気温が高すぎて悲鳴を上げているのは人間だけじゃない?日本一のお米、コシヒカリがピンチに!
農家:米も人間もそうです。これだけ暑いと耐えられへん。精米しても、つぶれてしまう。
一体何が…。そして、この状況を打破する秘策とは?
■国内の作付割合で44年間1位の「コシヒカリ」
この記事の画像(12枚)おいしいお米の代名詞ともいわれる「コシヒカリ」。今年も関西の各地で、田植えが進んでいる。
和歌山の農家:おいしいです。慣れたら栽培しやすいです。今まで何種類か変えてみて、やっぱり落ち着くのがコシヒカリです。
今、日本の米の作付の3割を超えているコシヒカリ。2位のひとめぼれ以下を大きく引きはなし、44年間、堂々の一位。
関西有数の米どころとして知られる京都の丹後地方、与謝野町でも…。
京都・与謝野町の農家 小谷安博さん:丹後のコシヒカリを植えます。コシヒカリの苗。しっかり根が張っとるのが適期(適した時期)に植える苗。
丹後のコシヒカリは、見た目や味、食感などを総合審査し、5段階で評価する「食味ランキング」で最高評価の「特A」の常連だった。しかし、2014年を最後に「特A」は取れていない。
京都・与謝野町の農家 小谷安博さん:何とかして特Aを取りたいんだけど、いかんせん、温暖化が進んどるんで。
温暖化によって、コシヒカリに一体何が起きているのか。
■米作り名人も苦戦 しかし「やめることはない」
1956年に誕生したコシヒカリ。味の良さ、育てやすさから各地に広まり、「米の王様」とまで言われるようになった。
しかし開発から60年以上がたった今、日本の気候は大きく変化した。
コシヒカリにとって重要な8月の平均気温が、およそ3度上がっている。この暑さにコシヒカリは耐えられないのだ。
京都府知事賞を受賞するなど、米作り名人の小谷安博さんですら、苦戦を強いられている。
去年収穫したコシヒカリの玄米を、精米し、選別機にかけてみると…。
京都・与謝野町の農家 小谷安博さん:乳白粒(白く濁ったもの)と茶米が出てきた。(商品からは)はねている。こんな米粒がごはんの中に入っていると困るので、機械で抜いている。
一般的にお米は、暑すぎるとでんぷんが十分に行きわたらない。割れてしまったり、白く濁ったり、茶色くなるなど、品質の落ちた米粒が増えてしまう。
京都・与謝野町の農家 小谷安博さん:胴割れが5.6%ということで、これは高いです。温暖化のせいで温度が上がりすぎる。食味(の評価)はSですけど、外観はA。総合評価はA。今はこれが精いっぱいの評価。
味はおいしくても、見た目が影響して、高評価を取るのが難しくなっている。
京都府丹後農業改良普及センター 大砂古俊之さん:それほど力を入れていない方でもある程度は上手に作れて、収量も高かった。今はかなり上手な方でも苦戦して、収量も等級も落ちている。以前よりは工夫しないとおいしい米にはならない。
与謝野町は、他の産地のコシヒカリと差別化するため、ブランド戦略を進めてきた。
町が肥料工場を設立し、「いわし・おから」などを使った独自の肥料を開発。すでに町をあげて、味への努力は尽くしているのだ。
Q.コシヒカリをやめるという選択肢は?
京都・与謝野町の農家 小谷安博さん:やめることはないと思う。われわれはコシヒカリで育ったので、コシヒカリの味に慣れているので、コシヒカリがないと困る。苗は一緒なので、土作りとかして、根がしっかり張れるようにするしかないんじゃないですか。天候を変えるわけにはいかない。水だって川から流れてくる水だし。今年もいい米ができたらいいなと思います。
■暑さに強い「みずかがみ」が最高評価を獲得
暑さで収穫量が減ったことは、消費者にも影響している。
スーパーに訪れた客:ちょっと安いお米を(買いたい)。
Q.いくらくらいの米を買うのですか?
