大阪市鶴見区にあった介護施設「りはびりぷらすDayService」。

この施設の元代表・西影由貴(ゆうき)容疑者(38歳)が、利用者だった80代の姉妹の自宅をだまし取った詐欺の疑いで、7月17日に再逮捕された。

■何不自由なく暮らしていた姉妹の生活が一変

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姉妹は2人暮らしで、預貯金は2000万円以上、持ち家もあり、お金には不自由のない老後を過ごしていた。

しかし、施設に通いだして2年たった、2021年。西影容疑者が姉妹にこう話を持ちかけ、生活は一変したのだ。

西影由貴容疑者:妹さんはお金を使いすぎるから、僕が管理してあげる。

生活費を管理してもらうためと、西影容疑者を信じ切ってしまった姉妹。言われるがまま、キャッシュカードや通帳を渡してしまい、2000万円を引き出されてしまった。

そして…。

記者リポート:姉妹が暮らしていた家は取り壊され、現在はこのように更地となっています。

西影容疑者は、姉妹の住む家を600万円で買い取る契約を交わしたが金は払わず、だまし取った疑いももたれている。

家は不動産会社に800万円で売却。そして、姉妹を自らが住むマンションに引っ越しさせた。

マンションにはクーラーなく、電気やガスが止まることもしばしば。食パン1枚を2人で分け合うほどの困窮ぶり。なぜこのような事態になってしまったのか。

■西影容疑者が行った“洗脳”の実態

不審に思ったマンションの関係者が、西影容疑者を問いただした時の音声が残っている。

西影由貴容疑者:(姉から)『お金の管理を手伝ってくれ』とか、いろいろお話をしてくださっていた中で、金銭管理に関しては『やったらだめですよ』と。そこに関しては僕の気持ちだけで動いて、お願いの部分で断り切れなかった部分が正直あったかもしれない。不正をしているなり、何なりという部分は、僕の中で一切やっているつもりは全くない。

その場に立ち会ったという男性は次のように話した。

立ち会った男性:普通の大人でもね、あいつの口にかかったらだまされますわ。もう本当に(口が)達者。結局、『自分らがいなかったら本当に生活していかれへんで』っていうくらいまで、精神的にやっぱり、そういうことも言っていたんじゃないかなって思いますよね。

さらに、西影容疑者の暴挙はこれだけにとどまらない。

■姉妹を連れ去り“養子縁組”して支配

マンション関係者の追及から逃れるように、西影容疑者は姉妹を東大阪市の集合住宅に連れ出した。

記者リポート:この坂道を上った先に姉妹が移り住んだ集合住宅があります。足の悪い高齢者が上るには、かなり険しい坂という印象を受けます。

さらに、施設の元従業員を妹の養子にして、2人を支配していく。

知人:養女になってるの?おばちゃんの。

妹:うん。

知人:養女になったことも知ってるねんな?

妹:はい。

知人:おばちゃんがオッケーしてるの?

妹:はい。

姉:(養子に)させられたんや。

知人:そうやろ?

知人:怖がってしまってかわいそうに

妹:一歩も外に出てない。

知人:そうやろ、そんなの体が弱ってしまう。

妹:私が悪いから逃げてきたんや。

知人:違う!何にも悪いことない。

姉妹は認知機能に問題はなかったというが、身近に親族がおらず、頼れる人は施設の職員だけだった。

そんな中、逃れられない“経済的虐待”に陥ってしまったのだ。

同様の被害が後を絶たない今、被害を防ぐための取り組みを追った。

■相次ぐ“経済的虐待”の被害を防ぐには?

相次ぐ“経済的虐待”から高齢者をどう守るのか。

NPO法人 シビルブレイン 松本直高代表理事:お金の管理だけが後見人の仕事じゃないんですよ。身上監護といいまして、状況をしっかり把握できるかっていうのは大事なところだと思います。

そう話す松本さんは、堺市にあるNPO法人「シビルブレイン」の代表だ。

このNPO法人は弁護士や税理士など、専門職の集まりで、本人に代わり財産を管理する「後見人」も引き受けていて、これまでに延べ208人の後見人となってきた。

その中には、兵庫県内の老人ホームの職員に500万円を横領される“経済的虐待”の被害者もいたという。

NPO法人 シビルブレイン 松本直高代表理事:西宮の市立の老人ホームで、そこで500万(とられた)。『横領じゃない、贈与や』の一点張りで。それで弁護士を入れて話をして、結局は30万しか戻ってこなかった。

厚生労働省の調査によると、介護職員による経済的虐待の被害者は、2022年までの過去10年間で、全国で延べ651人に上る。

しかし、松本さんは被害に気づかないケースも存在すると指摘する。

NPO法人 シビルブレイン 松本直高代表理事:個人の担当者にお金を預けてしまっているパターンであれば、施設の方々も、運営している法人も、なかなか(被害が)分からない。

こういった事態を防ぐためにあるのが「成年後見制度」。

制度には2種類あり、1つ目の「任意後見」は、将来、判断能力が低下した時のために、本人があらかじめ後見人を選んでおくもの。

もう1つが「法定後見」。本人が認知症などで判断できなくなった時に、裁判所が弁護士や司法書士などから後見人を選ぶというものだ。

ある日、「シビルブレイン」の担当者は銀行に立ち寄った。後見人を担当する大林さんだ。

NPO法人 シビルブレイン 大林一美さん:通帳を紛失された方の再発行手続きに。ご本人の預貯金やと、そこの銀行にあるかないかの確認に行ってきました。

その後、老人ホームへ。

NPO法人 シビルブレイン 大林一美さん:大体、月に1、2度ヘルパーさんへのお金を持参したり、本人のお小遣いや必要な分とかは、本人に伺いながら財布に足させていただいたりしています。

後見人は、担当する人の財産を預かり、必要に応じてお小遣いとして渡すなどのお金の管理をしたり、契約ごとの手続きも代行する。

成年後見制度は高齢化が進む割に浸透していないのが現状で、75歳以上の高齢者のうち、この制度を利用しているのはわずか1.2%にとどまっている。

NPO法人 シビルブレイン 松本直高代表理事:どんどん高齢化が進んでいる中で、少しこの制度が置いてきぼりを食らっているのかなと。全部が安心とはいかないですけど、ないよりは安心して暮らしていただけるんじゃないかなと思いますね。

孤独な高齢者に忍び寄る“経済的虐待”。

「自分は大丈夫」。そんな心の隙が狙われている。

(関西テレビ「newsランナー」2024年7月17日放送)

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