(ブルームバーグ): 議会解散・総選挙でフランスを政治的混乱に陥れたマクロン大統領は、いまや前途を描ける首相を見つけるという難題に直面している。
総選挙の結果、マクロン氏の権力基盤は一段と縮小した。同氏の中道グループは左派連合「新人民戦線」とマリーヌ・ルペン氏が実質的に率いる極右政党「国民連合(RN)」と拮抗(きっこう)する議会内第2勢力にとどまった。
選挙で予想外の勝利を収めた左派連合は、首相候補を立てようと動いている。問題は、左派連合の議席数が過半数に100余り及ばないことだ。マクロン氏のグループと手を組めば十分な支持を確保できるが、隔たりは大きく、深い。
伝統的な共和党保守派との駆け引きや、対立を生みがちな極左議員を脇へと追いやって新人民戦線の分割を狙う動きも見られる。だが、近代のフランス政治において、このような形の連立政府発足は例がない。
マクロン大統領が速やかに次期首相を見つけられない限り、予測不能な政治的膠着(こうちゃく)がフランス経済を行き詰まらせ、ポピュリストに対する勝利に暗い影を落とす恐れがある。首相指名はマクロン氏にとって、2期目の最終盤で最も重大な決断となるかもしれない。
フランス憲法に従うと、首相指名は大統領の特権だが、不信任決議に過半数の議員が賛成することのない人物を見つける必要がある。
次期首相の候補は多く、全員に強みと弱みがある。主要候補は以下の通りだ。
予想外の続投
辞表を提出したものの、アタル現首相は候補から外れたわけではない。アタル氏(35)は「義務感」からマクロン氏の中道グループを率いて選挙を戦い、予想を上回る結果を収めた。35歳の同氏は、幅広い政治提案が必要な時代にフランスは入りつつあるとの認識を示した。
アタル氏の強みは、国内で最も人気のある政治家の1人であることだ。また、マクロン氏と同じく左派の政治家として政治のキャリアをスタートさせた。このため理論的には、新人民戦線の穏健派と対話を開始することが比較的容易かもしれない。
一方で、アタル氏は左派全体が拒絶する「マクロン主義」の主要閣僚でもある。アタル氏はマクロン氏と一定の距離を置こうと腐心しているが、有権者が求めた変化の象徴にはなりにくい。
共和党の復活
共和党所属でフランス北部のオー・ド・フランス地域圏知事を務めるグザビエ・ベルトラン氏は、連立政府を率いる用意があると示唆。同氏はブルームバーグとのインタビューで、「本当に必要とされているのは、違いがどうあれ、まとめ上げようとする人材だ」と述べ、自らを候補に位置づけている様子を見せた。
共和党の首相誕生となれば予想外の復権だが、マクロン氏はゆっくりとその方向に進んできた。2年前に議会過半数を失って以来、同氏は法案を通すために保守派議員に頼ることも多かった。
ただ、共和党と連携しても、マクロン氏グループは過半数に届かない。他の左右の中道派が首相候補としてベルトラン氏を支持する必要がある。
過去からの逆襲
今回の下院選で社会党のオランド前大統領が当選し、政治の表舞台に戻ってきた。次期首相について自身は候補ではないとしつつ、どの候補であれ議会過半数の承認が得られるのかまだ判然としないと述べ、曖昧な言い回しを続けている。
中道左派には他にも候補になりそうな人材がいる。マクロン氏に総選挙実施を決断させた欧州議会選挙で、左派躍進の立役者となったラファエル・グリュックスマン氏らだ。
グリュックスマン氏は7日夜にフランスのテレビ局に対し、「大人らしく行動する新時代の幕を開ける必要がある。議論と対話が必要だ」と述べていた。
グリーン・ショット
マクロン氏が呼びかけるとみられる新人民戦線の穏健派には、緑の党もいる。緑の党のマリーヌ・トンデリエ党首は、次期首相についてフランスに落ち着きを取り戻しコンセンサスを構築する能力があり、左派の政策に一致する人物でなければならないと主張した。
トンデリエ氏は「経験とスキルのある人材が必要だが、新人民戦線にはそのような人材が多くいる。この基準を満たす女性もいる」と述べ、間接的な言い回しながら首相候補に名乗りを上げた。
分別ある中道主義者
決選投票で左派が予想外の躍進を果たすまでは、ハングパーラメントで政治色のないテクノクラートによる内閣が生まれる可能性がささやかれていた。
フランスは経験豊かな官僚を数多く抱え、フランス中銀のビルロワドガロー総裁を推す声もある。だが、知名度の低い官僚が分断の深刻な議会で橋渡し役を務められるほどの影響力を発揮できるとは考えにくい。
政治的な役割を求めるのであれば、マクロン氏は盟友のフランソワ・バイル氏に声をかけるかもしれない。バイル氏はフランス中道派の中心人物で、過去に左派寄り、右派寄りの両方の政府に協力してきた。
同氏は8日夜にLCIテレビでのインタビューで、極右と極左を排除した幅広い連合の創出を提唱。これにより議会過半数を確保できるとし、「他に解決策はない」と語った。左派連合の経済政策の公約は「危険」だと述べ、首相にはオランド氏がふさわしいとの見方を示した。
左派
極左政党「不屈のフランス」のジャンリュック・メランション党首は、左派陣営で恐らく最も目立つ知名度の高い人材だが、陣営の内外でますます物議を醸すようになっている。
決選投票の出口調査結果が明らかになるやテレビに出演し、首相候補に名乗りを上げた。だが、トップダウン的なスタイルと議会での攻撃的なアプローチから、左派にとって「お荷物」だと指摘する声もある。穏健派の支持取り付けにも課題がある。
マクロン氏はメランション氏が反ユダヤ的な発言をしたとして非難し、過激派と呼んでいただけに、同氏を首相に指名するとなれば大きな方向転換となる。ただ、2022年の前回選挙と比べて緑の党や社会党は議席を伸ばしたものの、不屈のフランスはあまり変わらず、メランション氏の勢いには疑問符も付く。
原題:The Potential Contenders to Become France’s New Prime Minister(抜粋)
--取材協力:Samy Adghirni、Tara Patel.
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