(ブルームバーグ): 日本全国で1000店舗余りのレストランを展開しているサイゼリヤが提供するワイン「マグナム」は1.5リットルでわずか1000円とそれだけですでにお買い得だ。
その上、同社の株主ならこのワインを無料で手に入れることができる。100株以上保有していればサイゼリヤで使える食事券が毎年少なくとも2000円分もらえるためだ。
他の多くの日本企業同様、サイゼリヤは最近、こうした株主優待を打ち切ると明らかにした。個人投資家の多くはこの特典を受けるためだけにサイゼリヤ株を保有しており、予想外の発表に同社の株価は11日に一時9%近く下落した。ただ、この日は日経平均株価が初めて4万2000円台に上昇して終了した。
株主は優待制度を通じ保有する株式の特定単位ごとに年1回、商品券などのギフトを得る。著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイは自動車保険ガイコの割引を株主に提供しており、この慣習は日本だけのものではない。
キリンホールディングスはビールを、キッコーマンは調味料のセレクションを提供。東京証券取引所を運営する日本取引所グループでさえプリペイドカードを配っている。
ウェブサイトや雑誌では配当とギフトの利回りを合計したものが紹介されており、中古バイク販売のバイク王&カンパニーの利回りは85%と、途方もない(そのほとんどが中古バイクの3万円値引きという形だ)。
株主優待は、日本株市場の失われた数十年を象徴する一つかもしれない。キャピタルゲインを株主に約束できない企業は、代わりに目に見える利益で投資家にアピールした。お中元やお歳暮とも類似点が多い制度だ。
野村インベスター・リレーションズによれば、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前のピークから若干減少したものの、上場企業の3分の1が何らかの形で株主優待を提供している。
これは中堅企業に限ったことではない。ソフトバンクは今年4月に初めて株主優待を設け、同社のモバイル決済サービス、PayPay(ペイぺイ)で1000円相当のポイントを提供した。セブン-イレブンのセブン&アイ・ホールディングスも最近、株主優待を新設した。
企業にとって、株主優待は所有権の分散を図り、長期投資家を呼び込むことが可能だ。ファンダメンタルズが反映するよりも高い水準に株価を引き上げたい企業は、この制度を活用できる。2020年のある論文によると、株主優待は小さめの企業の株価押し上げに寄与している。
この制度は海外投資家に不利だという批判が以前からある。株主優待を受けるには日本居住者である必要だからだ。国内の機関投資家やカストディアン(保管機関)は特典を拒否するか、巨大な年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のように寄付するか換金しなければならない。
株主優待は取引初心者に株式市場への参加を促す良い方法として機能してきた。ただ、新NISA(少額投資非課税制度)が今年始まると、最初の3カ月だけで170万口座が開設された。新NISAは若い世代をより永続的なリターンに目覚めさせるのに役立っている。
ということは、株主優待の時代は恐らく終わりを告げるはずだ。サイゼリヤの株価はここ数年、海外での収益化が進むにつれて倍以上になっている。重要なのは、同社が何を減らしたではなく、何を加えたかだ。株主優待はなくなるが、配当金が引き上げられ、投資家はサイゼリヤもしくは他社に再投資することができる。
東証自体も、他の上場企業に同じことを奨励し始める時期に来ている。それは単により公平で資産を増やす優れた方法というだけではない。個人投資家にとっては、1000円のマグナムワインよりずっと好ましい。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Wine Perks Go Too Far in Japan: Gearoid Reidy (抜粋)
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