ことし7月3日から新たなデザインの1万円札、5千円札、千円札の発行が始まります。

街にある、飲食店のレジや自動販売機などあらゆる機械を、新紙幣に対応させないといけないわけですが、進んでいるのでしょうか?

■ラーメン店 今の悩みは「券売機の新紙幣への対応」

背脂をたっぷり溶かし込んだ濃厚なスープが売りの、大阪市浪速区にある「横浜家系ラーメン一新家」。

「塩とんこつラーメン」が人気です。材料費高騰の影響で、ことしから20円値上げしましたが、最小限にとどめ、その他の部分でコストカットしながら日々、営業しています。

【記者リポート】「濃厚なスープが麺に絡んでとってもおいしいです!そんなラーメン店を、いま悩ませているのがこちら、券売機の新紙幣への対応です」


ことしは、20年ぶりに紙幣のデザインが大きく変わる年。

福沢諭吉でおなじみだった1万円札は、実業家の渋沢栄一に。5000円札は、女性への教育に尽力した津田梅子に。1000円札は、細菌学で功績をあげた北里柴三郎の肖像に変わります。

発行は7月3日から。いよいよ、近づいてきたということで、ラーメン店では専門業者に依頼し、券売機を新しい紙幣に対応させる作業を行いました。

■更新にかかった費用は約27万円 

更新にかかった費用は、約27万円でした。

(Q.負担は大きい?)
【ラーメン店店員】「大きいですね。1日ちょっとの売り上げ」

それでも、店に券売機は不可欠です。

【ラーメン店店員】「券売機のおかげで、スタッフを1人減らすことができている。お客さまが利用しやすい環境にするために必要だと思う」

■新紙幣には「3Dホログラム」が世界初採用

そもそも、なぜ紙幣を新しくするのでしょうか。

【麻生太郎財務大臣(2019年当時】「偽造抵抗力強化の観点から、おおむね20年ごとに改刷を行ってきた」

長い間デザインが変わらないと、偽造紙幣が出回る恐れがあるため、財務省は20年周期で新しい紙幣を発行しています。

新しい紙幣には、「3Dホログラム」という偽造を防ぐ技術が世界で初めて採用され、お札を回すと肖像が回転して見えるようになっています。


■新紙幣の対応は「メーカーから返答なし」「納期は年末」

街中の新紙幣への対応はどこまで進んでいるのでしょうか。

近畿で、50カ所以上のコインパーキングを運営する企業は、まだ精算機の更新作業が始まっていないそうです。

【コインパーキングを運営 音通・吉田和夫さん】「(精算機の)新紙幣対応は申し込んでいるところ。7月3日までに間に合うかどうかという状況。(メーカーから)きっちりとした返答をいただいていない」

この駐車場は、運営するフィットネスジムの客がひっきりなしに利用することもあって、何とか間に合わせたいところですが、心配な事も…。

【コインパーキングを運営 音通・吉田和夫さん】「新紙幣、実際のものがないので、7月3日に本当に通るのか、分からない。恐らく1週間後ぐらいに、『新紙幣対応』と表記できると思う」

■メンテナンス業者には注文が殺到

ここは券売機の販売やメンテナンスを行う会社です。飲食店や銭湯、自治体などさまざまな顧客を抱えています。

(Q.券売機一台で、おいくら?)
【エルコム大阪営業所 楠元優所長】「1台買うと70万円ぐらい。高額紙幣対応だと100万円超」

いま、注文が殺到していますが、メーカー側の納品が追いついていないということです。

【エルコム大阪営業所 楠元優所長】「例えば30台発注を入れても納品は10台。『残り20台は7月以降になります』とか、メーカーによっては『年末になります』と回答があって、お客さまに案内したら、『そらおかしいやろ!』みたいな話はあった」

取材中にも、近畿のとある自治体から問い合わせが。町の体育館の券売機が壊れたため、これを機に新紙幣に対応した機種に変えたいとのことです。

納品が年末頃になることを知り、今後、どう対応するのか聞いてみると…。

【自治体担当者】「のんびり構えすぎてしまいました。しばらくは旧札に両替することで対応します」


■銀行のATMや駅の券売機はおおむね対応済み 飲料の販売機は追いつかず

では、自動販売機やATMはどうでしょうか。

製造メーカーの業界団体によると、「銀行のATMや、鉄道の券売機は、新紙幣発行までにシステムの改修がおおむね終了する見通し」だということです。

しかし、飲料の自動販売機は台数が多すぎることなどから、更新が追いつかず、新紙幣が使えないケースがあるということです。

新たな紙幣に社会が完全に対応するまでには、しばらく時間がかかりそうです。


■新紙幣発行で「“タンス預金”をあぶりだす」

発行まで2カ月を切っていますが、対応がまだ追いついていない現状のようです。なぜこのタイミングで新紙幣を導入するのでしょうか。
    
当時の麻生財務大臣は、「偽造抵抗力の強化、おおむね20年ごとに改刷してきた」と、話していました。しかし、実は“裏の目的”があるとの見方があります。

第一生命経済研究所の永濱エコノミストによると、「家に眠る“タンス預金”をあぶり出す」活用もあるということです。

「日本の家庭の“タンス預金”は、30兆~80兆円ともいわれており、旧紙幣から、新紙幣の交換の際に、一部が消費や投資に回ることで、経済の循環を後押しする狙いもあるのでは」と話しています。

もちろん旧紙幣も使うことはできるんですが、財務省の思惑もあるのではないかという専門家の指摘があります。

「newsランナー」番組コメンテーターのジャーナリストの鈴木哲夫さんはこのように考えています。

【鈴木哲夫さん】「このような側面や目的もあるのではという分析だと思います。僕も正しいと思います。ただ、こういう狙いがあるという前提で言えば、なんでタンス預金してるんですかという話なんです。高齢者がタンス預金しているのはなぜかというと、まず1つは金利の問題があります。銀行に預けても、お金が増えないという時期がしばらくあって。それと貯金するっていうのは、やっぱり将来の不安です。結局、社会保障とか、年金とか、今、めちゃくちゃでしょ。『貯めとかなきゃ』と思って、みんな貯金しているので、それを紙幣を変えることであぶり出すのではなくて、社会保障とか安心なものを作って、(お金を)使ってくださいというのが本筋なのに、これが狙いだとすれば姑息ですよね」

■「これまでのお札は使えません」などの詐欺に注意

そして新紙幣発行の際には、詐欺に注意が必要だということです。

【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「新しい紙幣が発行されたタイミングは、詐欺グループにとっても、格好の機会になってしまうわけです。『これまでのお札は使えなくなります!新しいお札と交換するので、振り込んでください』などという、電話がかかってきたりすることもあるかもしれませんが、現行のお札も引き続き使えますので、くれぐれもだまされて振り込まないようにしてください」

新紙幣のタイミングを狙っている詐欺師もいますので、十分にご注意いただきたいと思います。

(関西テレビ「newsランナー」2024年5月22日放送)

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