総合商社の伊藤忠商事は4月17日、アメリカのコンサルティング大手ボストン コンサルティング グループ(BCG)と合弁会社「I&Bコンサルティング」を立ち上げ、5月から業務を本格スタートする。伊藤忠が過半を出資し、41歳の社長を派遣する。
社員は伊藤忠やBCGだけでなく伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)などパートナー企業からも派遣され、10人程度でスタートする。3~5年かけてコンサル100人、売上高100億円規模を目指す。
「われわれの絵を完成させるためには、どうしても最上流のラストピースを埋める必要があった。そのために世界最強のパートナーと組みたいと思っていたが、それが実現した」と、伊藤忠の堀内真人情報・通信部門長は語る。
「デジタル企業群」を形成する伊藤忠
伊藤忠のデジタル事業は顧客サービスを拡大する過程で、システムインテグレーターのCTCを中心に「デジタル企業群」を形成してきた。
コールセンターなど川下のビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)には40%超出資するベルシステム24ホールディングスがあり、川上のITコンサルティングやデータ分析ではシグマクシス・ホールディングス(約9%出資)、ブレインパッド(約3%出資)といった企業と連携する。
2022年10月には世界最大手の広告代理店、WPP傘下のAKQAと合弁会社「AKQA UKA」を立ち上げ、顧客体験デザインのコンサルも手がけている。
ただ、近年はITシステムの構築にあたって、ビジネス戦略から会社のあり方まで「戦略策定」が不可欠になってきている。日本で急成長を遂げるアクセンチュアは、M&Aで上流のコンサルから最下流のBPOまで内製化し、一気通貫でサービスを提供している。
「彼らは戦略コンサルの最上流から入ってくるので、気づいたときには案件を取られてしまっていた。今後はいままで手が出せなかったお客さんのニーズにも対応できる」と堀内氏は力を込める。
伊藤忠にとって、喉から手が出るほど欲しかった戦略コンサルのパートナーに、世界屈指のコンサルティングファームであるBCGを得た意味は大きい。川上から川下まで提供できるサービスがつながり、新たな受注を獲得できる。
伊藤忠はデジタル事業全体の底上げで、現在400億~500億円規模の同事業の純利益を3~5年で1000億円規模に倍増させることを目指す。
「戦略コンサルからCTCのシステム構築などのグループビジネスにおのずとつながっていく。I&Bに出向したグループ社員が会社に戻って、吸収したノウハウを顧客提案に生かすこともできる。グループ企業の営業力強化にもつながる」と堀内氏は話す。
BCGにとっても「実業」のメリット
一方、BCGにとって、I&Bは国内で初、世界でも珍しい他社との合弁事業になる。
「伊藤忠とは10年間、コンサルと顧客の関係だったが、われわれコンサルは実業をやりたいという思いがつねにあった。新たなパートナーシップに踏み出す意義は大きい」。BCGの桜井一正マネージングディレクターはそう語る。
顧客はコンサルに戦略策定だけではなく「実践」を求める傾向にあるが、「業界を見渡しても、通常のコンサル業務の延長でうまくいっている事例は少ない」(桜井氏)。I&Bは、BCGにとって「実行能力」を示す有効な手段になるというわけだ。
実は伊藤忠とBCGは1年前から案件獲得に共同で乗り出し、すでに自動車メーカーのシステム更新案件をはじめ、金融機関のシステムクラウド化などの案件を獲得している。
BCGの桜井氏は、「われわれはM&Aや組織戦略など、必ずしもITにひも付かないコンサルの経験が豊富。ITにつなげることが前提のアクセンチュアとは業態の違いもあり、競合とは考えていない」と話す。I&Bではアクセンチュアとは異なる顧客層の開拓が進む可能性もある。
顧客目線でアクセンチュアに対抗
では、I&Bのサービスにはどのような特長があるのか。キーワードは、「テーラーメイド」と「アン・バンドル」だ。
「これまでもBCGとはさまざまな案件で付き合いも長いが、パッケージ化された教科書的なものはいっさい出てこない。I&Bのサービスも顧客目線にこだわったテーラーメイドになる」(伊藤忠の関川潔情報産業ビジネス部長)
「アン・バンドル」とは、特定のベンダーを押し付けないということだ。日本のIT業界ではハードウェア、ソフトウェアの選定から保守サービスまで、元請け企業がすべてをパッケージ化して提供することが多い。
これに対して、伊藤忠は「われわれがここを使うと儲かるからという理由でベンダーを特定してソリューションパッケージを押し付けるようなことはしない。お客さんが一番良いと思うサービスをわれわれのグループから選んでもらってもいいし、グループ外から選んでもらってもいい」(関川部長)ということだ。
テーラーメイドにしてもアン・バンドルにしても、要は伊藤忠が得意とする「マーケットイン」の発想だ。顧客目線にこだわったデジタル企業群は、アクセンチュアの牙城を切り崩すことができるだろうか。
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