今、世界が注目する日本のウイスキー。

【動画】「“プールに1滴”単位でも違いが分かる」 職人の研ぎ澄まされた感覚が生み出す“世界最高”のウイスキー

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ウイスキー造りの職人の研ぎ澄まされた感覚は、もはや理解不能の域だ。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太(こしいし・ふとし)さん:ちょっと足りないなとか、もっとおいしくするためにはどうしたらいいかなって時は配合を一滴、垂らすみたいな。

琥珀色に溶け込む、職人の誇りと伝統。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:『おいしいよね』っていっていただけるように、それを持続しないといけない。それは僕なりの責任感ではないかなと思っています。

日本にウイスキーが誕生して100年。歴史を紡ぎ、次世代へとつなぐ。

■ウイスキーの味を生み出す“ブレンダー”

輿石 太さん(61歳)の趣味は、自宅の庭いじりだ。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:無心でできるところがいいですよね。この暑い中やるっていうのが、またいいじゃないですか。

繊細なお酒を作る男、静かな生活を送っている。

大阪と京都の境に位置する「山崎」は、水の名所としても知られている。

山崎蒸留所。およそ100年前、日本で最初のウイスキー工場がこの地に作られた。

毎朝4時に起きて、誰よりも早く出社する輿石さん。“ブレンダー”と呼ばれ、ウイスキーの味を生み出す、とても大事な役割を任されている。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:午前中の時間っていうところが、一番新鮮にものを見られるといいますか。一番分かりやすい時間だと思っていて。

ウイスキーを作る上で欠かせないのが、樽の中での熟成。樽の素材、熟成期間、貯蔵される場所によって、その味は大きく変わる。

それぞれの樽の中身は原酒と呼ばれ、透明だった原酒は長い年月を経て、樽の色や香りが溶けこみ、琥珀色へと変わっていくのだ。

ブレンダーはさまざまな原酒を組み合わせ、幅広いウイスキーを作り出していく。

オランダからの観光客:素晴らしい、今までで一番だよ。とても多層的な味わいだ。一度に色んな味が押し寄せてくるね。

■“プールに1滴”「そういう単位でも違いを感知できる」

輿石さんは秋に予定している新製品の発売に向けて、試作を重ねていた。

「山崎」ブランドマネージャー 芦田雅章さん:日本を代表する“とっておき”を、この製品に込めたいなと思って。

テーマは“日本のとっておき”。

保管されている瓶は、全て異なる味の原酒。その全ての原酒の香り・味を記憶し、引き出し、混ぜ合わせる。

その感覚は、もはや常人では理解できない領域に達している。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:“プールに1滴”でしたっけ?そういう単位のところでも、われわれは(味の違いを)感知できると思っていますので。もっとおいしくできるだろうとやっていくと、そういう単位のものも配合としては出てくるんですよね。

数字に直すと、100万分の1%。誤差とも思える違いを大切に、輿石さんはブレンドをしている。

この時点で、ほぼ完成していた“日本のとっておき”。でも何かが足りないような気が…。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:そうだ。

そうつぶやいた輿石さんが試したのは、「ミズナラ」という日本の木で作られた樽の原酒。神社仏閣の香りがするといわれている。入れたのは、わずか数滴。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:(香りを嗅いで)いいと思います。

このわずかなミズナラが決め手となり、後日、正式に製品になることとなった。

「ローヤル」担当ブレンダー 杉下 幹さん:ずっとこのサントリーの品質、ブレンドっていうところを守ってこられた方だっていう感じですね。もう生き字引というか。

「碧Ao」担当ブレンダー 波来谷綾子さん:数字では書けないような世界を感覚的に捉えて、自分たちが思う味に仕上げていくっていう。(輿石さんは)先輩っていうのもおこがましいなと思うくらい、遠い存在。

■職人の命・嗅覚と味覚を守る 25年変わらぬ生活

4人家族の輿石さんは、大阪で単身赴任をしている。

キッチンに立ち、夕食を作っていた。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:オリーブオイルと塩だけで。市販のドレッシングだと味が強すぎて。

平日の夕食はいつも、薄味のサラダとうどん。繊細な嗅覚と味覚を守るため、味の濃い食べ物は口にしない。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:ざっくりでしょ?男の料理。洗うのめんどくさいから同じ器で。

ブレンダーになってから25年、変わらぬ日常を続けている。

Q.普段はウイスキーを飲みますか?
サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:あんまり飲まないんです。夜にウイスキーを飲んでしまうと、仕事モードになってしまうんですね。このブレンド合ってるかな?って。

■世界大会で最高評価を得た「山崎25年」もブレンドを担当

2023年、ウイスキーの世界大会で最高評価を得た「山崎25年」。輿石さんはこのウイスキーのブレンドにも携わっていた。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:今まで先輩たちが造ってきた原酒をわれわれが仕上げると。それで賞を頂くっていうのは、最高の気分でしたね。

時代を超えて、100年。輿石さんもまた、次の世代へ原酒を託す職人の一人だ。

原酒の状態を確認するのは、ブレンダーたちの日課だ。この日見るのは、10年熟成させた原酒。製品に使うものと、さらに熟成させるものに分ける作業をしている。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:…粗い。

集められたのは、ほとんど同じ環境で熟成された120個の原酒。

Q.細かな差がある?

ブレンダー歴13年 高木秀道さん:ある…と思います。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:そこは自信を持って、ある!ある!ある!

きっぱりと言い切る輿石さん。

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:やっぱり難しいのが、18年ってこうあってほしいみたいな、18年(先の熟成)を想像して選ばなきゃいけない。

ブレンダー歴13年 高木秀道さん:複雑さもありながら柔らかい、これがいい?

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:うん、そうです。未熟っぽさっていうか、まだまだ熟成しそうな感じがしますよね。

定年まであと4年。輿石さんの思いは原酒だけでなく、後輩たちにも託されていく。

輿石さんがいなくなっても、変わらず、次の100年へ。

Q.定年後、後輩が作ったウイスキーを飲んでみたいですか?

サントリー 主席ブレンダー 輿石 太さん:まだ退職してからの余韻がどこかにあって、『こんな感じじゃないよね』って文句を言っちゃう気がしますので、離れて10年くらいたった時に、『やっぱりウイスキーっておいしいよね』って、初めてゆっくり飲めるっていう感じじゃないですかね。

時の流れが育むお酒、ウイスキー。ブレンダーの情熱は、いつまでも変わらない。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年8月21日放送)

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