歯止めの効かない円安と物価高騰が国民生活を脅かしている日本…。

“経済政策に打ち出の小槌はない”と言われる中、政府・日本銀行は“円安を受け入れ続ける”か“長期金利を引き上げる”か究極の選択を強いられている。しかし今、急激に金利を上げれば債務超過、つまり日本を企業に例えるなら倒産の可能性もある。何しろ日本の借金(国債の発行残高)は1200兆円を超えている。金利政府の総債務残高のGDP比は252%でスーダンに次いで世界で二番目悪い。つまり借金(国債)で保っているわけで、金利が上がれば利息の支払いだけで膨大な支出となる。

結局“国が倒産するより円高容認の方がマシ”となれば、1ドル200円なんて時代が来ないとも限らない。そこで今回は怖い未来を想像してみた…。

「今月に入って牛肉は献立から消えた」

円安が進めば物価はさらに高騰し、ひいては国力の低下にもつながるのだが、未来の話をするまでもなく既に円安の影響は各所で深刻な事態を招いている。その1例として、ある小学校を訪ねた。

宮城県富谷市の成田小学校を給食の時間に訪問した。この日の献立は“鳥そぼろ丼”“ブロッコリーのおかか和え”“豚汁”そして牛乳だ。給食の予算は1食300円。円安の中、給食担当者は知恵を絞っていた…。

富谷市学校給食センター 高橋佐恵 栄養教諭
「(そぼろの)ひき肉もむね肉ともも肉を混ぜて使用しています。やはりむね肉の方が安価で、食味的にはもも肉の方が美味しくできると思うんですが、むね肉を混ぜることで価格を抑えるという工夫をしています」

豚汁では肉を減らし、豆腐を増やすことで蛋白質を減らさずに価格を抑えるなどして1食あたり14円節約した。輸入飼料の高騰でもともと肉の価格が値上がりしているところに円安が輪をかけた。今月に入って牛肉は献立から消えたという。

富谷市学校給食センター 高橋佐恵 栄養教諭
「(牛乳は)6円近く値上がりしています。1食単価の中で(欠かせない)牛乳の占める割合が増えるとおかずを少し節約する必要が出てくる…。このまま食材の値上がりが続けば、子どもの健康状態に影響を及ぼすのではないかと懸念しています」

続いて話を聞いたのは、夏の風物詩・打ち上げ花火の製造元だ。
花火の火薬は殆ど海外から入れてるが、実はウクライナ戦争以来火薬の価格は高騰していた。そこに円安が追い打ちをかけた…。

山崎煙火製造所 山崎智弘 代表取締役社長
「我々輸入するにあたってはダブルパンチですよ。(火薬の原料価格が15~25%上がった)ここまで値上がっちゃったら(主催者側が)『花火大会じゃなくて違うことやった方がいいよね』っていう考えも出てくる…。全国的に見て今までより規模縮小だったり…、花火大会は存続の危機になっている…」

子どもたちの食事、日本の風物詩に影響を与え始めた円安。他にも例はあった…。

オレンジ果汁は4年前1リットルあたり259円だった輸入価格が656円に跳ね上がり、メーカーによっては在庫が無くなり次第販売を休止することに決めた。

また日本の家電メーカーでありながら“海外で作って日本に輸出する”ビジネスモデルで大ヒットした『バルミューダ』は、円安で日本では高額になってしまうため、海外での販売を強化していくという。日本が誇る数少ないヒット商品が日本で手に入らなくなるのか…。経済評論家の加谷珪一氏は、日本の政府と日銀はこれまで、金利を上げるのか円安を甘受するのかしかない2つの道のうち、金利を上昇させないために円安を選んできたので、この苦しみはまだ序章に過ぎないという。

経済評論家 加谷珪一氏
「今回取材した給食はまだ美味しそうでしたが、、地域によっては単価の中で賄いきれなくて量を著しく減らしていて、給食ひとつでは全然おなか一杯にならないというケースが出てきている。給食は子どもにとってとても大事なものなのに。(中略)オレンジもですがコーヒーも値上がり、品不足…。とにかく色んなものがなくなって、おそらく日本人の食生活これから激変するのではないかと…」

