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浅草の街を颯爽と駆け抜ける人力車。実は、インバウンド景気の中、今「高収入」の引き手が次々誕生しているといいます。

この男性は、最高月収なんと127万円。世の中の賃金が伸び悩む中、人力車ドリームを目指し、希望者も殺到。しかし、そこには厳しい世界もありました。

給料爆上がり?月収100万円超え「人力車」のヒミツと、その舞台裏を追跡します。

■約8割が…引き手になれず、研修中にやめる

外国人にも人気の人力車 この記事の写真

東京・浅草、この日も人力車の乗り場には、多くの外国人の姿がありました。

イスラエルから来た親子
「オススメって聞いて、乗りたかったの!ワクワクしてるわ!」

雷門を正面に見ながら大きく曲がると、その先にはスカイツリーが見えました。

浅草のガイドを受けながら、街を巡ります。

「東京力車」西尾竜太社長

引き手70人を抱える人力車の運営会社「東京力車」。4年前の創業時に比べ、売り上げはなんと30倍に。社長の西尾竜太さん(42)によると、そんな会社に“ある異変”が起きているといいます。

西尾社長
「今年入ってから面接した子たち」

人力車の引き手になりたいと、希望者が殺到。多い月には50人以上の応募があるそうです。その理由のひとつが…。

社長
「アルバイト、20歳の子が130万円とか100万円を超えることとか」

インバウンド景気に伴い収入もアップ。なんと月収100万円以上の引き手もいるといいます。

西尾社長
「本当に絶対やるって決めない限り、やめたほうがいいよっていうのは伝えます」

応募の中から面接で3分の1以下に。さらに、数カ月にわたって研修が行われる厳しい世界です。

現在の研修生は45人、3割が女性です。それぞれのレベルにより研修を受けます。

研修7回目の青山そらさん(18)は、坂が難しい橋での運転。うまく車両を制御できず、前が上がってしまいます。

研修9回目の三宅貫太さん(22)は方向転換しようとしますが、動きません。簡単そうに見える操作も、かなりの技術が必要です。

約8割が引き手になれず、やめていく

研修中に、およそ8割が引き手になれずにやめていくといいます。

そんな中、彼らが目指す人力車ドリーム。ナゼ「高収入」が可能なのでしょうか?

こちらの人力車の料金は、2人乗車の場合10分5000円、60分なら2万円です。コースは客の予算や希望時間に合わせて、引き手が提案して決定。浅草を紹介し、客に楽しんでもらいます。

この会社の引き手の基本は時給制。キャリアにより1時間1300円から4000円です。

「東京力車」引き手2年目
新井里穂さん(20)

「だいたい一日1万円ぐらいの計算。人によって歩合とかが変わってくるので、頑張れば頑張るほどって感じだと思います」

実はこの会社では、モチベーション向上のため、様々なボーナス制度を充実。1日の売り上げ目標を超えると、賞金や歩合が増加し、さらに月の勤務日数によるボーナスもあります。トップクラスになると…。

新井さん
「(月収トップは)原田さんかなって思います。月に100万円とかはある」 「月100万円」を稼ぐというのが、原田優一郎さん(21)

「月100万円」を稼ぐというのが、原田優一郎さん(21)。高校を卒業後、2年ほど引き手をしています。

最高月収の明細を見せてもらうと、なんと127万円です。

「月収100万円超え」という人力車の技とは、どんなものなのでしょうか?

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■月収100万円を稼ぐ…“原田流人力車”の秘密

■月収100万円を稼ぐ…“原田流人力車”の秘密

多い日には20キロメートル以上を駆け抜ける

車体は、およそ90キロ。2名が乗車すると重量は250キロほどにもなります。最高時速はおよそ20キロで、多い日には20キロメートル以上を駆け抜けます。月収100万円を稼ぐ原田流人力車の秘密とは!?

5カ国語を使いこなす原田さん

流暢(りゅうちょう)な英語、中国語、韓国語、他にもインドネシア語など、なんと5カ国語を使いこなします。

原田さん
「もともと浅草に来た時は、ハローとイエスしか言えなくて。お客様に英語教えてって言って、子どもが教えてもらうように教えてもらった結果、海外の方に日本人の英語じゃないねって言われます」 人気のヒミツは、操縦術による「抜群の乗り心地」

そして、やはり人気のヒミツは、操縦術による「抜群の乗り心地」です。

アメリカから来た客
「とても良い走りだよ。最高のドライバーだね」

スタッフも乗車してみました。

原田さん
「(Q.コツみたいのもあるんですか?自分なりの)肩の動き。(衝撃を)吸い込むように運転することで、運転のしやすさ、安定感だったり。マンホールは踏まないように意識してます。こういうマンホールだったら車輪と車輪の真ん中で行くような感じ」 座席のペットボトルは、倒れなかった