スーパーに訪れた客:(5キロ)2000円ちょっとから、3000円。
選んだのは、魚沼産のコシヒカリ。
Q.コシヒカリのイメージは?
スーパーに訪れた客:ふっくらしてて、おいしい。
よく見ると、お米売り場には、ある注意書きが貼られている。
ライフ 加工食品課 山下力童チーフバイヤー:いつもコシヒカリを召し上がられているお客さまから『白い粒が多い』という問い合わせを非常にいただいていますので、『白く濁った米が入っています』とお客さまに告知しています。
スーパー「ライフ」のお米の売り上げの48%を占めるのがコシヒカリ。それが…。
ライフ 加工食品課 山下力童チーフバイヤー:暑かったことで、お米の流通量が減っています。特にコシヒカリは非常に影響を受けていますので。大体(2キロで)100円~200円程度の値上げをしています。
一方で、売り場に増えているのは「高温耐性品種」と呼ばれる、暑さに強い品種。コシヒカリに追いつけ、追い越せと、全国各地で開発競争が起きている。
関西でいち早く、その道を切り開いたのが滋賀県の「みずかがみ」だ。
琵琶湖の東部に位置する、東近江市平田町。
エコふぁーむ平田 増田伊知郎代表理事:これは滋賀県推奨の『みずかがみ』。高温対策の品種なので結構、暑さに強い。
滋賀県は、高温耐性品種を独自に開発。2013年に滋賀県のブランド米「みずかがみ」を発売した。
みずかがみは、今年発表された「食味ランキング(2023年産)」で、最高評価の「特A」を獲得している。
Q.去年、特Aを取ったのはどう思いました?
エコふぁーむ平田 増田伊知郎代表理事:個人的には当然だと思っているんですけども。ランクを下げるとショックで…。高温対策用に品種改良された米が最終的には取れ高がいいのかな。歴然と感じますよ。
「エコふぁーむ平田」は今年、他の品種を減らし、暑さに強い「みずかがみ」の作付面積を、去年に比べて1.4倍に増やした。
それでも、コシヒカリは今年も作り続けている。
エコふぁーむ平田 増田伊知郎代表理事:昔からコシヒカリファンはいるんです。だからだからコシヒカリを作って、みずかがみも作って、という状況。みずかがみだけ作ったら、販売するのに『え?なんで今年コシヒカリ作らなかったの?』と言う方もいらっしゃるので。
■ファンの多い「コシヒカリ」を超える品種は?
日本人に根強い「コシヒカリ」神話。簡単には崩れそうにないが、米作りの未来は…?
滋賀県 農業技術振興センター 吉田貴宏専門員:ここでは開発中の稲を育てています。暑さに強い稲を作るために、実際に温室の中に植えて、この暑い条件の中でも品質を保てるものを選ぶためのテストをやっております。
ハウスの中は、暑い時期になると、外気よりも1度から2度高くなる。
滋賀県の高温耐性品種「みずかがみ」も、このハウスから生まれた。
滋賀県 農業技術振興センター 吉田貴宏専門員:実際に品種にするためには、暑さに強いだけではだめ。おいしいことも当然必要ですし、病気に強い、たくさん採れる収量性。全て兼ね備える必要性がありますので、それを探し出すのに、非常に苦労しています。大体10年に1個、品種を出せたらいいかなという状況です。
毎年、品種改良をした5万種類の稲を植え続けていて、「これだ!」と思える1本を探している。
滋賀県 農業技術振興センター 吉田貴宏専門員:コシヒカリが品種になって60年ほど。いまだ正直、コシヒカリを超えるブランドになったものがない。品種を開発する者としては、いつかはコシヒカリを超える。コシヒカリを作るのではなく、『この品種でいいんだ』というのを作りたいのは、夢としてはある。
日本の食を支え続ける米作り。今後、コシヒカリを超える存在は現れるのだろうか。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年5月27日放送)
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