大ヒットとなったジブリ映画『君たちはどう生きるか』やドラマ『VIVANT』。この2作品には共通する「PR戦略」があります。それは“情報小出しのじらし”。さらに、最近は“古くて新しい”バズる広告手法も増加。街で一度は目にしたことがある「OOH」って知っていますか?

大谷さんから巨大力士まで!「OOH」が街をジャック

「いかに話題になるものを、街中で展開するかが一つのポイント」

こう話すのは、広告マーケティングの専門誌『宣伝会議』の女性編集長・谷口優さん。1954年の創刊以来、世界中の広告の最先端を紹介してきた専門誌が、今注目するPR方法が2つあるといいます。

月刊『宣伝会議』谷口編集長
「1つは、“古くて新しい”『OOH』という広告。デジタル化が浸透する中で、逆に注目されている」

取材したTHE TIME,・マーケティング部、原千晶部員は「OOH??DIGOさんの“押して押してヒットする”、みたいな感じ?」と全く聞きなれない言葉に困惑気味でしたが、正解は、「Out of Home」の略。

文字通り「家の外」、つまり街中の広告や電車内広告などの総称で、コロナが落ち着き、外出が増えるとともに、「OOH」広告の効果がアップ。以前にもまして注目されるようになったといいます。

例えば、最近東京・渋谷に現れた、米大リーグ・ドジャース、大谷翔平選手の大型看板。商品名にひっかけた「お~いオオタニサン!」のフレーズや、白Tシャツの大谷選手が茶畑にたたずむ巨大看板に思わず足をとめて見つめる人が続出しました。

月刊『宣伝会議』谷口編集長
「OOHは、その瞬間その場所じゃないと見られないものなので、すごく希少価値が高い。見た人はSNSで拡散したり友達に伝えたくなる」

人気アニメ『幽☆遊☆白書』の実写版PRでは、ビルに映った主人公が、反対側のビルにビームを放ち、「リアル霊丸(※主人公の必殺技)が出た」と話題に。

相撲ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』のPRでは、両国駅のホームに、全長約25mの巨大力士が横たわるモニュメントが登場。これも写真を撮る人続出でSNSで話題になるなど、思わず「人に見せたくなる」インパクト広告は、写真で共有する今の時代、宣伝効果は絶大だといいます。

「新宿の3D猫」から日本でも拡散!「DOOH」

さらに“体験型”のOOHも!それは、「話すビル」。

新宿にある屋外ビジョン「LIVE BOARDビジョン」に、そのビルの窓や壁が顔のように出現し、マイクを通してビルに質問すると、まるでビルが話しているかのように答えてくれるというもの。

ChatGPTを活用したこのシステムは、海外の2024年「OOHアワード」でグランプリを獲得しました。

デジタル化した屋外広告は、「DOOH(Digital Out of Home)」と呼ばれ、世界的にも注目されていますが、日本でもその先駆けとなったのが、あの“リアル巨大猫”!

2021年に、新宿東口の巨大ビジョンに登場した“3Dの巨大猫”は、飛び出してきそうな立体感が「リアルすぎる」と大バズり。以来「飛び出す系のDOOH」が各所で見られるようになったといいます。

渋谷の犬・ハチ公に対抗して、“新宿の猫”にしたというこのDOOH。制作チームに話を聞くと、“とてつもなく緻密な作業が必要だった”と話します。

studioBLT CGスーパーバイザー 青山寛和さん
「猫の毛1本1本が生えているというか、すごく近寄っても1本1本毛が見える感じに作られている」

猫の毛を1本1本作っただけでなく、猫の柔軟な動きを再現するため、猫をイチから研究して骨格を作り、筋肉をつけていったといいます。

さらに、猫の動きにもこだわりが!

studioBLT CGスーパーバイザー 青山寛和さん
「猫だったら、このタイミングでこう動くだろうなとか、こういう気持ちでやるんだろうなと、猫の気持ちになって考えながら作った」

現在、新バージョン「モノを落とす猫」を制作中で、8月から放映予定とのことです。

ヒットのカギは絶妙な「情報小出し戦略」

そして、専門誌が今注目するPR方法、2つ目は「ティザー」。

「ティザー」とは、「焦らす」という意味で、敢えて情報を隠し、ちょっとずつチラ見せして期待感をあおるというもの。

ドラマ『VIVANT』や映画『君たちはどう生きるか』、さらに世界7か国以上で公開された映画版スラムダンク『THE FIRST SLAM DUNK』などの大ヒット作品を生み出した広告手法です。

月刊『宣伝会議』谷口編集長
「情報が溢れ、若い人はタイパも重視し、自分に関係ない情報はどんどんスルーしないと生きていけない時代に、期待感の醸成は難しい。でもそこでうまく成立させるとヒットにつながる」

「ティザー」広告を成功させるカギは、絶妙な“情報小出し”戦略。

キリンビールでは、新商品の発売2週間前から「名前もわからない」「パッケージも見せない」広告を展開し、過去15年間で最高売り上げ(※ビール類新商品)を記録する大ヒット商品『晴れ風』を生み出しました。

CMでは商品名を完全に隠すわけではなく、出演するタレントの背後に、文字のほんの一部分が見えるように映し出す。これが想像をかきたて、SNSでは「名前予想合戦」になるなど大盛り上がり!答えが知りたい空気ができたところで大々的に会見を開いて発表したのです。

しかし、この「ティザー広告」には、大きなリスクもあるといいます。

月刊『宣伝会議』谷口編集長
「すごく期待をあおっただけに、商品の満足度が低いと、ネガティブなブーメラン効果が発生する危険性はある」

情報を隠したものの、全く話題にならない可能性もあるので、キリンビール・マーケティング部の向井優夏さんも「これでコケたら…もう会社行けない」と不安だったと話しますが、今のところは大ヒット!「まだまだこれからです」と、更なる戦略に目を向けていました。

「買うだけで社会貢献できちゃう」PR戦略も

スタジオでは、ヒットの仕掛けをもう1つ紹介した。商品を買うと売り上げの一部が環境保護や社会奉仕活動などに寄付される「コーズ・リレーティッド・マーケティング」。これは企業としての社会貢献だけでなく、売上増やイメージアップが期待される戦略。

例えば…

▼KIRIN「晴れ風」
⇒「お花見」や「花火」などの日本の風物詩を守る活動に寄付
⇒1缶(350ml)につき0.5円

▼森永製菓「DARS」「ミルクココア」などの対象の商品
⇒カカオ豆生産国の子どもを守る活動に寄付
⇒1商品1円
(※1年のうち約1か月実施)

▼シチズン 女性用時計「クロスシー」
⇒途上国の女子や女性支援に売上の一部を寄付

杉山真也アナや宇賀神メグアナは「知らなかった」と話し、「買ってみようかな」と早くも購買意欲を刺激されていた。

(THE TIME, 2024年6月14日放送より)

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