはエヌビディア製チップにはさらに数十億ドルが費やされるだろう。それまで、投資家は過剰反応してはならない。ハードウエアは難しいのだ。ウォール街を満足させるのはもっと難しいかもしれないが。
(デーブ・リー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米国のテクノロジーを担当。以前はフィナンシャル・タイムズやBBCニュースの記者でした。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Nvidia Investors Must Remember — Hardware Is Hard: Dave Lee(抜粋)
翻訳に関するエディターへの問い合わせ先:New York 宮井伸明 nmiyai1@bloomberg.netコラムニストへの問い合わせ先:New York Dave Lee dlee1285@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Daniel Niemi dniemi1@bloomberg.net
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