眼鏡枠の国内シェア約95%を占める、眼鏡の一大産地、鯖江。鯖江の眼鏡は約200の工程を複数の事業者が分担して行う「分業体制」で生産しています。長年続いてきた分業体制による生産ですが、途中で製造が滞ってしまう問題が起きています。福井県眼鏡工業組合が、この問題に対応するため立ち上がった委員会の取り組みを取材しました。
 
鯖江市のめがね会館で話し合っているのは、県内にある14の眼鏡メーカーです。眼鏡業界が抱えている問題を企業の垣根を越えて解決しようと、2022年に設立された「産地検討委員会」です。
 
福井の眼鏡生産は、約200の工程を複数の専門技術を持った事業者が分担して行う分業体制が基本です。いくつかの生産工程を各事業所が受け持っています。それぞれが技術を磨き、作業能力を上げて、メイドイン福井の「質と効率」を保ちながらここまで発展してきました。
 
しかし事業所の数は年々減少。2001年には鯖江市内に339あった事業所は、20年後の2021年には159社に。コロナ禍を経て受注が戻ってきた中、今起きているのがボト
ルネック=業務の停滞です。
 
産地検討委員会・佐々木英二委員長:
「眼鏡業界は昔から職人の高齢化、後継者不足の問題を抱える中、3年間のコロナ禍で先行きが見通せないと多くの事業所が廃業する事態になっている。その工程がボトルネック(業務の停滞)になったり、リードタイム(製造期間)の長期化が起きている」
 
眼鏡枠の中間加工会社の一つ「フィット技研」では、眼鏡を磨いて傷を落とす「研磨」という作業を請け負っています。現在、従業員のほとんどが70代。最近では納期がかかることなどを理由に、客からの注文を断ることもあると言います。
 
フィット技研・藤沢建一代表:
「最近は歳をとってしまって、作業も遅く能力も落ちている。若い人の応募はほとんどない。眼鏡業界全体でもほとんど来ていない。研磨の仕事は1日や2日ではできない。半年、一年でもできない。技術職なので。来てもらっても教え込まないといけない」
 
佐々木委員長は「客はジャストインタイムで商品を購入して販売したいので、リードタイムの長期化が続くと、国内はもとより、メイドインジャパンのフレームを仕入れている海外の客が離れていってしまう危機的な状況」だと話します。
 
このボトルネック=業務の停滞は、プレスなど別の工程の中間加工会社でも発生しているといいます。現状を打破しようと立ち上がった産地検討委員会が行った対策の一つが、研磨技術の研修ができる場所の整備です。
 
佐々木委員長は「今まで眼鏡の技術を学ぶという研修施設がなかった。この場所で金属研磨の研修をし、ボトルネックになっている研磨職人を増やしていきたい」と話します。
 
また、これまで各メーカーが事業所に外注したり手作業で行ったりしていた工程の中には、社内で機械化できるものもあり、委員会がツアーを組んで代替できる機械を視察する取り組みも行いました。「機械で量産して問題がない工程」と「こだわりが必要な工程」のすみ分けを行い、品質を保った上で作業の効率化につなげる狙いがあります。
 
佐々木委員長:
「鯖江で120年以上続く、先代から積み重ねてきたメイドインジャパンの価値を守っていかないといけない。産地検討委員会を中心に様々な対策を取り、この先も産地が残っていけるようにしたい」
 
分業体制だからこそ専門性によって保ってきたクオリティ。他の業界と同様、人口減少や高齢化という課題に直面している眼鏡フレームの一大産地を守るべく、有志が一丸となって課題と向き合っています。

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