150円台でこれほど各所に影響が出ている円安。もしも1ドル200円になったら…。末恐ろしいが、あり得ない世界では決してないようだ。

「大増税と大幅な歳出削減は今まで財政破綻した国はどこも経験している」

終戦からおよそ半年の1946年2月17日。朝日新聞の1面に『預金引き出し制限』の見出しが躍った。その下には『今日から預金封鎖 解除は財産税徴収後』とあり、社説には『危機克服に協力せよ』とあった。

つまり、財政難だから国民は私財を惜しまず協力しろということだ。戦時中ではない、戦後実際にあった施策だ。しかし、この当時より今の日本は財政的に危ないという。実は日本の財政が破綻した場合の対処を研究しているところがある。話を聞いた…。

本来あるべき財政再建に向けたプランAが政治の障壁によって実現できないので、仕方なく財政危機の被害を最小限にすべくプランBを研究しているという…。

東京財団政策研究所 加藤創太 研究主幹
「(日銀の国債保有率が50%を超える日本が財政危機に陥るとすれば)おそらく長期金利が暴騰する、あるいは円が暴落する。…そしてハイパーインフレが生じ…。それくらいを想定しています(中略~長期金利の暴騰で)まず国の予算が枯渇してきますね。公共サービスもどんどん減ってしまう。円安が進むとも国民も窮乏します。物価がめちゃくちゃ上りハイパーインフレになります、そうすれば国民生活が行き詰まる…。年金生活者の年収ってのは実質的に大きく目減りする…。」

そうなった場合政府はどんな手を打ってくるのだろうか…。

東京財団政策研究所 加藤創太 研究主幹
大増税と大幅な歳出削減は今まで財政破綻した国はどこも経験していること。そういう時の大増税とか大きな歳出削減は絶対に経済に負の影響を与える」

戦後の日本では預金封鎖と財産税が実施された。預金封鎖は銀行から引き落とせる金額が制限されるもの。財産税は預金・株式・土地など保有資産に25%から最大90%の税率を課した。

東京財団政策研究所 加藤創太 研究主幹
「預金封鎖と財産差し押さえとなると必ず法的根拠が必要になりますので、たぶん新しい法律が必要になる可能性がある…」

戦後実施された財産税については、憲法上あり得ないというのは時事通信社でニューヨーク総局長、解説委員長を歴任した後、現在帝京大学の教授でもあるジャーナリスト、軽部謙介氏だ。

ジャーナリスト 軽部謙介 帝京大教授
財産税は憲法に保障された財産権の侵害だと言える(中略)改正日銀法を内内で検討する時に、何故日銀は金融引き締めをするのかという時に、それはインフレを防ぐためだと。じゃあ、何故インフレを防ぐのかというと、憲法論的に言えばインフレは国民の財産権を侵害する…ということで日銀の役割は大きいと…」

1946年は新憲法発布前だったのでできたが、今財産税を課すなら憲法改正が必要になるという考えだ。それにしても、そもそも政治の障壁でプランAが進まないから云々という出だしが間違っているのではないだろうか?元日産COO志賀俊之氏は言う。

元日産COO 志賀俊之氏
「とにかく借金減らさないと…。一番大きいのは生活に対する将来不安がある。すると消費意を抑えてしまう。せっかく賃金を上げて、インフレを2%にしても消費が伸びなければまたデフレに戻ってしまう。…借金を減らすって政府がしっかりやっていく必要がある」

「国債を大量に発行してインフレにするのは超スーパー大増税

1ドルが200円とは言わないまでも、円安の元インフレが続くと銀行に預金している国民は大損することになる。ただ物価が2倍になれば、今ある国の借金の相対的な量が二分の一にもなる。この10年国債を買い続け市場に金を回すことに躍起になり財政再建に目をつぶり続けた国の無作為はそれを狙っているのではないか…と疑いたくもなる。戦後まもなくに取った政策、銀行に置いていた財産に9割の税をかけるのと同じことになりかねないと加谷氏は警鐘を鳴らした。

経済評論家 加谷珪一氏
「物価が数年で2倍になれば事実上、私たちの預金の半分に税金をかけて政府債務の穴埋めをしたことと同じになる。国債を大量に発行してインフレにするのは超スーパー大増税。私たちの預金を奪うことになる。でも多くの国民はそれに気づかない」

(BS-TBS『報道1930』6月17日放送より)

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