円安の影響で海外で働く人が増加する中、ワーキングホリデーでオーストラリアへ行く人が過去最多となった。現地で生活する若者たちを取材すると、人気の一方で、思わぬ落とし穴も見えてきた。
「オーストラリア・ワーキングホリデー」日本人過去最多 なぜ?
シドニー郊外にあるキャッスルヒル。世界展開しているアパレルメーカーの店で働いているのは、仙石桜子さん(22歳)。
アパレルショップ勤務 仙石桜子さん:
夜も一人で平気で歩ける。多民族国家というのもあるので差別とかも受けることもない。ワーキングホリデーするには、いい国だと思う。
日本でも同じアパレルの店舗でアルバイトをしていた仙石さん。日本とオーストラリアでは大きな違いがあるという。
アパレルショップ勤務 仙石桜子さん:
労働環境がオーストラリアの方が緩い気がする。自分のやりたいようにできるというか、それなりに楽しく働ける。
さらに同じ仕事でも、収入には大きな違いがあるという。
アパレルショップ勤務 仙石桜子さん:
給料は日本の2.5倍ぐらい。びっくりするぐらい稼げている。
仙石さんが利用しているのが、ワーキングホリデー。ワーキングホリデーとは、観光旅行や語学学習をしながら滞在資金が補えるよう、就労を認める制度。日本は30の国と地域との間でこの制度を導入していて、国と地域によって異なるが、申請時に18歳以上30歳以下であれば、原則誰でも利用できる。
最近ではワーキングホリデーでオーストラリアに行く人が増加していて、日本人へのワーキングホリデービザ発給数は、2023年6月までの1年間で1万4398件と、過去最多になった。
オーストラリア最大の都市・シドニー。足立涼太さん(22歳)も、ワーキングホリデーを使って、2024年4月からオーストラリアで暮らしている。足立さんは現在、昼間は学校で英語を学びながら、夕方からはレストランで簡単な調理などを行う、アシスタントシェフとして働いている。
レストラン勤務 足立涼太さん:
将来的にインターナショナルカンパニーなど英語を使って仕事ができる環境や、世界に展開している企業に就職したいので英語は必須と思い、留学を決断した。学生ビザだと学校がメインになってしまうので、ワーキングホリデービザを選択した。
学生ビザでは、2週間で48時間しか働けないが、ワーキングホリデービザを取得すれば、労働時間に制限はない。足立さんは週6日、午後3時から午後10時まで1日7時間働いている。
レストラン勤務 足立涼太さん:
時給が(日本の)2倍。収入は月で3000ドルから3500ドルぐらい(29万~34万円)。
学びながら稼ぐ、いわゆる“出稼ぎ留学”をする人は少なくない。シドニーの西、およそ700㎞に位置する小さな観光都市・ロビンベール。ここで暮らす高橋良さん(26歳)も夢の実現に向け、“出稼ぎ留学”をしている。
工場勤務 髙橋良さん:
カフェを開きたいという夢があって、お金も稼げて、コーヒーも学べて、英語もできるというところに惹かれてオーストリアを選んだ。
以前はいちご農園で働いていて、現在は野菜を出荷する工場で働いている高橋さん。なぜカフェで働かないのか。そこにはオーストラリアならではの理由があった。
工場勤務 髙橋良さん:
延長のビザを取りたいと思っているが、そのセカンドビザを取るために政府指定の仕事をしなければならない。その政府指定の仕事が、農場や工場の仕事。
オーストラリアでは、ワーキングホリデービザの有効期間は通常1年だが、農場など政府指定の業種で働くことにより最長3年間に延長することができる。
工場勤務 髙橋良さん:
今年の1年は、ビザ延長のために働く。政府指定の業種でお金を貯めることに注力して、来年以降、コーヒーのことを学んでいきたい。
東京渋谷区にある「リアブロード」。留学費用が従来の最大「半額」で、期間は「最短1週間」からいけるという海外留学サービス「スマ留」を運営。年間8000人が利用している。
こちらでも人気の留学先はオーストラリア。
「スマ留」を運営 リアブロード 神田慎社長:
圧倒的に治安がいい。日本との時差が1時間から2時間程度しかない。非常に最低時給が高い。最近「出稼ぎ留学」という言葉が一つのキーワードになっているが、海外で外貨を稼ぐという理由で、渡航する人が非常に増えてきた。
コロナ禍で渡航できなかった影響もあり、ワーキングホリデーの希望者が増加している。
ワーキングホリデーを検討 吉田百伽さん:
元々留学しようと思っていたが、コロナの時期と重なってしまって行けなかったので、2025年の6、7月ぐらいに行けたらいいと考えている。
日本で看護師として働いている吉田百伽さん(25歳)はオーストラリアで患者の介護・介助サポートを行う「アシスタントナース」の職に就きたいと思っている。
ワーキングホリデーを検討 吉田百伽さん:
オーストラリアで、アシスタントナースで働いてる人の月の給料を見ると、今の給料の2~3倍ぐらいになっているイメージ。海外に行った経験はないが、何とかなるはずと思っている。
人気のワーキングホリデー 懸念される落とし穴も…!?