どれだけ揺れないか、座席にペットボトルを立てて運転してもらうことに。最初は恐る恐るでしたが、ペットボトルは倒れませんでした。

おもてなし力でリピーター獲得

続いてのヒミツが、「おもてなし力でリピーター獲得」です。

韓国から来た日本のアニメ好きの女性2人を乗せました。

原田さん
「ぼくも『鬼滅の刃』好きですよ」

「鬼滅の刃」が好きだと聞き、ルートを決定。

「鬼滅の刃」に関係する場所を案内 原田さん
「これは六区通りと言って、炭治郎(主人公)・鬼舞辻無惨(敵役)」
「あった場所!?えー。すごーい!」

「鬼滅の刃」に関係する場所を案内し、2人は大喜び。


「『鬼滅』のことも、ちゃんと教えてくれました」 原田さん
「浅草とゆかりのあるものは調べてあったんで」

休憩時間もスマホを使って、常に浅草の情報を仕入れてメモします。

原田さん
「今、七福神とか吉原の歴史について調べてた」

仕事終わりは、夜の浅草を歩き、新しいお店情報などもアップデート。さらに…。

客を喜ばせる話術
「写真撮っちゃお」 原田さん
「いっぱい撮って。全然、優ちゃんの後ろ姿とか残してもいいんで」
「えーめっちゃ撮っちゃう!かっこいい後ろ姿」 原田さん
「そう、かっこいいっしょ?後ろ姿っていうと、後ろ姿だけみたいになるから。ちゃんと表もかっこいいんでね」

客を喜ばせる話術と、とっておきの話題。


「30分が3分みたいに感じました。面白すぎて」 おもてなし力で…

このようなおもてなし力で、時間を延長するケースもあり、リピーターやファンも増加。月収100万円につながっているのです。

この日は6時間勤務で、原田さんの収入は2万円ほど。客が殺到した時は歩合と賞金などがさらに足され、1日最大7万円を稼いだこともあるそうです。

原田さんの夢

実は原田さん、夢があるといいます。

原田さん
「自分で会社設立したいなって考えてる。資金をためるために。興味あるのはアパレルだったりとか、ラテアートかけるのでカフェとかも」

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■一人前の引き手に…20歳女子大学生の挑戦

■一人前の引き手に…20歳女子大学生の挑戦

そんな夢と高収入も可能な人力車の世界を目指している一人が、3月に研修生となった大学生の島田萌加さん(20)です。

大学生の島田萌加さん(20) 島田さん
「新しいことやりたいなと思った時に、ちょうど旅行で浅草ではないんですけど、人力車に乗って『これだ!』と思って」

研修を卒業するには、20回から100回以上まで差が出るといいます。

うまくいけば卒業検定に進める大事な研修

島田さんは22回目。この日、うまくいけば卒業検定に進める大事な研修です。

研修担当
「一歩目は?下下!発進は(姿勢)下」

力が必要なスタート。姿勢の取り方がポイントです。

研修担当
「そう!そこで持ちかえる」 カーブでは大きく膨らんでしまう

何とか走らせていきますが、カーブでは大きく膨らんでしまいます。

研修担当
「(かじを)左にきりすぎや」

今度は車を意識し、左によりすぎてしまいます。苦戦したのが、左右の後ろを確認しながらまっすぐ走ることです。

研修担当
「見てから動く。今もう動いちゃってた。ラインは変えないでほしいのよ」

後ろを振り向く際に、人力車が左右にぶれてしまいます。

ちなみに引き手2年目の新井さんは、後ろを振り向っても、まったくぶれはありません。次第に焦りも出てくる島田さん。

島田さん
「あー!」 判断が遅れ、バランスを崩してしまった 研修担当
「停止線もあったじゃん。道路の状況も守ってもらわないと困るべ」

普段は余裕を持って止まれるはずが、判断が遅れ、バランスを崩してしまいます。

そして大通りでは、スピードを上げようと力んでしまい、前に傾き、かじ棒が地面に激突。島田さんは、大事な研修でミスを連発してしまいました。

島田さん「真っ白になっちゃう(人力車を)持つと」 島田さん
「真っ白になっちゃう(人力車を)持つと。なんでダメなのかって分からない状況が結構あって」 「東京力車」研修担当 雲雀史隆さん 「東京力車」研修担当
雲雀史隆さん(28)

「改善できないと、まあ卒検には無理だね、難しい。だって、また力でやっちゃって転んじゃいました。でんぐり返ししちゃいましたって、それがエンターテイナーですとはならないじゃん」

かつては人力車の引き手でもあった社長は、こう話します。

かつては人力車の引き手でもあった西尾社長 西尾社長
「俺も研修ね、24回目ぐらいまでかな。汗がドバドバ出てきて、こんなにきついの無理じゃないって、ずっと思ってたんだけど、ある日突然、こんな楽にできる瞬間があるんだって。多分、萌加もその瞬間って必ず訪れるから。あとは、やり続けるしかないと思う。絶対できる瞬間が来る」 島田さん
「はい」

一人前の引き手へ、その挑戦は続きます。

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