予想されていたとは言え、内容の悪さに言葉を失いました。日本の1‐3月期の実質GDPは2%減というマイナス成長でした。個人消費の失速は明白で、経済運営は正念場を迎えています。
1‐3月期の実質GDPは2.0%減
内閣府が発表した23年10-12月期のGDP=国内総生産は、物価上昇分を除いた実質で前期比0.5%のマイナス、年率換算で2.0%のマイナスでした。
1-3月期は、能登半島地震に加え、不正問題でダイハツ自動車の生産・販売が止まったことから、マイナス成長は想定内でしたが、その幅は予想より大きく、中身も「総崩れ」でした。
個人消費は4四半期連続のマイナス
中でも、GDPの6割を占める個人消費は、前期比0.7%もの大幅減でした。個人消費は4四半期連続のマイナスです。
個人消費が4期連続マイナスというのは、リーマンショック時以来、15年ぶりのことです。
先週の本コラムでふれたように、実質賃金は24か月連続のマイナスと、こちらも同じくリーマンショック以来です。物価高に賃金が追いついていない状況が、個人消費の減少を招いていると言えるでしょう。
本来は、23年5月にコロナ禍からの経済正常化が宣言され、「リベンジ消費」も期待されたはずでした。
イベントや外食、国内旅行など消費が伸びた分野もありますが、GDP統計でみた個人消費全体は、結局、23年4月から1年間、ずっと実質マイナスという、寂しい結果に終わりました。
設備投資も、住宅も、輸出もマイナス
この他の項目を見ても、設備投資が前期比0.8%減、住宅投資が2.5%減、輸出が5.0%もの減と、いわば「総崩れ」の状態です。
プラスになったのは、公的需要の+0.8%だけでした。全く「いいところなし」と言えるでしょう。
ニュースの見出しは、「2期ぶりのマイナス成長」でしたが、前の23年10-12月期は、統計上+0.0%とわずかなプラスに過ぎず、実感としては23年7-9月期以降の3期連続マイナスに近いかもしれません。
日本経済は去年夏から成長していないに等しいのです。
4-6月期はプラス転換の予想
問題は、この先です。エコノミストの多くは、24年4-6月期はプラス成長に転換すると見ています。
不正問題で停滞していた自動車生産が回復すると共に、春闘で妥結した高い賃上げが4月以降順次、実施されるからです。
連合集計の賃上げ率は、現時点で5.17%、ベースアップ部分が3.57%と、バブル期以来の高い伸び率でした。
さらに6月には、1人4万円の定額減税が実施され、これは確実に可処分所得の増加につながります。
減税の後押しで、物価を上回る所得の実現になんとか漕ぎつけ、消費の底入れにつなげたいというのが、岸田政権の思い描くシナリオです。
消費マインド改善が不可欠
しかし、楽観はできません。春闘での賃上げ実現が、働く人全体の給与を、どの程度上がるかは、今後のデータを注視する必要があります。
そして何より、実質賃金が単月でプラスに転化したとしても、それだけで人々が消費を拡大するとは考えにくいでしょう。
なにせ2年にわたる物価高で、人々の消費マインドは委縮し、財布の紐は相当固くなっています。
実質賃金が今後もプラスで推移すると思えるようにならなければ、実際の消費拡大にはなかなか結び付かないのではないでしょうか。
消費マインド改善のためには、まず、物価上昇をモデレートにすること、そのためにも円安を是正することが不可欠です。
また、来年以降も賃上げが続くと期待できることも必要でしょう。さらに、電気・ガス代への補助金復活や、場合によっては、給付金や追加減税といった政策の検討も必要です。
順序が逆の「好循環」へ正念場
本来の「好循環」は、まず需要増大があって、賃金が上がり、物価が上昇するという経路をたどります。
デフレ脱却に喘いだ日本が今やっているのは、まず物価上昇がありきで、そこから賃上げ、需要増大を図るという、順序が逆の、壮大な実験なのです。
だとすれば、息の長い政策支援がなければ、うまく行くわけがありません。政局混迷によって、政策が遅滞するリスクを取る余裕などありません。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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