上司・部下といった関係以外でも仕事で人と関わっていれば、誰しもが叱られる経験をしているだろう。

そんなとき、どう叱られるかによって、受け取られ方も異なる。

“コカ・コーラを日本一売った”山岡彰彦さんが、日本コカ・コーラ社で見た叱り方は、「人」ではなく「行動」をいさめていた。

著書『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(講談社+α新書)から、そのエピソードを一部抜粋・再編集して紹介する。

「打たれ弱さ」は若い世代だけではない

よく、最近の若い世代は打たれ弱い、上司や先輩から𠮟られると大きく落ち込む、すぐに出社拒否になってしまうなどと言われます。

でもそれは最近の若い世代に限った話ではありません。

𠮟られながらも成長する人。𠮟られたことに逆恨みする人。𠮟られても何も変わらない人。必要以上に大きく落ち込む人。このような人は以前からたくさんいました。

ミスをする、あるいは指示されたことができなければ当然上長から𠮟られます。

営業は社外の人たちと直接やり取りをするので、一つのミスが大きな損失につながることがあります。

ですからかなり厳しく𠮟られることは珍しくありません。

叱られて落ち込んだり、逆恨みする人は以前からたくさんいた(画像:イメージ)
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「なんだ、この報告は!」

(四国コカ・コーラボトリング社時代、)松田マネジャーが私の隣の席の畑山さんに向かって怒鳴りながらやってきました。その手には、畑山さんが提出した報告書が握られています。

「こんな内容でいいと思うのか!最初から書き直しだ!」との切り出しから、結構厳しい言葉が畑山さんに浴びせかけられます。

そこまで言わなくてもと思いつつ、横で指摘された箇所の内容を聴いていると、確かに報告書には不備がありそうです。

日本コカ・コーラ社で見た“叱る姿”

でも、畑山さんの表情を見るととても指摘されたことを素直に聞いているようには見えません。

それどころか早くこの場を終わらせたいという気持ちがひしひしと伝わってきます。

明日までに報告書を再提出することを告げた松田マネジャーが去った後、畑山さんが一言、「あんな言い方はないよなぁ。普通に話せばわかる話なんだから」と。

悪いのは松田マネジャーだと言わんばかりです。

その後もこうしたやり取りが幾度となく続きます。そのたびに二人の間の溝が深くなっていくようでした。

そんなある日、東京の日本コカ・コーラ社に出張する機会がありました。オフォスには海外からのスタッフも数多くいます。

訪問先の部署のマネジャーは以前もお世話になった藤野さんです。

彼女は誰に対しても率直に意見をぶつけ、部下に対しても結構厳しい姿勢で臨みます。年上の部下であっても躊躇しません。

私が近くにいても意に介することなく部下を𠮟ります。

しかし、藤野さんが𠮟っている外国人の部下の様子を見ていると、畑山さんが松田マネジャーに向ける表情とはまったく違ったものを感じます。

叱る対象は「部下」ではない

藤野さんの言葉をうなずきながら聞いています。

私にとってはちょっとした驚きです。

あんなに厳しく言われても冷静に対応することができるのはなぜだろう。

彼が自分の席に戻った後、藤野さんに聞いてみました。

「海外の人はものごとを割り切って考えるから日本人のように𠮟られても感情的にはならないのでしょうか」

すると彼女から意外な返事です。

叱るときは行動を叱るのであってその人を責めたりしない(画像:イメージ)

「そんなことはないですよ。彼らも同じ人間なので自分が𠮟られれば感情的にもなるし、きつく言われたことを根に持つこともあります。

でも、上司が部下を𠮟る場面をどう捉えるのかをお互いが理解しているから、感情的になり難いというのはあると思いますよ」

よく理解できません。不思議そうな顔をする私に彼女が話を続けます。

「私たちは部下を𠮟っているのではありません。彼が提出した書類、やった行動を𠮟っているのです。決してその人を責めたりはしません。

こちらが望む書類ができて、行って欲しい行動がとれるようになれば、お互いが幸せになれるでしょう。彼も自分が責められているとは思ってはいません。そうか、ここを直せばいいのかといった具合です。

その人を責めても良いことは何一つないでしょう。お互いが感情的になり、関係を損なうだけです。そこをお互いが理解しているのです」

なるほど、𠮟られているのは人ではなく、期待に沿えない書類や行動が𠮟られているのか。

それを正せばお互いが幸せになれる。そのことを上司も部下もわかっているから、感情的にもならず関係も変わらないのか。

上司と部下だけではなく、先輩と後輩なども含めて会社の中では上下関係があり、𠮟ること、𠮟られることは日常的に起こります。

私の周りでは、上長が「こんな書類を出すなんてよく考えたのか」、部下が「俺も悪かったかもしれないが、ああいう言い方はないだろう」と人同士がぶつかり合っています。

上手に𠮟る・上手に𠮟られる。お互いが成長するためにとても大事なことです。

(本文に登場する人物名・店名などは、実名・仮名を適宜使い分けています)

『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(講談社+α新書)

山岡彰彦
株式会社アクセルレイト21代表取締役社長。現在は複数の大学で講義、多数の日系・外資系企業で研修を行っている

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