地球温暖化による海水温の上昇などでサンマの不漁が続く中、物価高の影響でゲソ(イカ)の値段も前年に比べて約10%アップするなど、海産物の高騰が止まらない。
国際的な需要も増す中、日本の水産資源の今後の見通しはどうなっているのか。近畿大学の有路昌彦教授に聞いた。
「不漁」と「相場の高騰」
ーーなぜ海産物は値上がりしている?
1つは「不漁」です。海水温の上昇などといった海洋環境の変化によって、日本近海に回遊する魚の量が減っています。サンマや白鮭など日本近海で多く捕れていた魚の分布が変わり、漁場が沖合化しているため、水揚げ量が減少しています。
2つ目は、「相場の高騰」です。海外から輸入している魚が半分ぐらいを占めていますが、国際的な相場の影響で大変値上がりしている状況です。
ーー最も打撃を受けている魚は?
サンマの漁獲量は大きく減っていて、今年も厳しいのではないかと思います。また、北海道の重要な漁獲対象資源である白鮭も回遊量が減り、深刻な状態です。
さらに、スルメイカも獲れなくなっていて値段が上がっています。ウニやナマコといった「磯根資源」も、磯焼けといって温暖化の影響で餌となる海藻があまり育たなくなった関係で獲れなくなっています。ウニは獲れても中身が空っぽといったことも起きています。
餌代は2倍、原油価格も高騰
環境変動による不漁に加えて、「餌代」や「原油価格」の高騰も打撃となり、海産物の値段は今後も上がり続けるとみられている。
ーー他に考えられる高騰の原因は?
大きく2つあって、1つは「餌代」です。日本の養殖業も漁業も資材を海外から輸入しているため、養殖用の餌代はこの数年間で2倍になっています。養殖業の費用は餌代が大部分を占めているので、当然、魚の値段を上げないと生産を続けることはできません。
2つ目は「原油価格」です。漁船は重油を使っているため原油価格の高騰は大打撃です。需給のひっ迫もありますが、日本の場合はやはり為替相場が円安に向いているので非常に厳しい状況です。
ーー今後も魚介類の高騰は続く?
漁獲量に関しては、地球レベルの環境変動を簡単に戻すことはできませんし、魚の分布は一旦変わってしまうとおそらくそれが定着してしまうので、影響は長期化が予想されます。
餌代や原油価格など資材については為替相場が影響していますが、今の日本経済と海外のインフレ傾向を比較しても円相場が大きく変わる材料は見当たらないので、円安の厳しい状況は続くと思います。
さらに輸入食材も、国際的な需要がますます拡大する傾向にあるので、値下がりする要素は見つかりません。これは魚に限らず食材全般に言えることだと思います。
海産物は希少なものに
こうした中、国内での魚の「物流費用」も値上がりしているため、価格上昇の波は長期間に渡って続くと有路教授は指摘する。
ーー「物流の2024年問題」も影響?
これまで日本国内の魚の物流は、「市場便」(市場と市場、産地と市場間を輸送する専用の便)という世界で最も安い物流方法で回っていましたが、「物流の2024年問題」(2024年4月1日以降、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限されることにより発生する諸問題)でこの物流事情も変わり、かなりコストが上がりました。
今まで1キロ当たり約100円で届いていたものが150~200円かかるようになり、物流コストの上昇は販売価格に反映されるため、刺身は100グラム当たり30~40円ほどの値上がりとなっています。
ーー食卓を直撃ですね?
日本人が大好きなサーモンはほとんど海外から輸入していますが、3~4年前は1キロ1000円しなかったのが今は1400~1500円します。そのため回転寿司も値上がりせざるを得なかったし、スーパーマーケットの価格も上がっています。
こうした価格上昇の傾向は長期化が見込まれ、海産物は希少なものになっていくと思われます。
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