珍しい羊のミルクでヨーグルトなどを作っている牧場が北海道・鶴居村にあります。
牧場主はこの村で生まれた女性と、フランス人の夫。2人の挑戦を取材しました。
20頭の羊を飼育 1頭1頭手絞りで搾乳
広大な草原でのんびりと草をはむ羊たち。北海道・鶴居村の「フカフカ谷牧舎」です。黒沢松美さんとフランス人の夫・ウエ・マックシミリアンさんがこの牧場で20頭の羊を飼っています。
「高低差もあるところなので毎日歩いていると良い運動になっている。動物の顔を見ても分かりますね。ストレスがないのが」(黒沢 松美さん)
エサを持ってくると一斉に羊が集まってきました。容器をひっくり返すほど良い食べっぷりです。
「ビート、大豆、小麦、地元のおからをもらって。全部、道産ですね」(松美さん)
羊がエサに夢中になっている間にミルクを搾っていきます。1日、1頭から取れる量はわずか1リットル。手間はかかりますが、1頭ずつ手で搾るのがこだわりです。
「手搾りの良いところは1頭、1頭、体調見ながら、きょうは多いとか、少ないとか、ちゃんと食べているか、放牧地に草があるかどうか、乳で分かるんですよ」(松美さん)
「毎日おもしろい、毎日違います」(ウエさん)
羊がありのままでいられるように。そんな優しい牧場の日々を見つめました。
松美さんとウエさんの出会い アルプス山脈の麓の羊農家で修行
鶴居村の「フカフカ谷牧舎」は道東で唯一、羊の乳製品を作っている牧場です。
牧場主はこの村の出身・黒沢松美さん。父親が獣医師だったため松美さんは動物と慣れ親しんで育ちました。
2007年、東京の大学に通っていた頃、ウエさんと出会い、その5年後フランスに渡り、結婚。農家を志し、アルプス山脈の麓にある羊農家で修業しました。
「なるべく家畜が本能のままに過ごせるように動物として扱う。そしてシンプルな物の作り方と食べ方に魅力を感じて羊農家をやりたいなと」(松美さん)
アルプスの麓で5年間過ごし、独立を考えていたところ、新型コロナが流行。3年前、鶴居村に戻ることを決めました。
「『農家やるんだったら鶴居村いいよね』と、ストンときたんです」(松美さん)
「最高です。楽しい、毎日」(ウエさん)
搾りたて羊のミルクのヨーグルトが看板商品 動物相手でわからないことだらけ
2人はレストランの工房を借りて乳製品を作っています。搾りたての羊のミルクをふんだんに使ったヨーグルトは看板商品です。
「羊乳が一番おいしい匂い」(ウエさん)
「羊のヨーグルトを食べたときに最初に思ったのが『ナッツみたいな風味がすごい』と。それをなるべく再現したくて」(松美さん)
何度も試作を重ねました。そもそもミルクの量が思ったほど取れない日もあるそうです。
動物が相手なので人間にはわからないことだらけ。そういうときはフランスで農家の人に言われた言葉を思い出すそうです。
「正解を見つけない。問題があっても『Il ne faut pas chercher.(イル ヌ フォ パ シャルシェー)』というんですよね。探すな、詮索するなと」(松美さん)
最近はウエさんがヨーグルト作りを担当していますが…。
「自分でちょっと失敗している」(ウエさん)
「まだ1人ではできない、私がいて『あれやって』と」(松美さん)
フランスで学んだレシピ生かしチーズ作り 乳製品は地元の物産店で販売
「これが塩漬けしたチーズでかわいいんですよ」(松美さん)
フランスで教わったレシピをもとに2023年からチーズ作りも始めました。羊のミルクは牛よりも脂肪分やタンパク質が豊富でチーズに向いているといいます。
「良い酸味とまろやかな乳の優しさがすごくおいしいと思って作っています。チーズは奥が深いんですよ、はまってしまうと」(松美さん)
2人が作った乳製品は鶴居村の特産品を扱う店で2023年から販売されています。今ではリピーターも増えてきました。
「鶴居村の羊のヨーグルト、いただきます。舌ざわりがとってもなめらかです。羊のミルクの甘さとコクが合わさってとてもおいしいです」(田中 うた乃記者)
「毎週、ジェラートとヨーグルトを納品してもらうくらい地域になじんでいます。鶴居村に来ないと食べられない観光資源にもなっていいと思います」(つるぼーの家 赤本 卓也店長)
羊1頭、1頭と向き合う松美さんとウエさん。乳製品を通して羊の魅力を伝えていきたいといいます。
「私たちは羊の魅力に取つかれているようなもので、その魅力を共有したい。色々な人に伝えて、『羊っていい動物だね』と思ってもらえたらいいかなと思っています」(松美さん)
夢は自分たちの工房を建てること。羊とともに夫婦の挑戦は続きます。
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