(ブルームバーグ): 姫路城は1993年、日本初の世界遺産に登録された。67年の映画「007は二度死ぬ」にも登場した。最近では、別の理由で注目を集めている。兵庫県姫路市の清元秀泰市長は先月、外国人観光客は現在の入場料1000円の約4倍の料金を支払うべきだと提案し、大きなニュースになった。

  「二重価格」の導入で、市民の入場料は今より安くなるかもしれないと市長は示唆。多くの世界遺産が姫路城よりも高い入場料を設定しており、観光客と地元住民の適切な料金について議論が続いているが、まだ決定していないと姫路市は私に伝えた。

  空襲を避けるために黒く塗られたおかげで奇跡的に戦災を免れた姫路城の維持費が高騰しているのは間違いない。

  新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を経て、本格的に海外との往来が再開されてから2年もたたないうちに、日本は海外から押し寄せる観光客への対応に苦慮している。

  観光客は京都でバスを占拠し、富士山近くのコンビニエンスストアに押し寄せ、行く先々で迷惑行為を(しばしば正しく)非難されている。

  訪日観光客はここ10年で爆発的に増加し、最近の円安はその傾向を極端なものにしている。外国語での対応やメニューの調整にコストがかかることを理由に、外国人客に高い料金を請求する方法を探っている飲食店もある。

  訪日客消費は今年7兆2000億円に急増し、輸出額として見れば、自動車に次ぐ2位の規模になる。鉄鋼や半導体等の電子部品よりも日本経済を潤すということだ。

  しかし、姫路のような地方都市で、多くの人々は豊かさを感じていない。私が東京から夕方の新幹線で到着したときも、外国人消費の気配をすぐに感じることはできなかった。

  その理由を知るのに時間はかからなかった。日中は訪日観光客が大挙してやって来るが、姫路に宿泊する人はほとんどいない。新幹線で30分ほどの大阪に戻るか、あるいは西の広島に行く。

  宿泊客がいないため、高級ホテルはなく、建設もされていない。私自身は1泊だけで、翌日の夜はナイトライフがかなり充実している大阪に行く予定だった。

  それもあって、驚いたことに、私が話をした姫路市民は一様に二重価格を支持していた。姫路市でビール醸造所とレストランを併設したブリューパブを経営する宮崎隼人氏は、こうした制度に全面的に賛成だという。1日に1組か2組の外国人観光客が来るものの、夜10時には店を閉めるのだそうだ。

  私が二重価格制は日本が途上国に逆戻りしつつあるような気がすると言うと、宮崎氏はうなずきながらも致し方ない対策だと反論。米国とオーストラリアに以前住んでいた同氏は、日本の賃金が米豪に比べてどれだけ低いかをよく知っている。

世界では一般的

  姫路市長の言う通り、海外の多くの世界遺産は入場料が高い。例えば、ロンドンのタワーブリッジの基本チケットは17ドル(約2740円)で、姫路城の3倍近い。

  二重価格は必ずしも途上国の特徴ではない。現地の給料と観光客が払える額との間に大きな隔たりがある観光地で広く行われている。パリのルーブル美術館は、セーヌ河岸を含む広範な世界遺産に含まれ、欧州経済領域(EEA)の住民であれば25歳未満は無料だ。

  ハワイでは住民は「カマアイナ」割引を受けることができる。シンガポールのナショナルギャラリーは、地元住民と永住権保持者の無料入場を誇らしげに宣言しているが、観光客は15ドル相当を請求される。

  姫路の人々は私に「どんぐりカード」という博物館や水族館、その他の地元のアトラクションに中学生以下なら無料で入場できる地元の制度について教えてくれた。

  大人にも適用されてもよいのではないかと住民たちは言う。日本政府はマイナンバーカードを普及させる方法を探っているが、外国人観光客ではなく地元住民あるいは日本国民であると証明する方法の一つとしてマイナンバーカードの提示はどうだろうか。

  姫路市に関して言えば、必要なのは指針などの形での政府からのトップダウンの支援だ。訪日客に上乗せ料金を課す方法は幾つもあるが、自治体ごとにアプローチが異なれば適切とは言えない。誰が何をどのように支払うかを国が明確にすれば、反対は少ないだろう。姫路城は4倍の料金を払ってでも入場する価値がある。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan Should Charge Tourists More to Visit Sights: Gearoid Reidy(抜粋)

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