オーストラリアへのワーキングホリデー人気の一方で、懸念される事態も起きている。
「スマ留」を運営 リアブロード 神田慎社長:
ワーキングホリデーの需要増加に伴ってひずみもきているのも現状。就労先がなかなか見つからないというような声を聞いている。もう一つは住まい。住居がなかなか見つからないという問題もある。
ワーキングホリデーを利用する人が増えすぎて、働き先や住む家が見つからず、帰国を余儀なくされる問題も起きているという。“出稼ぎ留学”で、今はアシスタントシェフとして働いている足立さんも仕事に就くまでに苦労があったという。
レストラン勤務 足立涼太さん:
100件ぐらいは回って、たくさんレジュメ(履歴書)を配った。その中の1件という感じ。
こういった問題に「スマ留」では、渡航後に企業の面接を確約する「就労サポートプログラム」や、自社専用の学生寮を展開するなどの対策をしている。
「スマ留」を運営 リアブロード 神田慎社長:
海外に出て、外貨を稼いで貯金をしようという人はこれからも増えるのではないかと捉えている。
オーストラリア通信員が見る ワーキングホリデーの今
オーストラリアで実際に、取材にあたったTBSシドニー通信員の飯島浩樹記者に聞いた。
――日本人のワーキングホリデーは増えている実感はあるか、また他にどんな国の人が来ているのか。
TBSシドニー 飯島浩樹通信員:
コロナ禍が明けて、かなり増えているように感じる。先日、日本のレストランチェーンの方に話を聞いたが、30名の求人に200人以上が応募してきた。そのほとんどが日本人のワーキングホリデービザで来ている人だったということ。それだけ増えていて仕事もなかなか見つからなくなってきている。そしてワーキングホリデーで来ている人は日本人だけではなく、ヨーロッパや南米、特にブラジルの人が多い。語学学校にもブラジル人学生が多く、シドニーのカフェやレストランもブラジル人のワーキングホリデーで来ている方が働いてるのをよく見かける。
――ブラジル人やヨーロッパの人たちと、日本から行ってるワーキングホリデーの人たちは仕事を奪い合う関係か。
TBSシドニー 飯島浩樹通信員:
そういうことになる。先ほど取材した足立さんは100件以上履歴書を出して、見つかったのは老舗の素晴らしいイタリアンレストランで足立さんにとっては「非常にラッキーだった」と言えるかもしれません。それから仙石さんもラッキーなことに仕事が見つかったが「友人はかなり苦労している」と言っていた。ただ仕事が全くないわけではない。ブラジル人学生は、かなりアピールして仕事を得ている。それから関係者に聞いたが、日本人が仕事を得るまで「英語」がネックになってきている。ただ、やる気や誠意があれば採用すると言っている。そしてコロナ禍のときはフルーツピッキング・農場もワーキングホリデーに依存していて、(ワーホリ雇用者が)ゼロになってしまったときに、農園が潰れる事態が社会問題になったぐらいなので、大変だが仕事はあるといった状況。
――オーストラリアでの生活は30年ぐらいだそうだが、当時もワーキングホリデーは人気があったと思うが、今と比べてみてどうか?
TBSシドニー 飯島浩樹通信員:
様変わりしている。当時はワーキングホリデーで「ホリデー」が重要で、「ワーキング」は、付いてくる。シドニーやメルボルンに来てカフェや日本食レストランで働いてお金をアルバイトで稼いで中古のバイクや車を買って、広大なオーストラリアを1周することが、「ワーホリの定番」といわれていた。だが、今円安の状況で最低賃金がどんどん上がっているので、ワーキングホリデーの「ワーキング」だけをやって「ホリデー」しないで帰ってしまう、まさに「出稼ぎ」で来ている人が増えているように感じる。
――違いはあるにしても、若い人たちが海外に出ていろんな体験をするというのは、国際交流という意味でやはり重要だ。
TBSシドニー通信員 飯島浩樹記者:
その通りだと思う。オーストラリアは他の先進国と比べても非常に治安が良くて安全。先日、オペラハウスの隣の公衆トイレで携帯電話を忘れてしまったが、翌日返ってきた。それから財布を忘れても返ってくるという話もよく聞く。そして多文化社会オーストラリア。ブラジル人のように頑張って誠意を持っていれば職にありつける、認められるという社会。もちろん住宅の問題はある。一つの狭いアパートに6人がシェアをしなければならない。それから物価。シドニーは世界有数の物価高の都市になっている。オーストラリアには、日本に欠けていることを、つかめるのは絶対にあると思う。ぜひ準備をしっかりして、オーストラリアのワーキングホリデーに来ていただきたい。
人気のワーキングホリデー なぜ若者はオーストラリアへ
ワーキングホリデー人気の背景にある、世界の最低賃金を比べてみると、日本(1004円)も上がってはいるが、他の国(オーストラリア2386円、ニューヨーク市2384円、イギリス2196円)と上がり方がすごく、結果、2倍以上の差がつくレベルになっている。
背景にあるのが賃金だけではなく、為替市場の動向もあり、豪ドルに対して円がどんどん安くなっている。かつて60円ぐらいだったものが、今109円まで下がった時期もあり、円安は大きい。
千葉商科大学教授 磯山友幸氏:
特に円安で見た日本の最低賃金が猛烈に安いので、このままだと外国人も来なくなる。
一方、日本人でオーストラリアを訪れた人は、観光客も含めてピーク時に80万人ぐらいいたのが、今は29万人にまで減っている。日本人がたくさん行ってるときには日本人向けの仕事もたくさんあるはずだ。
千葉商科大学教授 磯山友幸氏:
「もはや海外に行かないと稼げない」ということで、この10年、20年、日本の若者は「内向き」だとずっと言われてきたが、うちの大学で学生にアンケートを取っても「むしろ海外で働きたい」という人がすごく増えてきている。内向き思考が変わったという意味ではプラスかもしれない。
(BS-TBS『Bizスクエア』 8月18日放送より)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。