アメリカでの利下げ観測の高まりは、今週の為替と株価に大きく影響した。7月末に迫った日米中央銀行の会合で、金融政策に大きな動きはあるのか。

連日の史上最高値更新 株価好調の要因は?

7月12日~14日に東京ビッグサイトで開催された「資産運用EXPO」。投資に関する日本最大級の展示会で期間中、多くの個人投資家が来場した。訪れた個人投資家は「ここ数か月で日本株が盛り返してきたと感じているので投資対象として、いろいろ知識を入れていければ」「日経(平均株価)最高値更新とか一喜一憂しないで粛々とやっている」などという。

投資家の関心はもちろん株高。日経平均株価は7月11日に初めて4万2000円を突破するなど、5営業日連続で取引時間中としての史上最高値を更新した。12日は利益確定の動きもあり、大きく下げたが、好調な株価の要因はどこにあるのか。

SMBC信託銀行 投資調査部長 山口真弘氏:
年初からかなり業績については慎重な見方があった日本企業に対する期待感が円安によって押し上げられ、それが株高に繋がったと考えている。アメリカ利下げ観測が高まったことも大きな要因としてはあったと思う。利下げ観測が高まったことで、アメリカの半導体株やハイテク株が上昇し、日経平均を押し上げたというようなことが大きい。

――今後の株価の見通しについては…

SMBC信託銀行 投資調査部長 山口真弘氏:
(企業の)資本効率の改善への期待は本決算を経て、株主総会を経て、より一層高まってきていると思うので、その面から株高の効果は期待できる。日本株はかつてブームが過ぎると割安圏まで売り込まれるような流れがあったが、そういう流れは止まってきていると思う。

「もはや加熱していない」アメリカ 9月利下げ観測高まる

アメリカの利下げ観測の高まりには、FRBパウエル議長の発言が大きく影響した。

FRB パウエル議長:
直近の指標は雇用情勢が2年前と比べて、かなり減速しているという明確なシグナルを送っている。もはや加熱した経済ではない。緩和が遅すぎたり、小さすぎたりすれば経済活動に打撃を与える可能性がある。

アメリカのFRB・連邦準備制度理事会のパウエル議長は、利下げの時期こそ明言しなかったものの、市場では9月にも利下げが始まるとの観測が広がった。

さらに、11日に発表されたアメリカの消費者物価指数がインフレの減速を裏付けたとして、9月利下げは確定路線と受け止められた。

この消費者物価指数の発表直後、円相場は一時1ドル157円台と4円も円高に振れた。12日、日銀が公表した統計から3兆円規模の為替介入があった可能性が推測されている。

2日連続で為替介入か 157円台に 今後の円相場は!?

バルタリサーチ 為替ストラテジスト 花生浩介氏:
CPI(消費者物価指数)の発表直後というアメリカ市場の一大イベント。そんな時にそこのマーケットをかき乱すようなことをするというのが、ある意味意外だったが逆に言えば、財務省のそれなりに強い姿勢は確認できた。アメリカ当局との間にある種の握り(約束)はできていると思った。ちゃんと金融正常化ということに対して、道筋を示すことをしない限り、やはり介入だけでは、時間稼ぎに過ぎない。

その後、ドル円相場は再び159円台まで戻したが、12日夜にも急速に円高に振れる場面があり、市場では2日連続で、政府日銀による為替介入があったという見方が出ている。
これについて13日未明、財務省の神田財務官は…

財務省 神田眞人財務官:
(介入について)私から申し上げることはないが、(円相場について)ずっと一方向で圧倒的に変動があったことを無視して語れない状況。

7月末に開催される日銀の金融政策決定会合では、長期国債の買い入れ額の減額について具体的な計画を決定する予定だ。円安物価高の中、日銀は難しい舵取りを迫られている。

注目の日米金融政策 FRB 9月利下げ観測高まる

7月30日、31日に日本もアメリカも金融政策決定会合が同日に開かれる。そこで金融政策の変更がどのようになるか話を聞いていく。

まず一番注目されたのが、9日のFRBのパウエル議長の議会証言。「もはやアメリカ経済は過熱していない」「利下げが遅すぎれば経済活動に打撃を与えかねない」「直近の指標は緩やかな進展を示している」といった発言だった。

――行間を読むと9月末の利下げは確実だと市場は受け取ったようだ。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
消費の伸びが明らかに減速してきている。前は消費が強すぎたが、全体としてそろそろ利下げのデータが増えてきている。

――市場では9月利下げだと、年内3回だとはやし立てている。今後も利下げしていくのか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
11月の大統領選でトランプ氏が選ばれると利下げ圧力が、すごく高まる可能性もあるのでそこを読まないといけないが、あまり利下げしすぎても、経済がまた良くなっていき過熱的になっていくので、非常にバランスをとると思う。11月がすごく大事だ。

――消費者物価指数のグラフを見ると、まだ完全に安心できる状況ではない。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
粘着性がある項目だけを見るとまだインフレの懸念は残る。それから労働市場が軟化してきているとはいえ、まだ歴史的に見て強すぎる。かなりタイトだから、賃金上昇率も高いので安心して利下げできる状況ではないと思う。

――データを見ながらゆっくりと利下げしていくということか。その一方で、最近は消費の統計も少し悪い数字が出てきたりすると景気後退懸念が強まるという人もいるが、このリスクは?

