政府の今年の「骨太の方針」に、国と地方の基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス)を2025年度に黒字化するという目標が、復活しました。
PB25年度黒字化は、昨年、一昨年と、2年続けて骨太方針への明記が見送られていました。
自民党積極財政派の退潮
「骨太の方針」とは、経済財政諮問会議がまとめる、毎年の政府の経済財政運営の基本方針で、予算編成を始めとする今後の経済政策の根本という位置です。
PBを25年度に黒字化する目標は、財政再建の道筋の第一歩として、2018年の「骨太の方針」から掲げられていました。もちろん一度も達成されたことはありません。
財務省に近いとされた岸田政権誕生後の2022年、23年度には、自民党の積極財政派が「経済あっての財政だ」と強くこれをけん制。2年連続で目標明記が見送られた経緯があります。
骨太の文言は「これまでの財政健全化目標に取り組む」といったあいまいな表現に留まっていました。
それが今年になって目標明記復活となったのは、積極財政派が多い最大派閥の安倍派が、政治資金問題で大きなダメージを受け、解散に追い込まれたことが、大きく影響しました。
骨太方針をめぐって、岸田総理と対立劇を演じるのは「得策ではない」と、いわば矛を収めたと見られています。
25年PB黒字化達成の可能性も
もう1つの大きな理由は、ここに来て25年度PB黒字化の目標達成の可能性が、「なきしにもあらず」になってきたからです。
内閣府が1月にまとめた「中長期の経済財政に関する試算」によれば、高めの成長が実現したケースで、2025年度PBは対GDP比0.2%、額にして1.1兆円の赤字と、赤字額がわずかなところまで改善しています。
成長がベースラインのケースでも0.4%の赤字に留まっており、いずれの数字も2023年度の5%以上の赤字から、急速な改善です。
財政収支の急速な改善は、この2年間のインフレによって、名目成長率が想定以上に高くなり、それにほぼ連動する税収が大きく伸びているからに他なりません。
物価が上がれば消費税はダイレクトに増え、賃上げを通じて名目所得が上がれば、累進課税が適用される所得税はより大きく伸びるからです。
物価と賃金上昇の勢いが続けば、国と地方を合わせ1.1兆円という改善も、全く夢とは言えません。
焦点は新たな財政健全化計画に
しかし、PB25年黒字化目標が復活した最大の理由は、何と言っても、25年度がもう来年度だからです。
目標に明記しようが、曖昧にしようが、その答えは1年後には出ているわけで、論争としてはあまり意味がありません。
それよりも、2026年度以降の新たな財政健全化目標をどう設定するかに関心が集まります。
今後、中長期的な目標を、引き続きPB黒字化に置くのか、債務残高そのものの削減にまで踏み込むのか、今後の議論の大きな焦点になります。
PB黒字化は最初の第一歩に過ぎない
そもそもPB=プライマリーバランスとは、借金以外の収入で、借金の返済や利払い以外の支出を賄えるかどうかという指標です。
例えば、政府の今年度予算で言えば、予算規模113兆円のうち、国債発行による歳入が35兆円あり、その一方で国債の元利払いの歳出が27兆円あるので、政府予算のPBは8兆円もの赤字と言うことになります。
これがゼロになって、初めて国債の発行残高が横ばい、つまり増えない状況になるわけです。
骨太の目標は、国と地方を合わせたPBの黒字化ですから、先に述べたように、国単独の収支より黒字化が近い状態になっていますが、いずれにせよ、PB黒字化は、これ以上借金が増えない状態を作り出すだけで、借金の残高が減るわけではありません
財政健全化には息の長い取り組みが必要
重要なことは、長期的に財政健全化への取り組みを継続し、それが金融市場にも理解されることです。
異次元緩和の終結で金利ある世界に入った以上、長期金利や為替の動向には、「国への信認」がダイレクトに反映されと、考えるべきでしょう。
すでに円安に歯止めがかけられないという「危険な兆候」さえ、現に表れ始めています。
先進国で突出した財政赤字を持つ日本が、ひとたび市場の信を失えば、国民生活に深刻な影響が出かねません。
その一方で、無理な増税や急激な歳出カットで。辻褄合わせのように単年度で健全化を演出したところで、何の意味もありません。
財政収支が改善しても、成長しない経済になってしまえば、それこそ本末転倒です。
財政健全化への息の長い意志を持ちつつ、現実の経済状況を見ながら、成長を促す政策運営を行うという、当たり前の取り組みを、忍耐強く続ける以外、方法はありません。
「いくら国債発行しても問題なし」とか、「何が何でも財政再建」といった極論に流されない議論が必要に思えます。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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