春は出会いの季節。新しい生活、新しい職場や学校などで、人間関係が変化し、新しい出会いのチャンスも数多く……というのは多くの人にとっての定番のイメージだ。しかしそんな出会いにパフォーマンスが求められるとしたら、どうだろうか。そもそも、出会いのパフォーマンスとはいったい何か。
新たな○○パである「マチパ」
「コスパ」(コストパフォーマンス)、「タイパ」(タイムパフォーマンス)という言葉が頻繁に聞かれるようになって久しい。支払うお金や費やす時間に対して、効率的なリターンを得られるかどうか、という意味合いで使われている。
しかしZ世代たる大学生に話を聞くと、メディアで流通する「○○パ」には違和感があるそうだ。
彼らに言わせると、オジさんたちは効率性ばかりに着目しているが、それは自分たちの感覚にフィットしていないという。パフォーマンスの中身には、感情、例えば「満足度」や「感動」といった尺度が含まれており、単なる効率性を高めても意味がない、と言い放つ。
日本のマッチングアプリ最大手のPairs(ペアーズ)を取材すると、新たな○○パである「マチパ」という言葉が使われていた。マッチングアプリだけに、マッチングのパフォーマンスという尺度だ。しかも、ペアーズは、利用者世代の心の機微を感じ取り、AIを駆使してマチパを高めていた。
マッチングアプリの重要性が大きくなっている
マッチングアプリは、諸外国では5割の人が使っているが、日本では17%とまだまだ認知度が低い。(Match Group調査、2022年)
日本ではマッチングアプリによる出会いは、アメリカやイギリスに比べて低いレベルに留まり、抵抗感が強い(画像:ペアーズ)しかし、少子化による人口減少の根っこにある未婚率の上昇が問題となっている日本において、マッチングアプリの重要性は意外なほど大きくなっていた。
結婚に目を向けると、日本においては4人に1人がマッチングアプリがきっかけとなっており、全体の10人に1人がペアーズがきっかけとなった結婚だった(画像:ペアーズ)2023年、マッチングアプリで出会って結婚した人は実に婚姻数の32.7%に上っている。全体の約10%がペアーズがきっかけで結婚したカップルだったそうだ。既に友人からの紹介や自然な出会いよりも、有力な出会いの方法になっているのだ(株式会社エウレカが調査企画をし、株式会社インテージ調べ、2023年10月)。
ここで、先ほどご紹介した「マチパ」(マッチングパフォーマンス)が出てくる。
マチパに効率性だけを求めると、「いかにたくさんの人と出会うか」が焦点になる。しかし、そもそも実際に付き合うのは1人だし、候補が多すぎても困ってしまうのが現実だ。
利用者の声をペアーズが調べると、「相手が多すぎて選べない」「スペックや条件で選んだがミスマッチだった」「会ってみたらイメージと違った」という声が上がるという。
マッチングアプリは、単に誰か相手を見つけられることではなく、ぴったりな相手とのマッチング性能の向上に、ユーザーの期待が高まっているのだ。
消費者のAIレコメンドに対する期待の高まり
ペアーズのデータ戦略を統括する奥村純氏。顧客の本質的な価値をAIで作り出すための開発をしている(写真:ペアーズ)ペアーズでデータディレクターを務め、マチパ向上に努めているのが奥村純さん。
京都大学で博士号を取り、インターネット事業会社でAI開発に携わった後、2019年からペアーズを運営する株式会社エウレカに入社。2023年からデータディレクターとして、ペアーズのデータ戦略を統括する人物だ。
「ペアーズのAIは、国内の専任チームによって行われています。
親会社で世界規模でマッチングアプリを展開するMatch GroupのAI原則(真正性、公平性、説明可能性、説明責任、安全性、プライバシー、誠実性)に則り、お客様の『本質的な価値』に向き合う開発をしています」
AIマッチングはまだまだ事例が少ないのが実際で、研究開発の最中だという。またグローバルなMatch Groupのブランドやアプリ間での情報交換も盛んだという。
「これまでマッチングでは、自分の好みで選ぶ行動が重視されてきました。しかし昨今の消費行動やトレンドの変化を見ていくと、アルゴリズムの精度向上や、レコメンドの的確さにニーズが集まってきています。
TikTokやYouTubeのように、プラットフォームから提供されたものを取り入れる消費行動が増えており、だからこそ、レコメンドの的確さが重視されるのです」
どれだけ「いいね」をもらうか
AIによるレコメンデーションは、その人の好みがいかに的確に反映されているかが重要になっている。興味のないものをたくさん紹介されても、満足感が下がるだけになってしまう。
奥村さんは、特にマッチングアプリでは、シビアな反応が見いだせるという。