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
かなり低いと思う。アメリカはミックスでまだ強いデータもあるので、減速はすると思うが、割と正常化に向かっているという感じ。大きく景気が後退することは考えにくい。

7月末に日銀政策決定会合 国債減額と利上げ時期は!?

――日本の金融政策決定会合について。7月は前回決めた6兆円程度買っている国債の買い入れを減額すると、その具体的な減額幅とペースを決めることになっているが、他にどんな決定が行われるのか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
まず日本銀行の金融政策の基本的な枠組みを理解する必要がある。6月になぜ国債買い入れの減額をするかというと、長期金利の自由な需要と供給による価格形成を作りたいと言っている。それは2%のインフレ目標や景気とは繋げていないところが重要。だからここは景気とかインフレの達成度と関係なく粛々とやっていくことなので、おそらく今後の政策は国債買い入れ減額の方が重要で、おそらく毎月の買い入れ額を明確にして1~2年ぐらい見てストップ&ゴーで、状況が悪かったらやめるような形で粛々とやっていく方が一番重要だ。政策金利の方は、短期金利は2%のインフレ目標の安定的実現が金融政策の目的なので、ここが数か月前に総裁が言ったように、彼らのインフレ見通しよりもかなり上振れるということであれば、利上げができるが、それ以外では不可能ではないが、どんどん上げていくという感じではない。

――「国債買い入れ減額」と「政策金利」は分けて考えているんだと。まず「国債買い入れ減額」の方から見ていくと、毎月6兆円、買っているものを、3兆円~5兆円に減らしていくとすると、どこまで減額すると思うか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
銀行が、相当日銀の当座預金を持っている。要するに国債を日銀が減らすってことは、その当座預金を減らしていくということなので、それをどこまで減らせるか。銀行が過剰に日銀の預金を持っている。それを見ると比較的金利が低い当座預金よりは、国債を持ちたいという思考はあると思う。バランスシートから見ると、1~2年は3兆円ぐらい(減額)は可能かなと。それぐらい過剰に当然預金が膨張している。

――今に比べて、国債の保有額が10%減ぐらいになると、ECBやFRBが今減らしてる割合に比べるとペースは遅いけれども遜色ないと。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
いま、当座預金が580兆円。せいぜい60兆円ぐらい減らすような程度なので、それでも大きなバランスシートがある。ただ一方で国債発行も増えているので、国債の需給をしっかり見ながら、どれだけ日銀が減らしていく国債を、銀行や生命保険会社が買ってくれるか見ながら、ゆっくりと減らしていくと思う。

買い入れ余力がどれぐらいあるか。国債を誰が持っているかを表したグラフを見ると。日銀が576兆円と全体の半分以上を保有していて、他に金融機関や保険年金基金などが保有している。

――かつては金融機関がかなり多くの国債を買っていたものが、最近は金利が少しずつ上がってきて国債価格が下落してることもあって少なくなっている。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
(2000年から2024年の)この間に銀行のバランスシートがものすごく大きくなった。家計と企業が預金をどんどんしているので、銀行の資産がものすごく大きくなっているのに国債はどんどん減らしてきていて、日銀の当座預金にものすごい金額を持っている。それだとあまり利益も生まない。しかし国債に転換すると金利が上昇していけば、時価で見ると下がる恐れもあるので、金融規制の観点から見てそんなに持てないが、あまりにも当座預金を持ちすぎている。一番の改定はやはり銀行になる。ここが中心になるし、それなりの買い入れの余力はあると思う。

――消化具合を見て長期金利が跳ねないように、ある種コントロールしながら自由な金利形成を促していくということになるのか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
保険と年金基金は負債側が長期なので、長期の国債を持ちたい。なので金利も上がってきているので、もう少し保険年金も変えられる余地はあるが、やはり明確に銀行が中心になると思う。

――もう一つの決定会合の焦点は、利上げがあるのか、あるとしたらいつなのか。円安が進んでいることもあり日銀に何か対応という求める声が出ているが、見通しとしてはどうか。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
やはり短期金利政策。金利というのは、2%の物価安定目標というのが金融政策の目標なのでそこを対比で判断するはず。それで見ると、確かにインフレは2年以上、2%を超えているし、人々の感覚ではもっと上がっている。しかし、金融政策というのは中長期的にどのぐらいのインフレがこの国で収束するのかというのを見ている。日銀の試算では、1.5%。これが2%なら大丈夫だが、いっていない。(いわゆる基調的な物価上昇)というものなので、中長期的に2%を達成できるかどうかがかなり不確実な状況。今は一時的に円安などで高くなっているが、収まってくれば2%を切ってしまう可能性が高いことを考えるとそこから見ると利上げは考えづらい。

――理屈からすると利上げの環境ではないが、円安もあり何かしなければいけない状況に置かれていると思うが、7月なのか9月かということになる。

慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
3月~6月日銀が、成長下の方に見たときにがっかり感があって、市場で円安が進んだが、今回はそういうことを避けたいとなると、短期金利も0.3%ぐらいまで上げられるので、一緒に資産買い入れの減額とともに、7月31日に発表すると感じている。そのときは0.25%~0.3%。そんなに上げる余地はないと思う。

(BS-TBS『Bizスクエア』 7月13日放送より)

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<プロフィール>

白井さゆり氏
慶応義塾大学 総合政策学部教授
2011~2016年まで日銀審議委員
専門分野は国際金融や日本経済など

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