特集は山あいの暮らしを支えるスーパーです。長野市信州新町に前身の鮮魚店から数えて70年以上になるスーパーがあります。人口減少に物価高と、厳しい経営環境の中、奮闘する女性社長と店の一日を取材しました。
■地域を支えるスーパー
国道19号線で長野市信州新町方面へ。
道沿いには「ジンギスカン」の看板がー。
ジンギスカンは信州新町の名物。
提供する店が点在していることから国道はジンギスカン街道とも呼ばれています。
信州新町の中心部、国道沿いにあるフレッシュトップ田中屋。
こちらも店独自のタレでつけたジンギスカンが名物です。他に総菜も充実しています。
篠ノ井から:
「ここは商品間違いないから。先々代からずっとお世話になってる」
地元の住民:
「ジンギスカンとかここにしかないものもありますし、こういう規模だから『これどういう味?』って聞くと『こういうのだよ』と話してくれて」
■父「店を継ぐのはお前だぞ」
客:
「ビールさぁ」
田中利加子社長:
「きのう、お届けに行ったんですけど…」
常連客と親し気に会話する女性。4代目の主、田中利加子社長(47)です。
フレッシュトップ田中屋・田中利加子社長:
「街の冷蔵庫として、皆さんに使ってもらい。ジンギスカンを買いに来てもらった外からの人も楽しんで買い物してもらえる店づくりを心掛けてやっています」
創業は1951年・昭和26年。元々は鮮魚店でしたが客の要望に応える形で1970年ごろ、日用品なども扱うスーパーに業態を変えました。
田中さんは3姉妹の長女。女子高を出た後、都内の短大に進学。3年間、アメリカに語学留学もしました。
帰国後は長野市の英会話教室で講師を務めていましたが、30歳のころ先代の父・晴彦さんが悪性リンパ腫を患い、52歳で亡くなりました。
フレッシュトップ田中屋・田中利加子社長:
「父があるとき『店を継ぐのはお前だぞ』ということを言ったんですね。継ぐ気なんかまったくなかったんですけど、いざ父が亡くなりました、といったときに遺言のように『お前がやるんだぞ』というのがずっと引っかかっていて」
ちょうどそのころ、国道の拡幅工事で店は移転を迫られていました。一時は店を閉じることも考えましたが、父の言葉が胸に響き2008年、田中さんが社長に就任。
以前の店の向かいに新たな店舗を構えました。前の店は、ジンギスカンや総菜を作る「加工場」として利用しています。
名物のジンギスカンを作っているところを見せてもらいました。
■店独自のタレ ジンギスカンが名物
肉はオーストラリア産とニュージーランド産のラムを使用。
こちらは店オリジナルのタレ。しょうゆベースで、ニンジン・タマネギ・ニンニク・ショウガ・レモン、肉を柔らかくするリンゴやキウイフルーツも入っています。
精肉担当:
「ムラを出さないように肉にしっかり混ざって浸透した方がいいので」
これを手作業で丁寧に肉に混ぜ、漬け込みます。
真空冷凍の品もありますが、40年間、ビニール袋に入れて販売するスタイルを続けています。
フレッシュトップ田中屋・田中利加子社長:
「野菜、果物をふんだんに使っているので、大人から子どもまで皆さんが量を食べられる、あっさりとした味付けを守ってやってきています」
店頭にはオリジナルと辛口(100g278円税別)に加え、八幡屋磯五郎、マルコメなどの県内企業とコラボしたジンギスカン5種類が並びます。ファンが多く、県外から足を運ぶ人もいて、全国発送もしています。
総菜コーナーには豚肉をジンギスカンのタレに漬けて焼いた豚ジンギスカン丼(580円税別)や手軽に食べてもらおうと、この春発売した「ジンギスまん」(1個500円税別)も。
地元の住民:
「うちでもフライパンで焼いて食べますよ。他のものは食べたことないんだけど、どんな特徴といわれても、けっこうおいしい」
店は簡易ジンギスカン鍋も扱っています。その鍋で人気のジンギスカンを買って、実際に食べてみました。
(記者リポート)
「やわらかい!あっさりとした味付けなんでけど、肉にしっかり味がしみてます。野菜と果物の甘みが感じられて、とてもおいしいです」
店は近年、地域食材を使った総菜の販売にも力を入れています。
こちらは、近くの豆腐店の豆腐を使った揚げ出しとステーキ。
信州新町産のワインや地元のそば店が作ったスイーツも並べています。
■大病を患ったことが転機に
こうした取り組みは、店の経営を見つめ直した結果です。2年前、大病を患ったことが「転機」になったといいます。
フレッシュトップ田中屋・田中利加子社長:
「一番のきっかけは私、病気したんですよ。おととし病気をして離れたんです、店を。そのとき外から見て、このままじゃいけないなって正直思ったんです。大きい店と同じ土俵には立てないなと。ちょうどその時に経営も厳しくなってきて、なんとか存続させていくために値段でなかなか大手と張り合えない分、うちの『個性』を伸ばそうと思って」
■大手の店にはない「個性」を
それまで、「敷かれたレールの上」を歩むだけだったという田中社長。まず考えたのが大手の店にはない「田中屋の個性」を出すこと。
田中利加子社長:
「昔メンチ(カツ)作ってたのを復活させようかなと」
従業員と意見を交わした結果、地域の商品を仕入れ、総菜は手作りにこだわって、種類を増やすことにしました。
客の大半がお年寄りということもあり、棚の一番上には商品を置かず、一段下げてみました。
さらにー
手書きのポップ。英会話の講師時代、子どもたちに絵を描いて教えていた経験が役立っているそうです。
田中利加子社長:
「うちにくると信州新町にはこういうものもある。こういう酒、ワイン、こういう商品もあるというので、ただのスーパーじゃないんですよ、ということを知ってほしい」
■「なくなっちゃダメ」と言われる店に
午後6時ー。
夕方になると総菜には「半額」のシールが貼られました。仕事帰りの人などで、この時間も多くの人が利用します。
地元の住民:
「弁当と総菜を、おいしいですね。いつもこのくらいの時間、仕事帰りで。小さい頃から親に連れられて来たりしているので親近感というか」
閉店直前まで品出しー。
午後7時。
田中社長の忙しい一日が終わりました。
現在の信州新町の住民は3345人(6月1日現在)。合併後の14年で2000人近く減りました。65歳以上の高齢者の割合は55%を超えています。
人口減少、高齢化、さらには物価高と経営環境は厳しさを増していますが、田中社長は前向きです。
フレッシュトップ田中屋・田中利加子社長:
「『お、面白いな』と思ってもらえるお店づくりをしていきたいのと『田中屋さんはなくなっちゃダメだよ』ってよく言われるんですけど、昔からずっと来ていただく方がいる限り、少しでも利便性の上がる店であればいいな」
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