「ペアーズでは、長年の試行錯誤の経験から、マッチングの件数ではなく、『質』に注目する必要性があると発見しました。
マッチングは『いいね!』の送信から始まるので、シンプルに考えると、どれだけ『いいね』をもらうかによって、マッチングがしやすくなるかと考えると思います。
しかし『いいね』が多く集まったとしても、それが質の低いマッチングでは、『メッセージのやりとりが続かない』(=ケミストリーが一致しない)という如実な結果がもたらされます。
マッチングのしやすさの先にある、マッチングの質をAIで追求することで、より関係が長く続き、結婚に結びつく人とのマッチングを作り出そうと考えました」
マッチングの質をいかにAIで発見するか
(画像:ペアーズ)では、マッチングの質は、AIでどのように作り出されるのか。奥村さんはペアーズを使っていく中で、「自分の好みの言語化」という行動変容を起こすことで、マッチングの質の根本的な向上と、レコメンドの確度の高さを作り出そうとしています。
「消費行動は日々の買い物でモノの良しあしや自分の好みを判断するための、十分な経験が蓄積されます。しかし恋愛は、そもそも経験できる交際経験が消費行動よりも少ないので、自分の好みをはっきり自覚するほどの判断軸が、蓄積されない可能性に気づきました。
かつ、普遍的に、こういう男性とこういう女性の相性が良いという定番パターンのようなものもあまり意味のある結果にはつながりません。やはり恋愛は個別な体験で、分布の平均値や流行だけ見ていると、多くの人は見誤ることになります」
そこでAIがユーザー1人ひとりを詳しく知ることが重要になってくる。どういう人なのか、どんな好みなのか、行動パターン、価値観、良いと思う人柄などを、ユーザーに言語化を伴いながら、教えてもらう。
そのうえで、お互いの情報がスレ違わない相手同士をオススメしてマッチングする。ペアーズのAIマッチングでは、このようなことが気遣われているのだ。その精度を高めるためには、ペアーズ上でたくさん行動すること。AIに自分のことをよく知ってもらうことが、ミスマッチを防ぐ手立てになっている。
長大なカスタマージャーニー
ペアーズを通じて結婚した人(ペアーズ婚)は、日本の2023年の婚姻の約10%を占める、重要な結婚相手との出会いの手段に成長している。
ペアーズは、マッチするカップルの数ではなく、成婚率を重視している。100件マッチしても、付き合うのは1人で、結婚するのも1人であることから、マッチ数が多いことに価値がないのだ。だからこそ、マチパでマッチングの質を追求する戦略になる。
顧客がサービスを知り、使い始める過程を描くビジネスフレームワーク「カスタマージャーニー」は、現在多くのサービスの開発やプロモーションに用いられている。
ペアーズでは、結婚してサービスを使い終わるところまでが、カスタマージャーニーとして描かれているという。これは、カスタマージャーニーとしては非常に長期間にわたるもので、まだまだ変数となる要素は多い。
そんなジャーニーの出発点にある出会い。ペアーズにとって、交際につながるマッチを考えることこそ価値がある、と奥村さんは語る。
「100人とマッチするには、その何倍もの数の『いいね』を送っていて、時間も労力も、ストレスもかかってしまいます。結果的に1人とお付き合いするわけで、1人に『いいね』を送って、その人と交際、さらには結婚できるなら、それが最高のユーザー体験、というわけです。
マッチしたカップルが『1つ』増えることの価値にこだわって、ペアーズはAI開発に取り組んでいきたい、と考えています」
進まない状況を打開する「アシスト」
しかしとにかく奥手な現代の日本人。4割の男女にデート経験がなく、相手が前向きかわからず、デートに誘っていいかどうか二の足を踏むという。マッチしても関係が進まない状況を打開するための取り組みもある。
デートの意向(会ってみたい、通話してみたい、誘われたら会ってみたい)を選んでおき、両者が一致しているときだけ表示される「おさそいアシスト」機能が実装されている。
いうなれば、学校の教室で2人の間を取り持つ、ちょっとお節介なクラスメイトみたいな役割も、マッチングアプリが担っているのだ。
他方、AIは、不正利用や安全対策にも活用されており、目的外の利用者は高い精度で発見し、排除できるという。また、安全に利用するためのハンドブックを制作し、自治体や大学、消費者センターを通じて提供している。
ペアーズが取り組むマッチングAIと質的向上を指す「マチパ」の存在は、AIの介在がない過去の出会いに不安を感じるとともに、「マチパ」を追求するアプリを味方につけられる世代にうらやましさを感じるのだ。
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