三井住友銀行がいわゆる“年功序列”を廃止するなど人事制度を抜本的に変更する。成果主義を取り入れ、20代でも年収2000万円が可能となる『年齢にとらわれない昇進』や、デジタル部門など『専門分野の人材には年収5000万円前後の提示』などといった大胆な改革が実施されるという。

この制度見直しの狙いについて、経済アナリストの林 大吾氏に聞いた。

優秀な人材確保に必要不可欠

ーー年功序列制度廃止の背景は?

最大のポイントはやはり優秀な人材を確保できなくなってきていることです。この10~20年でITやファッションなど人気業種が増えてきて、銀行は一昔前は非常に人気が高い職種でしたが、今は落ちてきました。その中で優秀な人材を確保するためには人事制度を変えることが必要不可欠だったのだと思います。

今回の三井住友銀行の発表を聞いて、ようやく銀行も大幅に変わっていくのかなと思っています。

経済アナリスト・林 大吾氏
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ーー銀行はどのような変化を迎えている?

みずほフィナンシャルグループは昨年、初めて中途採用の人数が新卒採用数を上回りました。新卒にとって銀行は、給料の問題、年功序列の問題、能力が評価されないといった面で相対的に魅力が低下しています。

三井住友銀行はメガバンクの中でいち早くいろいろと変えてきている銀行ではありますが、業界全体で見るとまだ年功序列を中心とした古い制度が色濃く残っています。

他業種も撤廃の動きが加速

この他にも三井住友銀行は、51歳の誕生日を境に重要な管理職以外の社員の給与が引き下げられていた『中高年社員の一律減給廃止』や、転勤など引っ越しの伴う異動について『その可否を選択できる』ことを盛り込み、2年後を目途に実施する見通しだという。

ーーこうした動きは今後広がっていく?

間違いなく今回の動きをきっかけに地方の銀行にも広がっていくと思います。特に第二地銀と呼ばれてきた銀行は優秀な人材を確保するのが本当に難しくなっています。

そこで、まずは平均年収を上げていくことで相対的に銀行の魅力を高め、年功序列に頼らずに成果や能力をきちんと評価する動きが必要になってきます。

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ーー銀行以外の“年功序列”撤廃の進み具合は?

この10年ぐらいで相当年功序列は少なくなっていて、ITをはじめとした新しい業種はもちろんのこと、大手商社なども廃止してきています。外資系の投資銀行やコンサルティング会社などはもともと極めて強い成果主義、能力主義ですから、そちら側に日本の伝統的な大企業が合わせる動きがこの10年でかなり進んでいます。それが中小企業や地方の企業にも波及しています。

欧米企業から見ればまだ日本は遅れている部分が多いですが、10年、20年前に比べたら、欧米企業の制度に非常に近い、もしくは同等の制度を持つ会社も出てきています。そう考えると日本の銀行はかなり遅れていると言えます。

高額報酬で「システム担当者」を確保

人事制度改革の金額面で目を引くのが、専門分野の人材に対する「年収5000万円前後」の高額提示だ。この背景について林氏は、ネットバンキングなどデジタル化が進む中、セキュリティ面のスペシャリストを採用するために欠かせない手段だと説明する。

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ーー人事制度の見直しは人材確保にプラスになる?

間違いなくプラスだと思います。付加価値の高い業種に積極的に人材を誘導させようとしている中で、転職が当たり前の世の中に変わってきています。年功序列は社会にマッチしなくなり撤廃の流れにあるわけです。

しかし実際には、まだ年功序列に甘えたいという人が一定数いることも事実です。自分たちが入社した時は40代、50代になれば年収が上がると言われて20代を過ごしてきたのに、いざ50代になったらいきなり「20代と年収が一緒です」と言われては困るという人はかなりいます。

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ーー「年収5000万円」の狙いは?

銀行は今、セキュリティ面から「システム担当」という職種が極めて重要になってきています。みずほ銀行などが何度もトラブルを起こしていますが、セキュリティの問題に対応するには優秀な人材が必要で、そのために「年収5000万円」という話が出てきたのだと思います。

それだけ支払っても優秀な人材が欲しいのと、そうした能力がある人はすでに他の会社で同程度の給料をもらって働いています。例えばビットコインのシステムを作っているベンチャー企業の人材はそれくらい貰っています。銀行も同じレベルの人材を配置しないと、ネットバンキングシステムのセキュリティを守れないといった問題が現実論として生じています。

最先端の金融システムを作っている人と同レベルの人材を採用するためには、三井住友銀行もこれだけの年収を提示する必要があるということです。

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