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 「エジソンに憧れている。カッコ良すぎる、大好き」

 こう語るのは、応用物理学者で神戸大学教授、スタートアップ「IGS」代表の木村建次郎氏。“数学の天才”とも称される彼が研究しているのが、見えるはずのないものを透視する技術だ。魔法のようなテクノロジーで、世界初の発明を次々生み出しているという。

【映像】カバンの中の銃だけが“透けて”見える様子

 それができた背景にあるのが、数学の未解決問題「波動散乱の逆問題」の解明。未知のものに対し外から波動を送り込むと、ぶつかった波の跳ね返りが発生する。その波を観測・計算する事で、物体の位置や形を導き出せるのでは、という問題だ。世界中の数学者が挑み続けた難問を、木村氏が初めて解き明かした。

 ノーベル賞候補とも言われる木村氏の頭脳と野望に、『ABEMA Prime』で迫った。

■“透視の仕組み”とは

 解明した透視の仕組みについて、木村氏は次のように説明する。

「物を見るというのは、基本的にレンズで光を絞って見るというのが一番わかりやすい。しかし今回の話はそうではなく、光を集めなくても見えるという点。例えば、竹やぶの写真を撮ると手前のものしか写らないが、実際には裏側の竹にも光が当たって返ってきている。数学の力を使ってその情報を引き出し、奥行きすべての情報を立体的に計算していくのが散乱の問題だ」

 スーパーコンピューターが解明できなかった問題を、10年かけて解明した。

「博士過程の時にコンピューターの半導体を調べていた。より早く良いものを作りたいが、思ったように動かない。トラブルの原因を調べたいけれども、中が立体的にどうなっているかわからないから、調べる方法そのものを作り出す必要があると考えていた。最終的に、ある数学の問題を解かないと解決しないということにたどり着いた」

■“世界初”の発明品

 木村氏の発明品の一部を紹介する。

【発明1】危険物を透視するセキュリティゲート
 従来の金属探知機はあらゆる金属に反応してしまうが、危険物だけを透視することができるという。実際にパソコンなどが入ったカバンで検証すると、普通ならセンサーに反応してしまうところ、異常は検知されず。次に、実験用の実物の拳銃が入ったカバンでは、「危険を検知しました」と反応した。

「拳銃が入ったことによる周りの電磁界の変化を観測して計算した結果が、コンピューターの音声に反映された」

【発明2】乳がんを透視する検査装置
 これまでの乳がん検査はX線を使ったものが主流で、乳房を押しつぶす痛みや、微量ながら被ばくのリスクもあった。さらにコラーゲンの繊維が多い胸だと、がんと同じように白く写り込んでしまい、発見が困難になるケースも。この課題を、マイクロ波という微弱な電波を使った装置で解決した。

「X線で見るのが難しい問題に関しても、劇的にクリアに見えるようになった。内視鏡で血管を見て、薄いと血管が破裂してしまうおそれがあるが、計算を使うと血管の裏側が見える。“この辺が破裂するのではないか”という予防ができるようになる」

【発明3】リチウムイオン電池検査装置
 電池内部の電流を透視することで、目に見えない電池漏れなど異常電流を特定する。「大丈夫だと出荷されたものが、市場で爆発してしまうことがある。電池は必ず中で電気が漏れているが、その漏れ方が問題だ。滝みたいに1カ所に集中している場合と、雨みたいに全体的な場合。危ないのは前者で、充電した時にプラスとマイナスが繋がってショートしてしまう」と説明。装置は5000万円程度で、すでに大手自動車や電池メーカーから受注があるという。量産化のため、政府系機関から約25億円の助成金も受けた。


 そのほか、石油や天然ガスなどの資源、地底・海底研究、遺跡調査、月の地下空間、埋蔵金などの「探査」。上塗りした油絵の下絵、食品の異物混入、自動運転技術の向上などの分野で、海外含め依頼がきているそうだ。

■ロケットの打ち上げシーンが転機に 探究心の根底にあるもの

 学者の父親と主婦の母親の間に生まれた木村氏。幼少期の夢は画家とピアニストだった。しかし、テレビでNASAの宇宙ロケットの打ち上げを見たことが転機に。

「視覚や音といった目に見えるもの・見えないもののストラクチャーに美しさを感じた。しかし、テレビで宇宙ロケットを打ち上げているシーンを見た時、“地球上にたくさんの生物がいるのに、どうして人間だけが宇宙に行けたんだろう?”と。人間の才能や知能は無限だと思い、宇宙科学者になろうと決めて、他の全てをやめた」

 父親から言われたのは、「世の役に立つ数学をやりなさい」。そして、京都大学工学部、半導体研究員を経て、波動散乱の逆問題を解明した。

 木村氏にとって「見る」とは、“見えないものを見たい=物事を正確に理解したい”ということ。

「見える・見えないはあくまで人間の視覚的・価値観的な話。それよりも、仕組みを知りたいというのが本質的なことだ。例えば、なぜ雨が降るのか?なぜ風が吹くのか?なぜ今ここにいるのか?と考えるのは、自分の理解が浅いから。物事の本質を考え、調べ、科学というものを次々生み出していくことで、これらに対する答えを出していけるのではないか。僕は非常に臆病者なので、自分がよくわからない不確定な要素は絶対やらない。毎日、常に“なぜ?”の連続だ」

■木村氏の次なる野望

 木村氏の次なる野望は、未解決問題の「有限温度密度汎関数理論」。これを解明すると化学反応をすべてコンピューター内で計算することが可能になり、人の手による実験が不要になる、一人ひとりに合わせた完全オーダーメイドの薬が作れるようになるという。

「例えば薬を作る時、これらを混ぜればいいというのは大体わかっているが、製薬メーカーはみんな実際に混ぜてやっている。それをコンピューターが一瞬で計算してしまえば、100億人に適した薬ができる。今はコンピューターの中で化学反応が起こせないので、計算式を一生懸命解いている。何かをやる時は5年と決めていて、かなり完成は近づいている」

 そして、関心は「脳」にも。脳内に流れている電流を可視化し、人間の行動にどう関係しているのか、死ぬまでには自分の脳の寿命をリペア(修理)したい、と考えている。

「人間が何を考えているかを知りたい。人間は基本的にコンピューターとほとんど同じ構造をしているので、どういう時にどう電気が流れるかという仕組みを解明すれば、“この人が何を考え、何を覚え、どういうことを喋るか”とか、喋る癖まで理論的に解明される」

 そこまでいくと、人権や倫理の領域にも足を踏み入れるのではないか。

「僕は科学者なので、そういうことは苦手だ。ただ、(50〜100年後)は少なくとも寿命はなくなると思っている」

(『ABEMA Prime』より)

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